忍び寄る罠
「引っ掛かったわね! ハイエルフ! ここに逃げ場は無いし誰も助けに来ないわよ!」
板の向こうからフィーナの背後に現れたのはタチアナとアマンダを含めた取り巻き達だった。
「くっ……!」
ータッ!ー
咄嗟に距離を取るフィーナだったがこの先は行き止まりでしかない。だが、タチアナ達の意図が分からない以上は距離を取るのが安全に思えた。
「アンタ達、あのエルフを滅多打ちにしてやるのよ!」
タチアナの号令一下、取り巻き達はアマンダを除いた全員が魔法の詠唱を始めた。
(こ、攻撃魔法をこんな狭い場所で……?)
一方のフィーナに逃げ道は無い。逃げ道どころか魔法を回避するためのスペースも蹴り技を繰り出すための最小限の空間すら無い。最奥こそ多少のスペースは広がっているが……
「マジックミサイル!」
「アイスブリット!」
「ストーンロック!」
「ウインドカッター!」
取り巻き達が唱えてきたのは各属性初歩の魔法だが、閉所で一度に撃たれたらひとたまりもない。
「慈愛の女神様、万難を排する盾をお授け下さい……ホーリーウォール!」
ーパアアァァ!ー
寸でのところでフィーナが光の盾を発動させた直後
ーバシッ! ガンッ! ドンッ! キーン!ー
立て続けに放たれた魔法を光の盾が弾き返していく。当然だが、魔法は一度撃ってしまえば再び使うのには再度詠唱が必要となる。
皆が一度に放ってしまえば当然隙が生じるのは自明だが
「ファイアーボール!」
息切れを起こしていたアマンダが詠唱の長いファイアーボールを放ってきた。
ーゴオオオオッ!ー
スペースの幅いっぱい使うくらいの大きな火の玉がこちらに向かってくる。
「くっ!」
ードォーン!ー
フィーナはホーリーウォールが解除されない様に神に祈り続けるしか無かった。
(とにかく……今は下がりましょう)
ホーリーウォールと共に後退するフィーナは少しでも広いところで戦おうと考えていた。
距離を空ければ多少なりとも魔法の威力は減衰するし、広ければフィーナの白兵戦を活かす事も可能になる。
一方、ホーリーウォールに防がれた火の玉は破裂し熱風が辺りに広がる。
ーバシッ! ガンッ! ドンッ! キーン!ー
間髪入れずに魔法の連弾が再び襲いかかってきた。
(ど、どうすれば……?)
このままではジリ貧は確実だが、祈りさえ切らさなければホーリーウォールが破られるはずは無い。
それにこれだけ盛大に魔法を使っていれば誰かが気付いて様子を見に来てくれるはず……。
あるいはタチアナ達の詠唱の隙をうまく突く事が出来れば……自力での脱出も可能かもしれない。
(とにかく祈りを切らさない様にしないと……!)
今、自分がすべき事を整理しタチアナ達の魔法に集中していたフィーナだが、自身に静かに忍び寄る存在に気付く術は無かった。
(今度はファイアーボールは無し……今なら!)
二度の連弾を防いだフィーナがアマンダに隙が生じたのを確認し、光の壁を解除して駆け出そうとした瞬間
ーズズズ……ー
「きゃっ!」
突然足元が緩んで身体が沈んでいく感覚に襲われた。フィーナは反射的に自分の足元を確認する。すると……
「な、何これ……!」
自分の立っている地面に黒い円形状の何かが広がっており、既に両足の自由は利かなくなっている。
黒い何かはまるで泥炭の様にゆっくりとフィーナを沈めてきている。まるで彼女を取り込もうとするかの様に
「や……いやあっ!」
フィーナは光の壁に両手を置き、寄りかかりながら黒い地面から何とか足を引き抜こうとする。
「離してっ! 離してぇっ!」
ーググッ! グググッ!ー
だが、フィーナがどんなに力を入れて藻掻こうとも、黒い地面から足を引き抜く事は出来なかった。
「あぎゃ! あぎゃ!」
主人の異変にサラマンダがフィーナの肩を掴んで何とか持ち上げようとする。
「さ、サラマンダーさん、誰か助けを呼んできて……! お願いします!」
フィーナからの指示に、サラマンダーは離れる事を一瞬躊躇ったが
「あぎゃぎゃ!」
大急ぎで彼は学院の校舎へと飛んでいくのであった。その時
「あらあら、大変ねぇ。手伝ってあげましょうか?」
光の壁のすぐ向こうからタチアナの声が聞こえてきた。
「ひっ!」
タチアナ達の接近にまるで気付いていなかったフィーナは心底驚いてしまった。絶え間なかった神への祈りを忘れてしまう程に……
ーフッ……ー
「あっ!」
その瞬間、光の壁は消え去ってしまい、光の壁に重心の一部を預けていたフィーナはバランスを崩して前のめりに黒い地面に手を付いてしまうのだった。
ーズニュー
「あうっ!」
黒い地面に付いた両手に硬い地面の感覚はやはり無く、泥炭の様に泥濘んだ泥炭に沈んでいく感覚しか無かった。
「ここで良いわ! 止めなさい!」
フィーナの四肢が黒い地面に沈み込み、タチアナ達に対して四つん這いの様な体勢になったところでタチアナが叫ぶ。
ーガシッ!ー
「あぐっ!」
同時にフィーナは頭に誰かの足が乗せられた感覚を感じた。
「いい気味ね、エルフのお嬢様ぁ? 無力な自分の惨めな姿はどうかしら?」
ーググッ!ー
「泣いて詫びたら許してあげる!」
タチアナはフィーナの頭を黒い地面に沈めようと足に力を加えてきた。対するフィーナも必死で抵抗する。
「やだぁ……止めて! 止めて下さいっ……!」
身体の沈下は止まっているとは言っても頭を沈められたら死んでしまうかもしれない。
死の恐怖を肌で感じたフィーナはタチアナの暴力に必死に抵抗する。
「しぶといわね。アンタ達、たっぶりお礼してやんなさい!」
フィーナの必死の抵抗にタチアナは取り巻き達にフィーナを痛め付ける様に指示を出した。
「良いザマね! たっぷりと甚振ってやるわ!」
ードズッ!ー
「かはっ!」
第一弾を放ってきたのはアマンダだった。重量級の彼女の蹴りがフィーナの脇腹に刺さる。
「あんた前々から気に入らなかったのよ!」
「エルフのくせにお高くとまっちゃってさ!」
続けて他の取り巻き達もフィーナへの暴行に加わってきた。
ーガッ! ゲシッ!ー
「うぐっ! ぐうっ!」
反撃したくても身を守りたくても四肢の自由が効かないフィーナには痛みに耐える以外の選択肢は無かった。
「先生にまで気に入られちゃって! あざといったらないわよ!」
「良いザマね。これが人間様を舐めた罰よ!」
ーバキッ! ドガッ!ー
「ぐふっ! うあっ!」
五人に蹴られ続けフィーナの意識が朦朧とし始めた頃……
「ねぇ、飽きてきたからバーキン達呼んでくるわ。こんなエルフ、たっぷり輪姦してやりましょ」
タチアナが素行の悪い男子生徒三人組をこの場に呼んでくる事を思い付いた様だ。
「じゃ行ってくるから」
タチアナはそう言うとフィーナや取り巻きを残して校舎に行ってしまった。




