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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編

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宿屋の夜

 その日の夜、お手伝いとしてホールに出たミレットとプロージットと入れ替わり、フィーナは物置の炊事場でアルフレッドの夕食の準備をしていた。前述の二人には当然メイド服を着てもらう事に。

 二人にも自分の心労を味わってほしいというフィーナのはた迷惑な負の感情の表れであった。

 ちなみにミレットは前回と同じピンク色、プロージットは黒色にしておいた。

 そんな二人がホールに出た時に常連の男性客から大きなどよめきが上がったところまでは見ていたが……二人にはぜひとも仕事を頑張ってもらいたいものである。

 本日のアルフレッドの夕食の献立は生野菜のサラダに豚肉のソテー、パンとカットオレンジとなっている。食材はいつもの収納空間に鮮度そのままでしまっておけるためその辺りの手間は全く無い。

 食料豊かで食べる物にそうそう困る事が無い世界ではあるのだが……王都まで来てもこの異世界では米を見つける事が出来なかった。

 神界では物を食べる習慣が無かったから気にもならなかったが、異世界で人並みに人間と同じ様な生活をしていると故郷の味というものが恋しくなってくる。

 たまにはカレーライスでも食べたいとも思う様になってきたが、カレーが作れそうなスパイスは王都であってもそこまで豊富な種類は売っていない。

 神力を使えば作れない事も無いとは思うが……

(やっぱりダメ……ですよね)

 私欲で神力を行使してしまってはシトリーと何も変わらない。それにこんな事で上から処分されようものならとんだ笑い話になってしまう


【カレーで追放された女神】


 などと渾名を付けられてしまったらレアに何と言われるかたまったものでは無い。

「はぁ……」

 たまには米を使った料理も食べてみたい……溜め息とともにフィーナが料理を盛り付けていると


ーパアァァァ!ー


 中庭に魔法陣が出現したかと思ったら白髪褐色の女性が黒いモヤとともに現れた。

「こんばんわ〜フィーナちゃん。ゴブリンの件はうまくやってくれたみたいで助かっちゃったわ〜」

 黒いフードを下ろしながらフィーナに近付いてくる女性はシトリーだった。

 人目が無いのを良い事に悪魔羽も尻尾も隠すつもりは無い様だ。

「シトリーさんですか……、天界に復職の件ならまだ伝えてませんよ。向こうからまだ連絡きてないですし」

 フィーナはシトリーをチラ見しただけで要件を伝え作業を続ける。

 そんな素っ気ない態度の彼女に対しシトリーはフィーナが準備しているカットオレンジの一切れを摘むと

「いいのいいの、そんなにすぐにどうこうなるとは思ってないから。それより貴女に良い話を持ってきたのよ。聞きたい?」

 勿体ぶった言い回しでフィーナの耳元で囁いてきた。

 シトリーの言う良い話がどんなものなのか……さっぱり見当もつかないが教えてくれるというのなら、聞いておいて損は無いだろう。

「それで話というのは?」


ーパシッー


 カットオレンジをさらに強奪しようとするシトリーの手をはたき落としながらフィーナは尋ねた。

「この王国で近々催し物があるでしょ?南の方で」

 どこから情報を得たのかシトリーは南の森で執り行われる予定の慰霊の儀について話し始めた。

 彼女の話によると慰霊の儀が行われるのは約一ヶ月後、その一週間位前から聖職者達が現地へ向かい始めるらしい。

 王都からも王女や教皇を含めた聖職者の重鎮の一団が騎士団の護衛の元出立していくのだそうだ。

 しかし、その道中で死霊の襲撃に遭い王女や聖職者達の力で撃退するも、飛行型の魔物達の第二波には耐えられず騎士団が犠牲となって王女一行は命からがら王都へ戻っていく……というのだ。

 その後、南の森を浄化しようと試みるのは禁忌とされ度々犠牲者を出しながらも延々と放置されていく事になるらしい。

 しかし、死霊はともかく飛行型の魔物が多数飛んでいれば目立ちそうなものだ。

 事前に対処しなかったのかとフィーナが問うと、シトリーから返ってきた答えは、何者かが魔物達を転移させてきて王女一行を包囲したらしいという事だった。

 しかし、シトリーの話はフィーナにはどうしても腑に落ちなかった。

「あの、その一行に私は含まれてなかったんですか?」

 フィーナはまだ、どういった方法で南に向かうのかは聞いていないが自分も同じ時期に南に向かっているはずである。

 自分が動向さえしていればそんな惨状は招かせない自信もある。

 だが、シトリーからの返事はフィーナの予想を裏切るものだった。

「貴女は死霊術師に連れ去られてしまうの。貴女と一緒に暮らしてる子がいるでしょ?彼が人質にされてしまって貴女はほぼ無抵抗だった」

 王都で留守番させるはずのアルフレッドが人質とされてしまう事も不思議だったが、何よりも死霊術師が話に出てくる事自体が信じられなかった。

 死霊術師なんてそう何人も居るものなのだろうか……?

