放課後の図書室
共用棟の図書室の一角では昼間の食堂と同様のテーブル配置で魔法の勉学に勤しむ集団の姿があった。
「あー、何で魔法の詠唱ってこんなに覚え辛いんだろ〜! こんなん無理〜!」
突然大声を上げ机に突っ伏す金髪少女の頭に
ーバシッ!ー
「いだっ!」
薄めの本による一撃がアリアに無慈悲に加えられた。
「図書室では静かにしろ。他にも読書してる者達が居るんだぞ」
本を叩きつけたのはフィーナ達の担任教師のメアリー先生である。
図書室で自主学習しているフィーナ達の指導を行っている彼女だが、半分位は面白半分で付き合ってくれている様だ。
「氷魔法とかつまんないだろ。バーンと派手に焼き尽くしてこそ魔法だろ」
火炎魔法に一芸特化しているシュレイザ先輩はボヤきながらも他属性の魔法を勉強している。
「シュレイザ先輩が後輩になってしまっては僕も気まずいですからね。進級目指して頑張りましょう」
本来成績優秀なアルフレッド王子がこうして補修をする必要は全く無いのだが……
「エンチャント魔法が使えたら攻撃に幅を持たせられますね」
図書室から見つけ出した古文書を見てフィーナは自身の戦い方の向上を考えている。
「そうだね。でも君が最前線に出る必要は無いんだ。それは僕の役目だ」
アルフレッド王子がすかさずフィーナに絡んでいこうとする。隙あらばフィーナに絡もうとするアルフレッド王子は、一見健気に見えるかもしれないが
「二年生になったら、課外授業も増えてしまうんです。必ずしもデイヴと一緒に行動出来る訳ではありませんし……」
婚約者からの塩対応にはさすがのアルフレッド王子も落胆の色を隠せなかった。
「二年生になると難しい事、勉強するんですね〜。私にも出来るのかな……」
フィーナの近くで自習に゙精を出すシーディは二年生のカリキュラムに感嘆の声を上げている。
「シーディ。魔法なんて魔力を込めてぶっ放せばそれで終わりなん。難しく考える必要なんか無いさ」
シーディがフィーナにべったりなのが面白くないのかエリオットが口を挟んできた。
彼の話は天才肌の助言であり、一般の人間には真似の出来ない芸当である。
「私はフィーナお姉様みたいに、守られるだけじゃなくて自分で困難を打ち砕ける様になりたいんです」
シーディの中ではフィーナの評価のストック高が止まらない様だった。そんな過剰評価とも言えるシーディからの尊敬の眼差しにフィーナは苦笑いでやり過ごす事しか出来なかった。
一学期も終わりを迎えつつあったある日の放課後
「私、今年も実家に帰ろうかと思ってるの。両親にもフワフワのパン作ってあげたいし……」
ひょんな事から皆の夏休みの予定の話になった。パトリシアは今年も帰省するつもりであるらしい。
その日はそれだけでその話題は終わったのだがその週の週末、アインホルン宅にて
「どうしたの? フィーナちゃん。ママに何か頼み事?」
夕食の最中に愛娘が何らかの話を切り出そうとしているのが丸分かりであった様だ。
「あの、今年もパトリシアさんの実家にお邪魔したくて……」
大自然の宝庫と言えるパトリシアの実家はフィーナにとってたまらなく魅力的な旅行先であるらしい。
「ただ、馬車では定員オーバーになってしまいそうで……」
フィーナは同行者が増えてしまう可能性を危惧していた様だ。
そんな愛娘に対しレアは
「心配しないで。百人でも二百人でも誘っていらっしゃい」
全く動じる事無くフィーナに告げる。
「お母様、ありがとうございます」
フィーナはそう言うと夕食の席を後にし自室に戻っていく。そんなフィーナの後ろ姿を見ながらノルンが
「レアさん、どうするつもりですか?」
貴族の侍女モードではなく女神モードでノルンはレアに問う。そんなノルンに対しレアは
「ん〜、大人数を乗せられる空飛ぶ何かを用意しちゃえば良いんじゃない? そうねぇ、飛行船とか?」
ーパアアァァー
レアは善は急げとばかりに神力を発動させて何らかの空飛ぶ何かを生成してしまったらしい。
「レアさん。何を作ったのかは知りませんけど歴史の整合性は大丈夫なんですよね?」
ノルンはバタフライエフェクトを心配している様だが……
「大丈夫だって♪ それじゃ一目見れば納得するわよ?」
ーパアアァァー
レアはノルン共々無理矢理神力で転移していくのだった。
転移先は青白いラインが縦横無尽に走る古代遺跡の様な施設だった。
「なんですか? ここは……?」
無理矢理転移させられたノルンは現状が全く理解出来ていない。
「ほら、これなら世界観に沿ってるから大丈夫でしょ?」
ーバン!ー
レアの言葉とともにサーチライトで暗闇に映し出されたのは木造の帆船の様な建造物だった。
帆船とは言っても幌は無く、船体のあちこちにプロペラの様な回転する何かが取り付けられている。
「飛行船にしようかと思ったんだけど風の影響バンバン受けちゃうしファンタジーな世界なら飛空艇の方がアリよね?」
レアは一瞬で創り上げてしまったロストテクノロジーについてノルンに語るが根底にあるのはフィーナを喜ばせたいという想いが一番であるらしい。
「名前、何にしようかしら? ヒンデンブルク号とかにしちゃう?」
「すぐ落ちそうな名前は止めて下さい」
ノリノリで飛空艇の名前を考案するレアだが、彼女がどこまで本気かはノルンにも推し量る事は出来なかった。
「アクロンとかメイコンでも良いと思うんだけどね〜」
「そこまで墜落させたいんですか……」
レアのネーミングセンスに頭を抱えざるにはいられないノルンであった。




