夜営
馬車での旅二日目の夜、街道のそばにある平原にて馬車隊は初日の夜と同じ様に夜営を行っていた。
乗客達の分のテントまで含めると相当な数だが今日は早々に夜営の準備が始まったので、日が暮れる頃には全てのテントを張り終えてしまっていた。
夜営中は各所で焚き火が起こされており、乗客達にも暖かい食事が振る舞われる。
フィーナも二人分のスープを受け取ると、少し離れた場所で待っていたアルフレッドの所へと戻った。
どこで食事を摂ろうかと辺りを見回してみると、少し離れた場所に一本の広葉樹が立っているのが見えた。
フィーナはアルフレッドを連れ、その広葉樹の下で休む事にした。
広葉樹の根本にマントを脱ぎそれを地面の上に敷きその上にアルフレッドを座らせる。
ーパアァー
周辺に灯りが無いという問題があったが、神力で光の玉を生成しそれを空中に浮かべておく事で良しとした。
これだけ大勢の人達が居る中で隅っこの方に居るわけだから多少の神力の行使も目立たないだろうというフィーナの希望的観測である。
事実、光の玉は照明弾の様に二人の周囲を照らしているが全く騒がれている気配は無い。
光源も場所も確保し二人でゆっくりとスープを頂く事にした。
干し肉と野菜が茹でられた塩コショウ味の簡単なスープだが、温かい食事というのはただそれだけでありがたい。
フィーナがアルフレッドと何気ない話をしながら食事を摂っていると
「ごきげんよう。こちらご一緒させて下さるでございますか?」
一生懸命考えたであろう妙な丁寧語でスープを手にしたエルフィーネが話し掛けてきた。
こうして自由にしているという事は逮捕や勾留等はされなかったらしい。
「…………」
フィーナはエルフィーネを一瞥したのみでまるで何事も無かったかの様にアルフレッドとの会話を再開した。
「ちょっとぉ〜! フィーナちゃん! つれない〜!」
プンスカしながらエルフィーネは二人の前に腰を下ろした。地面に腰を下ろして少しスープを口にした辺りで上から照らされる感覚に気付いた様だ。
「あら、ウィル・オー・ウィスプ? 気が利くじゃない。でも、珍しい色してんのね〜」
と、それほど気にした様子も無く一人で勝手に納得してくれた様だ。
「フィーナさん? ウィルオー……って何?」
アルフレッドが不思議そうな顔をしてフィーナに尋ねてきた。
精霊魔法については書物から得られる程度の知識しか無いが
「光の精霊の事ですよ。」
フィーナの言葉を聞いてアルフレッドは興味深そうに見上げている。
エルフィーネが目の前に居る以上頭上の光がウィル・オー・ウィスプでは無い事を話す訳にも行かず……ただただ苦笑いするしか無かった。
「そういえばエルフィーネさんはなんでここに居るんですか?」
自分でも驚く様な冷たい声でフィーナはスープを堪能中のエルフィーネに声を掛ける。
そもそも、なぜ彼女はここに居るのだろうか?
今回は南の森で執り行われる慰霊式典に出席する為の馬車旅である。
一流とは言え冒険者であるエルフィーネが式典で祈りを捧げて犠牲者達を慈しむ行動を取る様には思えない。
フィーナの質問にエルフィーネはわざとらしく考える素振りを見せる。
「……いやね、王都で待ってるよりあなた達の近くに居た方が色々面白いかな〜って」
どうやら、単に暇つぶし目的でついて来た様だ。
こんな事なら王都で何かしら仕事を押し付けて留守番を強制しておくべきだった……と、フィーナは心から後悔していた。
「それじゃ、私達はもう休ませて貰いますので」
食事を終えた二人はあてがわれたテントで休む事にした。
その夜、二人のテントに潜り込んできたエルフィーネを叩き出すという予定調和が起きたのは言うまでも無い。
翌朝、夜営が行われた街道沿いの空き地は騒々しかった。
大勢の人達の雑踏音に目を覚ましたフィーナがテントの外に出てみると、街道の反対側に馬車が続々と南北からこの場所に集まってきているのが見えた。
ふと南側の街道を見てみると豪華絢爛な白い馬車がこちらに近付いてくるのが見える。
そういえば付近にいる兵士達の数も昨日より明確に増えている。どうも、今回の慰霊の儀に出立した者全てがこの場所に集まってきている様だ。
聖職者達は一箇所に集められておりフィーナと同じ様に事の成り行きを見守っている。
兵士達の動きを見ていると、まるで防御陣地を作っているかの様だった。
木の杭を地面に打ち込んでいて侵入防止用の柵としていたり、攻城兵器の一種であるバリスタを空き地の各所に設置していたりと明らかに戦闘の為の準備を進めている。
南からこちらに向かってきていた白馬車が空き地に着くと
「おおー! 王女様がお見えだ!」
「設営班! 王女プリシア様にー敬礼!」
近くで作業をしている兵士達からは感嘆の声が漏れた。
また、随行する護衛部隊の指揮系統の中枢である司令部も到着した様だ。
ただ成り行きを見守る事しか出来ていないフィーナの元に駿馬に乗った騎士がやってきた。
「馬上から失礼致します。フィーナ殿、グレース様がお呼びです。申し訳ありませんが同行願います」
彼はそう告げると空き地の中央に設置されている一際大きなテントを指差した。
どう見ても司令部用のテントである。そんな場所にどうして自分が呼ばれるのかさっぱり分からない。
フィーナはテントの中にいるアルフレッドを起こすと、彼と共に司令部のテントに向かうのだった。
ちなみにテントの中ではエルフィーネも爆睡中だったのだが彼女は放置しておく事にした。
下手に連れて行くとろくな事にならないという予感がしたからだ。
フィーナとアルフレッドは騎士に案内されるまま司令部と思われるテントの中に通された。
中には長机が置かれており王女であるプリシアとその付き人らしき数人がその後ろにおり、左隣りに高位の神官らしき老人が座っており左側は神官で席が占められていた。右側はグレースを筆頭に各部隊の隊長らしき面々が腰掛けていた。
「あ、失礼しました〜……」
見るからに今後の行動を決定する会議が始まりそうな雰囲気にフィーナは場違い感からテント入り口の幕をそっ閉じしたが、それは何の意味も無かった。
「フィーナ殿、遠慮なさらずお入り下さい」
中からグレースの声が聞こえてくる。あまり待たせてしまってはそれこそ失礼にあたる。
自分がここに呼ばれた理由は未だに分からないが………フィーナは意を決してテントの中へと入っていくのだった。




