今後の展望
冒険者ギルドで空いたテーブルに付いたフィーナ達。
荒くれ者たちが集まる冒険者ギルド内において、傍から見たら彼らは仲の良い姉弟の集いにしか見えない。
「でも、先輩が冒険者になってくれれば立派なパーティー組めますね、プロージットさん?……ニャ」
「はい、私のために……すみません」
ミレットとプロージットに話を聞いてみたところ次の様な経緯がわかった。
本日早朝からミレットはプロージットを入れてくれるパーティーを探していたらしいのだ。
しかし、声を掛けても掛けてもどのパーティーからも良い返事が返ってくる事は無かった。
どうやら彼女が先頃まで所属していたパーティーのメンバーが彼女の評判を吹聴していた様だ。
『あの魔術師はヤバい。地雷だから気を付けろ』と。
そこでミレットが、プロージットが今後一人でもやっていける様に色々手伝っていこうという事らしい。
しかし、ミレットがスカウト、プロージットは魔術師という事で見事に前衛がいない。そこでフィーナに白羽の矢が立ったという訳である。
(そうは言われましても……)
フィーナにもプロージットを手伝いたい気持ちはある。しかし、第一に考えるべきはアルフレッドの事なので安易に安請け合いは出来ない。
とりあえず今分かっている事を踏まえて出来る事は
「アルが魔法学校へ入学するまで、私はお手伝いするのは難しいと思います。ごめんなさい」
問題の先送りであった。即断即決を求められていないのならば、正しく判断出来る時まで待つのも手ではある。
「無理を言ってすみません。私の問題なのに……」
プロージットは申し訳無さそうに下を向いてしまった。
田舎の村から出てきてどのくらいかは分からないが、まだそれほどの時間は経っていないだろう。
不慣れな土地で生きるには精神的に辛くもあるハズである。
フィーナはプロージットの手を取り
「謝らないで下さい。関わったのは私達の我儘なんですから。私達も王都に来て間も無いんです、一緒に頑張りましょう」
彼女を元気付ける様に励ますと共に、こっそり幸運の特性を付与する。
おまじないの意味合いしか無い幸運付与だが、何もしないよりは良いだろう。
あまり大人数に掛けるのは歴史におけるバタフライエフェクトとなる恐れがある為、あまり勧められる行為では無いが、自身が知り合ったほんの数人程度なら深刻な事態とはならないはずだ。
なにより女神としては善良に頑張る者は素直に応援したい。
「そうですよー! 困った時はお互いさまです!……ニャ」
ミレットはこれから冒険者としていきていくのだろうか……?少し寂しくなるが彼女が選んだ事なら応援したいと思う。
プロージットに先輩風を吹かせて色々と話している彼女を見てそう思うフィーナだった。
「リーシャちゃん、ちょっといいかなー?」
受付嬢がリーシャを呼んでいる。慣れてはいるのだろうが今は預かっている責任がフィーナにはある。
リーシャに付き添い受付まで行くと
「あ、ごめんね? いつも通り鶏の揚げ物と付け合せ。五人前ね」
どうやらお昼の注文だった様だ。注文の人数からして職員用だろう……。
そういえばこのギルドでは食事をしている冒険者は見かけない。せいぜい酒を飲んでいる者がいるくらいだ。
受付嬢にこのギルドでは食事は出していないのか聞いてみると
「ああ、お食事処なら近くにいくらでもありますから、そちらでお願いします〜!」
地方とは違い王都では食事処も酒場もたくさんあるため、冒険者ギルドで食事を提供すると営業妨害になってしまうとの事。
宿泊施設にも困る事は無いのでここのギルドには簡易寝台が必要最小限数があるだけなのだそうだ。
王都のギルドの割に人がまばらだとは思っていたが、冒険者達はそれぞれ近くにある行きつけの酒場などに行っているのだろう。
パーティーへの参加などの希望はどこで行えば良いのだろう?地方のギルドではギルド内で事足りていたのだが……
「あの……冒険者のパーティーに参加したいと思ったらどうすれば……?」
もしかしたらプロージットがパーティーに入れないのもその辺りに理由があるのかもしれない……と、フィーナが受付嬢に聞いてみると
「あちらに募集用の掲示板がありますので、そちらを御利用下さい」
と、ギルドの入り口近くにある仕事依頼の掲示板の隣にある掲示板を教えてくれた。
一応ギルドとしてもぼっち対策はしてくれているみたいだ。
「フィーナさん? あの、はいたつのちゅうもんがはいったので私かえります」
と、リーシャから帰宅の申し出がきた。となると自宅まではやはり付き添うべきだろう。
急ぎミレット達のところに戻り一旦宿に戻る事を伝える事にするフィーナ。するとアルフレッドが
「僕もいっしょに行く」
と言い出した。
宿屋に帰ると言ってもすぐにギルドに戻るのでここに居た方が楽だとは思うのだが……彼は頑なに一緒に行くと譲らない。
断る理由もないので来た時と同じ様にフィーナは二人を連れて宿屋に戻るのだった。
「おかーさーん! 冒険者ギルドさんにいつもの五人前ー!」
宿屋に戻るとリーシャはカウンターへと駆けていった。
フィーナもアルフレッドを連れて同じ様にカウンターへ向かう。
