群狼
フィーナとアルフレッドの二人が冒険者ギルドの入り口までやってくると、すでにリーシャは到着していた。おそらく大分待たせてしまった事だろう。
「すみません、リーシャさん。遅れました」
はぐれてしまった事をフィーナは改めて謝罪する。フライドチキンとポテトというメニューの関係上、付け合わせを先に配達してメインは後からっていう訳にはいかない。
ファミレスでメインの前にポテトフライを先に提供すのとは訳が違う。
リーシャと共に中に入り、受付嬢に商品を手渡す。単に品物をギルドに運んでくるだけなのに凄い疲れてしまった。
受付嬢から代金を受け取ったリーシャとアルフレッドを連れ、待たせているはずのミレット達への所へと戻ろう……と思ったところでフィーナの足が止まった。
遠目からでもよく分かるくらい、ミレット達が他の冒険者達と口論になってしまっている。
アルフレッドとリーシャの二人を連れて行くのは危険と判断し受付嬢の近くに行く様に二人に指示。
「受付さんのところに居て下さい。すぐに終わらせてきますから」
フィーナの言葉に二人は素直に頷き受付嬢の元へと歩いていった。
二人の安全を確認しフィーナは騒ぎの渦中へと飛び込んでいくのだった。
「だーかーらー! あなた達にプロージットさんはダメです! 本人が怖がってるじゃないですか!……ニャ」
ミレットの意見に男達は不快感を顕にしている。
「可愛い後輩の面倒をみてやろうってんじゃねーか! 俺達白銀の群狼がよぉ!」
「そーだ! そーだ!」
「いいぞ〜! アニキー!」
「やっちまえ〜!」
リーダー格の男が一人、他三下の様な男達が三人、いずれもお揃いの銀色のプレートメイルを着ている。
全員戦士といった風体で各々の特徴が体型くらいでしか判別出来ない。
リーダー格の男を標準体型とすると、他三人がチビ・デブ・ノッポといった具合である。
年齢はいずれも二十代中盤。白銀の群狼というのはパーティーの通り名なのだろう。
白銀の群狼と書いてシルバーウルフと名乗っている訳だが、この世界は漢字表記でもないし英語圏という訳でもない。文字での表記と口語が違うというだけの話である。
この通り名もある意味、年代別で特徴が出る自分たちを表すバンド名みたいなものなのだ。
このパーティーが解散するとしたら原因は冒険者性の違いとか言いそう……と、フィーナが彼らの雰囲気から感じた印象そのまま頭の中で考えていた。
見たところ一触即発と言うよりは酔っ払いに絡まれているという感じなので、もしかしたらそこまで大事にはならないかもしれない。
そもそもが冒険者ギルド内での出来事なので武器を抜いたり魔法を使ったりという事にはなり得ないだろう。
傍から見てる彼らはと女の子をナンパする酔っ払い達にしか見えない。
しかしこのまま観ているのも考えものではあるし、プロージットに至っては街中で高威力の魔法をブッパしようとした前科がある。
早めに止めておくのが正解と判断したフィーナが彼らの元に近付いていくと
「おい、みろよ!」
「ヘンな格好のエルフがいるぜ?」
「さっさと見世物小屋にかえんな!」
三下三人がフィーナの衣装を囃し立てる。彼女自身気にしているのに他者から煽られるのはやはり面白く無い。
ただの酔っ払いの言う事に過ぎない……平常心平常心……と、心を落ち着かせる様に務める。
「なんだお前? 俺達に文句でもあんのか?」
近付いていくフィーナに気付いたリーダーが喧嘩腰で威圧する。しかし、神力を抜きにしても彼らとフィーナとの彼我の力量差は歴然である。
フィーナの剣技は神力で得た技能であり努力等とは関係が無い紛い物の力ではあるが、使える力は何でも使う。
剣を抜きにしても足技等で戦えるので素手であっても彼ら程度なら相手するにも何の問題も無い。
「その娘達は私の仲間なんですが。御用がおありなら私が承ります」
一方のフィーナも力量の余裕からか男の威圧に動じず淡々と言い放つ。男は当然、フィーナの態度に不快感を示す。
「だから俺達白銀の群狼がその魔術師の女、パーティーに入れてやるっつてんだろうが! ありがたく思え!」
