母娘の絆
「おはようございます。アリアさん、パトリシアさん」
翌日のプロムナード魔法学院、正門付近にて馬車から降りて共用棟に向かって歩いていたフィーナは、少し先を歩いている親友二人に大きな声で挨拶をした。
声の感じからいつになく元気なフィーナだったが、昨日の塞ぎ込んでいた落ち込んだ雰囲気はすっかり消えていた。
そんなフィーナの雰囲気は親友二人も感じ取った様で
「おはようございます、フィーナさん。元気になられたんですね」
「おっはよ〜フィーナぁ! 何か良い事あった?」
パトリシアもアリアも笑顔で迎えてくれた。そんな二人にフィーナは
ーキラッー
勿体ぶる事無く右手の薬指に光る金色の指輪を二人に披露する。
「お母様が御守りとしてご用意して下さったんです。これを身に着けていれば大丈夫と……」
プロムナード魔法学院にも校則があり、過度な装飾品の着用は禁じられている。
それでなくとも、貴族の子女が集まるこの学校では目立つ物を身に着けるのはイジメの原因にもなり易い。
そこはレアの権力もあるが、この指輪はあくまでマジックアイテムの一種として学校には申請してあるのだ。
「へぇ〜、すごーい! やっぱり魔法の威力上がったりとかすんの?」
鍛冶屋の娘なだけあってアリアは珍しい装備品には興味がある様だ。
「あ、いえ。何か特別な力があるとは聞いていないのですが……」
よくあるRPGの様に魔力が上がったりとかは無いらしい。女神の特別品であるのに信仰心に恩恵がある訳でもない。
しかし、不思議と母を身近に感じられる安心感にフィーナから学校生活に関する不安は消え去っていた。
二学期の学院生活も順調に日々が過ぎていった。タチアナ達による嫌がらせは無くなり……また、バーキン達も停学からの自主退学と言う形で知らない間に学院を去っていた。
比較的平和な学院生活が続いていたある日……
「フィーナさん、聞いた? 今年の秋の遠足は山越えの登山だって」
異世界では王都や地方の街や村を除けば殆どが魔物達のテリトリーである。
従って登山やワンダーフォーゲル的なアウトドア文化は発展していない。
文字通り命がけの行動となるため、冒険者が仕事の為に必要に迫られて屋外でキャンプという形で存在する程度なのだ。
今回の山越え登山は三日ほど掛けて山の麓に到着、そこから山越えを行い反対側の街で一泊、翌日再び山越えを行い学院に帰ってくる行程である。
一週間強の旅となる為事前の準備が非常に重要となる。もっとも、授業の一環という側面がある為、必要最小限の道具や食料等は学院側が準備してくれるのだが……。
「それじゃあ、他にも必要そうなの買いに行かなきゃね。放課後辺りに街に行こっか?」
遠足のおやつを買いに行こうなノリでアリアが提案してきた。
学院が支給してくれるのは旅人のコート、日数分の固めのパン、干し肉と飲料水程度なので他に何か必要な物があるのなら、各自で用意しなければならない。
「そうですね。暖かめの防寒着とかもあれば良いんですけど……」
旅人のコートはある程度の寒さは防いでくれるが、雪の季節の前とは言え山の上は寒くなる。
「それなら家の近くに冒険者御用達の雑貨屋さんあるから行ってみよ?」
アリアの提案によりフィーナ達三人は放課後に冒険者用の雑貨屋に向かう事を決めたのだった。
アリアの案内で王都の雑貨屋にやってきたフィーナ達三人、目抜き通りの冒険者ギルドの近くにあるお客でごった返しているお店である。
ジャイアントライスフィールド雑貨店と大きな看板が掛けられた大きな店構えの雑貨店。
店には、外目にも分かる様に様々な商品が扱われているのが分かる様に陳列されている。
フィーナ達三人が恐る恐る入店すると
「いらっしゃ〜い! ゆっくり見ていっておくれよ? 分からない事があったら何でも聞いておくれ」
ちょっと太目の中年女性が元気なダミ声でフィーナ達を迎えてくれた。
店に入って見回してみると、店内には様々な格好の冒険者達がそれぞれ必要な物品を物色している。
冒険者達がメインの客層であるこの店内でフィーナ達の魔法学院の制服は若干以上に浮いていた。
「まずは何を買っていこっか?」
雑貨店まで案内役を務めてくれたアリアだが、冬山に行くのに何が必要となるかまで把握していなかったらしい。
「とりあえず防寒着を見てみましょう」
フィーナがそもそもの目的である防寒着を探してみる事を提案する。
目的を再確認したフィーナ達がそれらしき売り場を探して店内を歩いていると
「あ〜! これなんか良いんじゃない? ほらっ!」
売り場の棚に、ある物を見つけたアリアが商品を手に取りフィーナとパトリシアに見せる。
「アリアさん。それって……?」
アリアが持っている物が分からずパトリシアが尋ねる。見た目、小物が入った革袋と言った感じだが……
「火起こしセットだって。これとか冬山とかで使えそうじゃない?」
試しに革袋の中を見てみると、中からは火打ち石、数枚の乾いた紙、束ねられた乾燥した小枝が出てきた。
火打ち石そのものは夏休みの時に夜営の際に使っていたので馴染みはある。夏の時は乾いた枝などその辺に落ちていたので集めるのに苦労は無かったが……。
三人に冬山登山の経験は無いものの、火を起こすのに苦労するであろう事を察した三人は火起こしセットを人数分お買い上げする事に決め、再び防寒着の捜索に戻るのだった。




