メンバー加入
白銀の群狼の面々の介抱が終わり、ようやく宿屋に戻ってくる事が出来たフィーナ達。王都に着いて一週間も経っていないのにすっかり疲れていた。
ニワトリと踊る女神亭に入ると中は相変わらずの大盛況。酒と揚げ物の臭いに白銀の群狼の三下の顔が引き攣っている。
「アニキィ、俺部屋に行ってます……」
「俺も……」
「この臭い……うっぷ!」
そう言いながら三人は宿屋の上階へと早々に引き上げていった。
リーシャはフィーナに頭を下げると母親の元へと駆けていく。
先に宿屋に戻っていたミレット達はどこだろう……と、彼女達の姿を探していると
「先輩ー!こっちですよ〜!……ニャ」
食堂の隅で席に着いているのが見えた。
「私達はあちらで食事にしますけど……オオカミさんはどうされますか?」
成り行きとは言え行動を共にしている白銀の群狼のリーダーに声を掛ける。見たところ店内に他に空いてる席は無さそうだ。
「……俺はファングだ」
リーダーの突然の自己紹介だがフィーナには伝わらなかった様だ。彼女の反応にイラッと来たのか
「名前だよ! 俺はファングってんだ!」
ファングと名乗った男はバツが悪そうに指で頬を掻いている。
茶色い髪がボサボサなのがアルヴィンに少し似ているかもしれない。赤いバンダナを巻いているのが彼の大きな特徴だ。
「こちらこそ。私はフィーナです。この子はアルフレッド。相席になりますがご一緒されますか?」
自己紹介と共に一緒に食事をするか尋ねてみる。ギルドでの第一印象は良く無かったが話しをしてみる価値はあるかもしれない。
「お、おう……」
恥ずかしさが抜けていないらしいファングは小さく返事するのがやっとだった。同じテーブルに着いたファングを見たミレットは
「どーしたんですか? 先輩。オオカミさん連れてきて……ニャ」
と不信感丸出しの当然の対応を見せる。隣のプロージットも少し怖がっている様に見える。
「折角のベテラン冒険者の方ですから、お話聞いてみましょう。今は素面ですから大丈夫でしょうし」
フィーナの提案にミレットは半信半疑での様ではあるが、プロージットはファングの様子が違う事には気付いている様だ。
当のファングは周りに仲間が居ない事で借りてきた猫みたいに小さくなっている。
「プロージットさんは魔術師な訳ですけど……ファングさんはどうして彼女をパーティーに誘おうと思ったんですか?」
フィーナがギルドでミレット達の所に着く前にあったであろう。一連の出来事についてファングに聞いてみた。
彼の話によると白銀の群狼は気の合う仲間同士で集まったパーティーなのだが、全員戦士枠なのが悩みでもあったらしい。
色々な仕事はしてきたが剣が通用しない相手には道具が無ければ手も足も出ない事が何度もあったらしい。
プロージットの残念な噂は聞いていたが魔術師を仲間にするいい機会だと思い声を掛けてみたらしい。
「お話は分かりました……でも、お酒が入ってる時に大事な話をするのはどうかと思いますけど」
フィーナからの苦言である。酒が入ってなければここまで話が面倒にならなかったのでは……?と思うのが正直なところだ。
「だって、俺と歳離れてんだし……」
ファングはプロージットから顔を背けてブツブツ言っている。
「え? なんて?……ニャ」
ファングの声が聞こえなかったのだろうミレットが聞き返す。猫耳をピョコピョコとさせているのが彼を煽っている様にも見えてしまう。
「女の子誘うのが恥ずかしかったんだよ! 言わせんな、恥ずかしい!」
ファングはそう言うとそっぽを向いてしまった。彼の話から察するに、プロージットに声を掛けるのに恥ずかしかったファングは酒を気付けに使ったと言う事らしい。
色々行き違いがあったのかもしれないが、彼の動機は単純にプロージットをパーティーに誘いたいという事だった様だ。こうなると後はプロージット次第である。
「プロージットさん、どうですか? 少し考えてみてはいかがでしょうか?」
フィーナの問いにプロージットは迷っている様だ。動機はどうあれ男達の集団に女の子が一人入るというのは色々と難しい場合も出てくるだろう。
フィーナとしても女性の権利を声高に主張するつもりは無いが、その辺りは特に配慮して欲しいとは思う。プロージットもすぐには答えは出せないのかもしれない。
「私は魔法の支援のタイミングとか……魔法の選択とかまだ分かってなくて……」
フィーナが考えていた事とプロージットの悩んでいた事は違っていた。
プロージットは魔法の使い方がうまく噛み合わずに前のパーティーを追い出された事が尾を引いているらしい。
「そういうのは慣れですって。長年連れ添った二人じゃないんですから。失敗くらいありますよ……ニャ」
ミレットはプロージットの肩を抱いて彼女を元気付ける。
「それより私はファングさんが信用出来ないんですけど。なんかプロージットさんの事いやらしい目でみてませんか?……ニャ」
ミレットは口に手を添えてフィーナに耳打ちする様な動きで付け加える。彼女がファングを見る目はジト目というものだろうか……?