「そーだ! そーだ!」
「俺達みんなシルバーランクなんだぞ!」
「シルバー以外はお断りだぜ?」
リーダーに続いて三下が色々と言ってくる。シルバー以外お断りなら、おそらくブロンズランクであろうプロージットも駄目だろうとフィーナがツッコミを入れようとした時
「冒険者証をお待ちのフィーナ様〜! 冒険者証をお待ちのフィーナ様〜! 出来上がりましたので受付までお越しくださ〜い!」
受付嬢からのお呼び出しである。呼び出されては無視する訳にもいかない。
「すみません。ちょっと席を外させて下さい」
白銀の群狼の面々に一言断りを入れるフィーナに対し
「お、おう……」
と答えるリーダー格。フィーナはごく自然にミレット達に同行を促し受付に向かう。
「お待たせしました! 冒険者証はこちらです! ブロンズのマイナスからのスタートですが仕事をこなしていけばランクは上がりますから」
受付嬢から冒険者証についての説明が始まった。
冒険者証にはこなした仕事の内容が記録されていく為頑張って欲しいとの事。
冒険者証のランク変更や戦歴等の記録の更新は王都で行うので、地方の支部だと更新には数日から数週間を要するのでご了承下さいだそうだ。
また、冒険者証が身分証明証になる事等々……冒険者証を有効活用するにはランクアップは欠かせない様である。
受付嬢からの説明が終わったところで冒険者証を首から下げブラウスの中にしまい、ふとアルフレッドとリーシャの二人を見ると配達のお盆を抱えていた。
どうやら冒険者ギルドでの用事は全て終了した様だ。フィーナ達はそのまま冒険者ギルドを後にするのだった。
「ちょっと待てぇ!」
冒険者ギルドを出たフィーナ達の後ろから白銀の群狼の面々が追いかけてきた。お盆を手にするフィーナが振り返ると
「お前ら、あそこで普通帰るか? 何綺麗に無かった事にしてんだよ!」
リーダーの男が不満をぶちまけるが酔った状態で走ってきた為かさらに酔いが回っている様だ。
「う、うぷ……」
「き、きもちわりぃ……」
「もう少しゆっくり……」
三下の面々は囃し立てるのも忘れる程に辛そうな顔をしている。
しかも今居る場所が街の大通りな為か衛兵の数も一人や二人では無い。
騒ぎを起こせばすぐに飛んで来るだろう。そんな状況的不利を悟ったのかリーダーの男は
「今回は許してやるが、次に会ったらタダじゃおかねぇ! いくぜ、お前ら! 宿に帰るぞ!」
と捨て台詞を残して去っていく。のだがフィーナ達も向かう同じ方向に……。
この時間に宿とは早く横になりたいのかもしれない。
街の入口付近には宿屋も多いので彼らも近くの宿に泊まっているのかもしれない。
(…………)
フィーナ達は一応気を使い、彼らが人混みの中に消え見えなくなるまで歩くスピードを緩める事にした。
彼らの姿が見えなくなったところで改めて宿屋へと向かうフィーナ達だったが、宿に着いた時に後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「なんでお前らもここにいるんだよ!」
「そーだ……そー……うっぷ!」
「アニキィ……早く入りましょうよぉ……」
「うっ……く! ひっぷ!」
声を掛けてきたのはさっきの狼さん達であり、比較的大丈夫そうなリーダーに対し三下の面々は限界が近そうである。
酔っ払いに達の醜態にリーシャが顔を強張らせている。
お客とは言え今にもリバースしてしまいそうな者に宿に入ってほしくはないのだろう。
「リーシャさん、この近くに公衆トイレはありますか?」
あるかどうか分からないがダメ元でリーシャに聞いてみる。するとすぐ近くにあるという。
早速フィーナはリーシャに案内をお願いし白銀の群狼の面々を公衆トイレに連れて行く事にした。
宿屋内で吐かれては面倒な事この上無い。ミレット達は先に宿に入っているという事で先に上がってもらう事にした。
アルフレッドはフィーナと行くというので公衆トイレに同行する事に。
結局、白銀の群狼達の体調が回復する夕暮れまでフィーナ達が付き添う結果となってしまった。




