学校への潜入
魔法学校の門までやってきたフィーナの耳に赤い屋根の学校からは学び舎らしい子供達の声が聞こえてくる。
言語体系こそ違えどその辺りは現代社会も異世界も変わりは無い。
変わりがない以上、関係者でない者は学校内では目立つのが当たり前なのは異世界も同じである。
フィーナは自らに右手を向けると神力を使って自身の他者からの視認性を零にした。
この世界にはインビジビリティという他人から発見されにくくなる魔法がある。
主にエルフ達が得意とする精霊魔法の一種だが、彼らの魔法は戦闘行為などの大きな動きを取ると解除されてしまったり視力に頼らない相手には効果がなかったりする。
しかし、フィーナの使っているものは神力由来の特別製である。その仕組みは魔法というより光学迷彩に近い。
インビジビリティが自分の姿が消えているかどうか視認では分からないのに対しフィーナのものは自分の目でも一目瞭然なのが安心である。
見えていないとは分かっていても不法侵入する訳なので慣れない事はドキドキするものだ。
フィーナはゆっくりと正面玄関の扉を開け中へと入っていく。
ロビーは一階から二階へ吹き抜けになっており、正面には受け付けのテーブルがある。
左右には二階へのが階段があり歴史ある魔道具らしい調度品も所々に置かれており、新築であろう校舎はやはり綺麗である。
以前に来た時は案内されるままに移動するだけだったので、こうしてじっくり見る時間は無かったのだ。物珍しさに目を奪われているフィーナだったが
(あ、急いで二人を探さなきゃ……)
我に帰ると、彼女は二人を探すために校舎の奥へと入っていった。
この学校は成人するまでの子供達が学習するための場であり、年齢に特に制限は無い。
一年単位で学年は上がっていくが希望次第で年齢に関係無く学力に合わせた学年を選ぶ事も出来る。アルフレッドとリーシャの二人は一学年だったはずだが……
今はどの学年も授業中らしく先生が説明する声と子供達が蝋板に書き写す音が聞こえてくるのみだ。
廊下から教室の中が見える造りになっているのは、今のフィーナにはありがたかった。
(あ……!)
ようやく二人を発見した。二人共真面目に先生の話を聞いている様だ。
クラスの人数は四十人くらいは居るだろうか……皆が皆同じ制服なので一目では身分の違いなどは判らない。
違いがあるとすれば一部の生徒が持っている魔道具の杖だろうか?一応学校からは用意する必要は無いとは聞いていたのだが…
ーカランカランー
突然鐘の音が鳴り響くと共に近くの教室からも生徒達が廊下に出てきた。フィーナは邪魔にならない様に廊下の隅に移動する。
大勢の生徒達が一つの方向へ向かって歩いているためフィーナの近くを生徒が通り過ぎていくくらいに混雑してしまった。
なるべく邪魔にならない様に壁に張り付いてはいたのだが
「あいたっ!」
一人の生徒が駆けて来たと思ったらフィーナにぶつかっていった。
誰も居ないはずの場所で何かにぶつかった事に生徒は首を傾げながら行ってしまった。
姿を消すのも考え物かも……と、フィーナが溜め息をついていると
「わっ!」
ーグイィッ!ー
今度はメイド服のエプロンの紐が何かに引っ張られている。引く力の方向を見てみると一人の生徒が杖を背にしているのが見えた。
その生徒も杖が何かに引っ張られているのを不思議に思っている様だ。
エプロンの紐は見えなくなっているのだが腰の後ろから紐を辿っていくと確かにその方向に引っ張られている様だ。
フィーナはゆっくりとその生徒に近付いていき手探りで引っ掛かっている紐を杖から外す。
(ふぅ……。)
これ以上廊下に居るとどんな目に遭うのか分からない。一旦避難とフィーナは近くのドアノブに手を掛け中へと入っていった。
(あ!)
入った部屋にはクラウスが座っていた。見るからに執務室といった感じだが……
彼からはこちらは見えていないはずだがドアを開けて入ってしまった事で彼はあからさまに扉の方を凝視している。
扉を開けて入ったばかりかご丁寧にも扉を閉め直した事が悔やまれる。何かの拍子に扉が開く事があったとしてもそのまま閉まるというのは物理的に難しいはず……クラウスの視線に耐えられずフィーナは右に横歩きで移動する。
(え?)
ドアを診ていたクラウスの視線はフィーナを追っている。見えていないはずなのに……フィーナの心臓の鼓動が早くなっていく。
少しの間静かな時が流れ、クラウスは溜め息混じりに口を開いた。
「どなたか存じませんが居るのは分かっています。姿を見せて頂けませんか?」
明確なチェックメイトである。フィーナの潜入調査はあっけなく終了してしまった。
自分にはこういう事は向いてなかったのだ……伝説の家政婦には遠く及ばなかった事に軽くショックを受けながらフィーナは非視認を解除する。
「すみませんでした……」
ションボリ顔でフィーナは謝罪の言葉を述べる。長い耳も垂れてしまっていて本当に落ち込んでいるのが手に取る様に解る。
「貴女でしたか……。どうして無断で入られたんですか?」
クラウスの興味はフィーナが学校にやってきた理由に移っており、今更不法侵入を咎めるつもりは無い様だ。
「はい、実は……」
フィーナは隠す事無くクラウスに自分がここに来た経緯を全て打ち明けた。
「……ですので、学校の方に対応して頂きたいと思いまして」
彼女の話を聞いたクラウスは渋い顔をしている。
「そういった事が起きる可能性は危惧していましたが……」
クラウスの話では学校としての対応は難しいとの事。魔法学校の目的は身分問わす教育を受けられる場とする事だったが、蓋を開けてみれば貴族の子息達が殺到してしまいほとんど彼らによるカーストが形成されてしまっているらしい。
そんな状態では仮に教師が注意をしたとしても、問題が水面下に移動するだけで何の解決にもならないのではないだろうか……と、いう事だった。
「それじゃ、これからもずっとこのままなんですか?」
フィーナの問いに何やら考えているクラウスだったが、ふと何かを思い付いた様だ。
「では、貴女に協力して貰いたい。フィーナさんの姿を消す魔法なら現場を抑えられるかもしれません。」
先程、あっさりとクラウスにバレてしまったフィーナの行動だが、生徒達に気付かれる可能性はまず無いだろうとの事。
そこでまずはイジメの現場をフィーナに抑えてもらい、その後で対策を考えていきましょうという話になった。だから、校内は自由に歩き回って良いという事である。
「わ、わかりました」
なんだか話が大きく一回りしてしまった感じだが、とにかく調査は続けられる事になった。
しかも、今回は学校側も了承済みの潜入調査となる。それだけでもフィーナにとっては気が楽になった。
「それじゃ、早速行ってきます」
フィーナはクラウスに頭を下げると再び神力で姿を消し校舎内へと戻っていく。
今度こそつまらない失敗で調査を台無しにしない様に……と、心の中で軽くリベンジを誓うのだった。