「バッカ! ちげーよ! か、可愛いとは思ってたけど、んな事考える訳ねーだろ!」
テーブルをバン!と叩き、全力で否定するファング。ミレットの声は丸聞こえだった様だ。
「あ、私……お料理注文してきます。皆さん、基本のセットで良いですか?」
テーブルの一同から確認をとったフィーナはカウンターに注文を伝えに行く事にした。
カウンターでは女将さんが宿泊希望の来客の相手をしており、それらが済むまで待つ事となった。
「あの、すみません。注文良いですか?」
フィーナが声を掛けると女将さんは
「あら、わざわざごめんねぇ。うちの子行かなかったかい?」
と、茶色髪の店員が注文を取りに行かなかった事を謝ってきた。
フィーナはいえいえ大丈夫ですからと、気にしていない事と注文を女将さんに伝える。
「あんたに聞きたい事あったんだけど……夜遅くに時間良いかい?」
女将さんからの提案である。そういえば朝学校に行く前に話がある様な事は聞いていたが……さすがに今は話している余裕は無さそうだ。
「分かりました。今座っている端の席でお待ちしてます」
女将さんの話が何なのかは想像も出来ないが、あるとしたらリーシャの学校に関する事だろうか……?
自分の席に戻りながらフィーナは何の話だろうと考えるがちょっと思い当たる事が無い。
自分のテーブルに戻るフィーナの耳に聞き覚えのある言い争いの声が聞こえてきた。
「プロージットさん、男は皆オオカミなんですから! 油断しちゃ駄目ですよ!……ニャ」
「誰がオオカミだゴルァ! 大体コイツまだ子供だろ! 俺は大人のお姉さんが好きなんだよ!」
ミレットとファングの二人がプロージットを挟んで自分の正しさを主張し合っている様だ。
放っておくとまた収拾が付かなくなりそうなのでフィーナは口を挟む事にする。
「お二人共、落ち着いて下さい。プロージットさんの意向を尊重しましょう。どうなんですか?」
二人を宥めつつフィーナはプロージットの意志を確認する。
「誘って貰えるのは嬉しいです。ファングさんのパーティーで頑張ろうかとは思うんですけど……、みんな男の人ばかりで……」
やはり男の集団に一人で飛び込むのは抵抗がある様だ。
プロージットの身の安全を考えるならここは辞退して女性のメンバーも居るパーティーを探すべきだろうか……?
(あれ……?)
ふとフィーナに一つの考えが浮かんだ。
「ミレットさんもファングさん達のパーティーに加わってはどうでしょう?」
フィーナの突然の提案に揃ってキョトン顔の二人。すぐさま
「嫌ですよ! こんな送りオオカミが首を揃えている様なパーティー! きっと初日に襲われちゃいますよ!……ニャ」
「誰が襲うか! こんなじゃじゃ猫、頼まれても断るわ!」
お互い全否定のミレットとファング。性格的な相性があまり良くないのかもしれない。
「先輩! 私がいらなくなっちゃったんですか? 私は先輩の側に居たいのに……ニャ」
涙目のミレットにフィーナは引き気味である。ミレットが本気で言ってるのかふざけて言っているのか判断がつかないでいた。
「別に今生の別れという訳ではありませんし……、私は王都に居ますからいつでも会えますよ。プロージットさんが大丈夫だと分かったらパーティーを抜ければ良いんですし」
フィーナはミレットを宥めつつ事態の解決を模索する。その時、事の成り行きを見ていたアルフレッドがハンドベルをテーブルに置いた。
「これ鳴らせばフィーナさん来てくれますから……。ミレットさん持っていてください」
アルフレッドが出してきたのはフィーナ特製の呼び出し用のベルだった。彼にずっと持たせていたモノだったのだが……
「僕が持っているよりミレットさんが持ってた方がいいと思うから」
アルフレッドの言葉を聞き、ミレットは不思議そうな顔でハンドベルをつまみ上げてベルを確認している。
「これ私が持ってても良いんですか?……ニャ」
その確認はアルフレッドでは無くフィーナに向けたものだった。
「鳴らして頂ければすぐに駆けつけます。使う時は王都内でお願いしますね」
一応、使い方と使用上の注意を説明するフィーナ。さすがに王都の外まで駆けつけるのは無理がある。
「分かりました。それじゃ、お借りしますね……ニャ」
ベルを腰のポーチにしまうミレットだが、一連のやり取りを見ていたファングから
「いや、お前入れたくねえ。お前何が出来んだよ?」
パーティーのリーダーとしての異議申し立てである。しかし
「私は斥候として役に立てますよ。他にも鍵開けとか色々と。それに私が入らなきゃプロージットさんも入らないって、ねえ?……ニャ」
自分の能力をアピールしつつプロージットを取引材料とするミレット。これではファングも認めざるを得ない。
「くそっ! とんだ抱き合わせじゃねーか! わーったよ!」
なんだかんだでファングはミレット達のパーティー加入を認めてくれた。
話が一段落したところでようやく注文した料理がやってきた。
その後は新メンバー加入記念としてミレットとファングはノリノリで宴会として楽しむ事に、そんな二人を眺めながら食事を摂るフィーナ達だった。




