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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第八章 貴族令嬢編

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夏休みの終わり

 アルフレッド王子は空を見上げて花火に見惚れているフィーナの後ろに回ると彼女の両肩に手を置いて

「フィーナ、失礼するよ」

 フィーナを自身に寄りかからせる様に引き寄せた。

「え……?」

 浴衣姿で踏ん張りも効かないフィーナはされるがままにアルフレッド王子様に身体を預けるしかなかった。

「どうだろう、これなら首も疲れないんじゃないかな?」

 フィーナの背後から耳元に囁くようにアルフレッド王子が語りかけてきた。

「あ、あの……普通に立てますから……」

 重心が後ろに移動してしまった為、フィーナはアルフレッド王子に身体を預ける事しか出来ない。

 いつもならここでサラマンダーが王子を止めるのだが、現在はシュレイザ先輩のところに出張中である。

 アルフレッド王子に向き直りパーソナルスペースを確保しようとするが、両肩を彼にガッシリ支えられており

「あの……デイヴ? 離して頂いても……?」

 すっかり身体を預けてしまっているフィーナがアルフレッド王子に尋ねるが

「フィーナ、遠慮する必要は無いんだよ。僕達は婚約者同士じゃないか」

 いつの間にか両肩を支えていた両手は後ろからフィーナを抱き締める様に回しており、完全に二人の世界に誘おうとしている。

 ここぞとばかりに既成事実を作ろうとしている辺り、アルフレッド王子も人魚達と同じ位には必死である。

「あ、あの……他の皆さんもいらっしゃいますから、もう少し距離感を……」

 フィーナはアルフレッド王子に身体を預けながら何とか離してもらおうと柔らかくお願いする。

 もはや、打ち上げられている花火の事など二の次三の次となってしまっている。アルフレッド王子の顔はフィーナのすぐ横、吐息が掛かりそうな距離にまで近付いている。

(わ、私達にはまだ早い……ですよね)

 アルフレッド王子の意図は明白だった。幻想的な風景にあやかって雰囲気のままに自分と口づけを交わすつもりだろう。

 皆の意識が花火に向いているとは言え、学友達の見ている前で口づけは流石に遠慮したい。

 しかし、自分に好意を寄せてくれている彼を拒絶するのは若干気が引ける。そんなフィーナが状況に流されようとしていたその時

「お前達〜? 婚約者同士良い雰囲気だからと言って、教師が慮ると思うなよ〜?」

 フィーナを後ろから抱きしめているアルフレッド王子の横から声を掛けてきたのは、満面の笑みを浮かべているメアリー先生だった。

「せ、先生! こ、これはその……彼女が疲れている様だったので……その……」

 普段から品行方正、模範的な生徒であるアルフレッド王子はしどろもどろになっている。

 共学なのに校舎ごと男女で分けている学院の教員だけあってメアリー先生は、生徒同士の男女の交友には厳しいらしい。

 アルフレッド王子とフィーナの関係は半ば公然の秘密であり、メアリー先生も知っている事である。

 しかし、公然と学生規範に反する事を見過ごす気は無い様だ。


ーグイッ!ー


「痛ててててっ!」

 耳たぶを摘まれたアルフレッド王子はたまらず悲鳴を上げる。

その時に緩んだ両腕からフィーナはスルリと抜け出してしまった。

「アルフレッド・デイヴィット・プロムナード君。君には少し生徒指導を行いたいのだが?」

 アルフレッド王子の耳たぶを摘んでいるメアリー先生はさらに耳を持ち上げアルフレッド王子を涙目にしている。

「め、メアリー先生! あそこにも風紀を乱している生徒が居ますよ! ほら!」

 アルフレッド王子は自分から矛先を逸らすべく、視界に入ったエリオットとシーディの二人を指差して必死にアピールするが

「あの二人か、手を繋いでいるだけだし初々しくて微笑ましいじゃないか」

 メアリー先生は全く取り合おうとしない。

「ぼ、僕達は微笑ましく無いんですかぁ〜?」

 こうしてアルフレッド王子は飛空艇の裏に連行されていくのだった。

(はぁ……)

 そんな婚約者の情けない後ろ姿を見送るフィーナのアルフレッド王子に対する心象は大暴落を起こしていた。

 特に自分が助かるためにエリオット達を差し出そうとしたアルフレッド王子の情けない姿はフィーナの心象を著しく悪化させていた。

「フィーナさん? アルフレッド王子……連れて行かれちゃって大丈夫?」

 アルフレッド王子の後ろ姿を眺めていたフィーナにパトリシアが話しかけてきた。

「デイヴなら大丈夫ですよ。それより、花火を楽しみましょう」

 フィーナはパトリシアを伴って皆の輪の中に入っていく。


ードーン! ドーン! ドーン!ー


 その後もフィーナ達は空に浮かび上がる様々な花火を楽しむのだった。



「レア、フィーナのヤツはどうだ?」

 飛空艇の船長室にレアと侍女ノルン、そして珍しく女神姿のフレイアの姿があった。

 時間の流れが違う異世界と天界であっても、異世界に何十年も降りっ放しというのは仮にも中間管理職であるフレイアにはリスクがある。

「天界じゃ異世界転生候補者が少し溜まってきてな。今回はバーコードハゲに見つかる前に捌けたから事なきを得たんだが……」

 フレイアはそこまで話すと何かを気にする様に

「あ〜、この異世界で何か不都合は起きなかったか?」

 まるでこの異世界で何かが起きていたとしてもおかしくないと言わんばかりだ。

「貴女、何かした?」

 ノルンが淹れた紅茶を飲みながらレアがフレイアに尋ねる。

「あ、え〜と……一人転生者をこの世界のこの時代に送ったんだ。行き先選定が面倒臭くなってな」

 レアからのやや冷たい眼光に当てられたのかフレイアはしどろもどろになりながら事情を話し始めた。

「エリオットとか言う男が転生先だ。ほら、女神が三人も居るんだから何が起きてもすぐに何とか出来るだろ?」

 フレイアの仕事のいい加減さは相変わらずな様だ。

「そうだったの……。フィーナちゃんから聞いていたけど、彼がおかしくなったのは貴女が原因だったのかしら?」

 レアはフィーナから聞いていたエリオットの変貌についてフレイアに語り始めた。

「い、いや。転生者には特に力は与えてないし、転生開始はエリオットの誕生に合わせたはずだ。記憶もまっさらにしていたはずだし……」

 自分の仕事に確証が持てなくなってきたのかフレイアの声がどんどん小さくなっていく。そして

「今はとりあえず大丈夫なんだな? よし、後は頼むぞ」


ーパアアァァー


 そう言うとフレイアは逃げるように天界に退散してしまった。

「はぁ……フレイア、大丈夫なのかしら?」

 フレイアが居なくなった空間を眺めながらレアが呟く。

「今のところ、アカシックレコードに異常も変化も出ていません。件の転生者は無視しても大丈夫でしょう」

 ノルンも定期的に天界に戻っている為、この異世界のアカシックレコードも絶えず確認している。

 残念ながら今のところはフィーナとアルフレッド王子の結婚エンドは動いていない様だ。

 逆から言えば世界を根底から覆す様な大異変は起きないとも言える。

「まぁ、運命を変えられるかはフィーナちゃんの頑張り次第かしらね」

 レアは船長室の窓から見える打ち上げ花火を眺めながら、眼下で皆と一緒に花火を見上げている愛娘を気に掛けるのだった。

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