魔法学校での手続き終了と制服の引換券を渡さなければならない。
「あらあら! どうもありがとうねぇ! 中々手が離せなくてねぇ、助かったよ!」
女将さんはお昼前の仕込みをしていたらしく忙しそうに厨房から出てきた。
魔法学校での手続きと制服の採寸が終わった事、制服の引換券を女将さんに渡しフィーナの仕事はひとまず終了となった。
そういえば帰ってきたら女将さんから話があるとか言ってたはずだが……女将さんは忘れているのか慌ただしく厨房に戻ってしまった。
用事は済んだのでギルドに戻っても良いのだがリーシャがもし注文品の配達にギルドへ戻るのなら一緒に行く方が良いのかもしれない。
「リーシャさん、やっぱりギルドへ配達に行くの?」
フィーナの問いにリーシャは頷く。まぁ、さっきの注文だからすぐに届けるのも当然か。
手持ち無沙汰なままフィーナとアルフレッドがカウンターの横でしばらく待っていると、配達用の料理が出てきた。
だが、幼い少女であるリーシャが一人で持つには少し無理がある量だ。
「私も手伝います」
と、フィーナは山盛りの鶏の揚げ物がのせられたお皿をお盆ごと持ち上げると、同じく付け合せののせられたお盆を持ったリーシャの後を付いていくのだった。
小さいとは言え慣れているらしく人混みの中をリーシャはスイスイと歩いていく。
一方のフィーナもメイド仕事で慣れている為、この程度の作業は造作も無い。
しかし、アルフレッドの事を気にするとどうしても遅れがちである。しかも、アルフレッドはどことなく不機嫌な様子だ。
「アル、どうかされましたか?」
後ろを付いてくるアルフレッドにフィーナは声を掛ける。しかし
「……なんでも……ないです」
と、素っ気ない返事である。やっぱりおかしいと思ったフィーナがさらに話を聞こうとしたその時
ードン!ー
フィーナの背中に軽い衝撃が走った。何かがぶつかってしまった衝撃にフィーナがよろめく。
「おっと、ごめんよ」
どうやら、彼女が立ち止まっていた為、通行人にぶつかられた様だ。
幸いにも手にしているお盆は無事である。伊達に長年メイド仕事をしている訳では無い。
天下の往来でいつまでも止まっている訳にはいかない。
「アル、行きましょう。もう、すぐそこですから」
と、フィーナが声を掛けるもアルフレッドの様子は変わらない。
あまり人前ではやりたくなかったが、フィーナは手にしているお盆ごと収納空間にしまうと、アルフレッドを抱えてリーシャの後を追う事にした。
「アル。どうしたんですか? あなたらしくありませんよ」
小走りでリーシャの後を追いながらフィーナは抱えているアルフレッドに声を掛けるが、彼からの返事は無い。
程なくしてフィーナは冒険者ギルドの前の裏路地に到着した。
やはり収納空間から料理のお盆を出すのに人目は気になる。抱えたアルフレッドを降ろしたところで彼の前にしゃがむとアルフレッドの両肩に手を置きフィーナは尋ねる。
「一体どうしたんですか、アル? 気になる事があったら仰って下さい」
フィーナに真っ直ぐに見つめられたアルフレッドは視線を逸らす。しかし
「アル? 答えて下さい。至らない点があるのなら直しますから」
フィーナはアルフレッドの肩ににのせた手に力を入れる。
彼女の想いが伝わったのか、視線に耐えられなくなったのかアルフレッドが話し始めた。
「なんか、フィーナさんが……ほかの人をたすけたりしてるの見ると……へんなんだ。なんだかおちつかなくて……」
アルフレッドは自分でもどう答えたら分からない様で、話す言葉を探しながら話している印象だ。
「フィーナさんが僕から離れてとおくへいっちゃいそうな……」
なんとなくだが……フィーナにもアルフレッドの気持ちが分かった気がする。
おそらく慣れない土地で不安なのにフィーナがアルフレッド以外に関わっている事に不安を覚えたのだろう。
考えてみると確かにここ数日、アルフレッドより他の人の事を気にし過ぎていたのかもしれない。彼が頼れるのは自分くらいのものなのに……
フィーナはアルフレッドの肩から手を離すとそのまま彼の両手を握り、神に祈りを捧げる様に彼の手を握ったまま両手を目の前で組むと
「私はあなたを置いてどこかに行ったりなんかしません。約束しましたよね?」
フィーナが言い聞かせるもアルフレッドはまだ不安な様だ。フィーナが信じられないとかの話ではなく、もう少し複雑な感情の現れなのかもしれない。
ーギュッー
フィーナはおもむろにアルフレッドを抱き締めた。お互い無言のままほんの少しの時が流れる。そして
「どうか信じて下さい。私はあなたを大事に思っていますから……」
アルフレッドの気持ちを知ってか知らずかフィーナが彼の耳元で静かに呟く。吐息が感じられるくらいの近い距離……。
すると、ようやくアルフレッドはフィーナの気持ちを分かってくれたのか
「フィーナさん、ありがとう。……ごめんなさい」
と、彼は頬を赤らめながら答えた。
「……それじゃリーシャさんのところへ急ぎましょう」
アルフレッドの様子が何時も通りになった事に安心したフィーナだが、アルフレッドの中の自分の存在が変化しつつある事には気付いていなかった。




