雑貨店
ジャイアントライスフィールド雑貨店にて防寒着を探していたフィーナ達三人はようやく冬用の衣服を扱っている売り場を見つける事が出来た。
「へぇ〜、色々あるんだねぇ〜。でもコートは要らないよね? 学院で貸して貰えるんだし」
防寒着売り場をざっと見たアリアが感想を漏らす。コート類が多いのは、冒険者が既に購入している装備品を生かす為である。
既存の装備品の上からコートを着込めばそれだけで一応の寒さは防げるからだ。
それだけに現代である様なダウンジャケットの様ないかにも防寒着といった商品は無い。
精々、寒冷地に住む地元民が着る民族衣装があるくらいでしか無い。
様々なコートが並ぶ売り場で右往左往しているそんな三人に
「おや、アリアちゃんだったのかい。可愛くなっちゃってオバちゃん見違えちゃったよ! アッハッハッ!」
さっきのダミ声の店員が声を掛けてきた。
「おばちゃ〜ん、今度冬山に行くんだけど何を買えば良いかなぁ〜?」
アリアは話しかけてきてくれた店員に間髪入れずに尋ねている。その辺りの判断は早い。
「そうだねぇ。厚着していくのは前提として……汗とかの対策もしておくと良いかな?」
「汗……ですか?」
寒い冬山で汗を掻くなどピンと来ていないフィーナが疑問をそのまま口にする。
「ほら、厚着したら冬でも汗ばんじゃうからねぇ」
店員のオバちゃんは仕事柄冒険者達からも情報を得ているのだろう。まるで見てきた事の様に話を続ける。
「そうじゃなくても冬の山は天気が変わりやすいから雨に打たれたり雪に見舞われたりと身体が濡れちゃう事が多いんだよ」
ダミ声のおばちゃんの蘊蓄が続く。彼女の話では汗で冷やされる身体は雪山では命取りになると言うのだ。
また、ポピュラーな木綿生地では吸水するとその水分が凍ってしまい更に体温を下げてしまう要因となるのだ。
また、保温性も無くなってしまい雪の振る冬山では木綿生地の衣類は避けられている様だ。
そんな環境では、通常の木綿素材のインナーよりは絹やウールの素材の物が良いと
「今なら特別サービスしちゃうよ? 女の子用のインナー上下! さあ、買った買った!」
フィーナ達にシルク製の純白インナー上下を奨めてきた。商売人だけあってかフィーナとパトリシアが貴族令嬢と最初から分かっていたのだろう。
「あ、あの……お値段はどれくらいなんでしょうか?」
「本当なら一セット銀貨七枚だけど……う〜ん、五枚かな?」
この異世界では銀貨一枚は現代の某島国換算で一万円程の価値となる。
店員の言葉にフィーナ達はそれぞれ自分達の財布の中身と相談を始めた。
(……何とかなりそうですね)
財布の中の硬貨が何とか足りているのをフィーナが確認して安堵していると
「わ、私はなんとか大丈夫です」
パトリシアも実家からの仕送りの手持ちで支払いが出来る様だが
「あ、あはは。あたし家に帰ってお母さんに頼んでくるね!」
アリアはそう言うと慌ただしく雑貨店を出て行ってしまった。そんな彼女を見送ったフィーナは
「あの……他に冬山に必要そうな物って何かありますか?」
何かと物知りなダミ声のオバちゃんに尋ねてみる事にした。すると
「汗対策としては絹も良いんだけどねぇ、生地が薄いのが欠点なんだよ。ぶっちゃけ絹だけだとあったかくない」
確かに今現在は高級な上下の下着を購入しただけで、冬山の寒さに備えた物は何も買えていない。
「そこで、このウールのセーターとタイツはどうたい? ちょっと値は張るけどあったかいよ〜! お値段は金貨一枚」
店員さんからの畳み掛けられる営業トークに耐性のないフィーナもパトリシアも、彼女のマシンガントークにすっかり感心していた。しかし
「私は……今回はムリみたい」
財布の中身を確認したパトリシアは苦笑しながら財布をポケットにしまう。
(あ……)
同じ様に財布を確認したフィーナだが、金貨は一枚しか見当たらない。それを使ったら残りは銀貨数枚と雑多な銅貨のみとなる。
(う〜ん……)
少し考えたフィーナだったが
「すみません。私、セーターとタイツのセットも頂きます」
防寒の為に背に腹は代えられないと感じたのかフィーナは高価な着衣を購入する事に決めたのだった。
「あいよ。シルクのインナーはサイズ合わせが必要だけど……うん、アンタに合ってるのを入れておくから安心しておくれ」
購入が決まったら気が変わらない内にお会計とばかりに、店員さんはお買い上げの商品をそれぞれ個別の紙袋に入れていく。
大きな荷物となったのはフィーナだけであり、パトリシアが購入したのは火起こしセットとシルクのインナーのみである。
「はいはい。お嬢ちゃんのもサイズ合ってるからね? DかEだろうけどピッタリだから!」
こんな大声で話すオバちゃんの行動も今なら確実に炎上案件だが、ここは異世界なのでギリセーフである。
荷物を受け取ったパトリシアに対し何かを決した表情のフィーナが
「パトリシアさん、あの……こちら受け取って頂けますか?」
緊張した様子でセーターとタイツの入った紙袋を差し出した。
「え……? あの……」
金貨一枚分の高価な品物を差し出されたパトリシアはキョトンとして戸惑っている。
「あ、あの……夏休みにいつもお邪魔していますし、この間も助けて頂いたからそのお礼です!」
まるで付き合いたての高校生カップルの様に初々しい二人の様子に店員のオバちゃんが
「友達の気遣いは黙って受けてあげな? うちからもこれおまけだよ!」
全てを分かった様に微笑みながらパトリシアに語り掛けながら小袋をパトリシアとフィーナの二人に渡す。
「あ、ありがとうございます。フィーナさん! それにオバ様も……」
パトリシアがフィーナと店員のオバちゃんにお礼を述べた辺りで
「おばちゃ〜ん! お金持ってきたからさっきのちょ〜だ〜い!」
アリアが元気に雑貨店に戻ってきた。金貨三枚を手にしたアリアは無事に店員のオバちゃんにタゲられ、この後に有り金を吸い付くされる事になったのである。