 しかし、よくよく考えてみればアルフレッドを人質にする死霊術師なんて一人しか思い当らない。

(あの怪我で生きてるなんて……)

 最終的に転移魔法で逃げられたが、死霊術師と南の森で相対した時に急所を含めて身体中に光の矢を撃ち込んだ事に間違いは無い。

 手応えもあったしあの出血量で助かる様には見えなかった。フィーナが一人回想に耽っていると

「その問題の死霊術師なんだけど私が転生に関わった男で間違いないわ」

 シトリーは事有り顔で言葉を続ける。

「元勇者のソーマだったかしら? 外見が変わってるのは自分で適当に転生繰り返してるからでしょうね」

 シトリーから死霊術師に関する情報がもたらされてきた。

 ソーマと言えばエルフィーネも話していた、千年位前に魔王を打ち倒したというこの異世界における伝説の勇者である。

 シトリーの話だとソーマは敬語使えない系陰キャだったらしいのだが……もしフィーナの知っている死霊術師がソーマであるならサイコパスという特徴も追加したいところだ。

 しかし、自分で転生を繰り返しているというのは……どういう事なのか?

 肉体が滅べば魂は勝手に天界に還るものと信じているフィーナにはそんな事が出来るなどと想像すらした事も無かった。

「何か方法を見つけたんでしょうね。天界に還らずに他者の身体でも乗っ取る方法を」

 死霊術師の究極の目的は死の超越である。実力のある死霊術師はそう簡単には死なないのかもしれない。

「一応、私の不始末でもあるものねー。面倒だけど私でもなんとかしてみるわ。貴女は坊やをしっかり見張っておきなさい。それと……」

 シトリーがそこまで話したところで


ーガチャー


「うっぷ、気持ち悪いぃ〜……」

 宿屋の裏口の扉が開き、中から人影がフラフラと出てきた。シトリーは瞬時に悪魔羽と尻尾を収納する。

 店の灯りが逆光となっていて人影が誰なのか分からなかったがどうやらエルフィーネの様だ。

 覚束ない足取りで井戸に向かったかと思ったら彼女は井戸を覗き込む様にもたれ掛かり

(……!)

 フィーナが危ないと思った時には手遅れだった。

「おろろろろろろろ!」

 おおよそ美人エルフとは思えない重低音の効いた音声と共に吐瀉物が井戸の底へ流れ落ちていく。


ーパアアァァァー


 フィーナは迷う事無く神力で井戸を浄化しつつ被害拡大を防ぐためエルフィーネの口元に転移方陣を展開。

 店のトイレに直接落ちる様に転移法陣によるバイパス処理を施して事なきを得た。

 これは世が世なら大炎上不可避案件である。フィーナは鬼の形相でエルフィーネに近付いていくとかなりの大声で

「何考えてるんですか!」

 と、彼女の耳元で厳重注意を行った。フィーナの声で耳がキンキンしたのかエルフィーネは目を回しフィーナにもたれかかってきた。

「え?あの……、ちょっと!」

 フィーナの力ではエルフィーネの身体を支えるのがやっとであった。

「……しょうがない子ね。」

 シトリーはそう言うとエルフィーネの手を取り肩に回すとフィーナと一緒に彼女を物置の一角に座らせた。

「う〜ん……わらしは安い女じらいわや〜」

 酒にノックアウトされているはた迷惑なエルフの対応が一段落したところで

「……フィーナさん?」

 アルフレッドが二階から降りてきた。さすがに騒々しかったのか、気になって降りてきたのだろう。

「それじゃあ、私も行くわ。後は頑張ってね」

 シトリーはそう言うと魔法陣を展開して何処かへと消えていった。

 アルフレッドがフィーナのところに着た時にはすでにシトリーは居なくなった後だった。

「だれか居たみたいですけど…」

 アルフレッドは不思議そうに辺りを見回しているが自分とフィーナ以外には酔い潰れているエルフィーネしか居ない。

(この子は私が守らなくちゃ……)

 フィーナはシトリーがもたらしてくれた情報を整理しつつ、自分に寄り添ってくるアルフレッドを守る決意を新たにするのだった。

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