ギルドでの測定
翌日、今日は朝一で魔法学校に行く事にした。入学の手続きに加え仕立て屋で制服の採寸もしなければならない。
他にも住む場所の確保や冒険者ギルドの登録などやる事は山積みである。
その事をフィーナが宿屋の女将さんに伝え宿泊の延長を願い出ると帰ってきたら少し話したい事があるらしい。
ついでと言っては何だが本日もリーシャの面倒を任されてしまった。
そんな訳で今日もフィーナの手はアルフレッドとリーシャの二人に占拠されてしまっている。これにはフィーナも苦笑いするしかなかった。
ミレットはミレットで何か考えがあるらしく、プロージットを連れて冒険者ギルドに行くと言い既に彼女を連れ、出てしまっていた。
昨日と同じ魔法学校への道を昨日と同じ様に二人を連れて歩いていく。
昨日は声を掛けてきた衛兵も今日はにこやかに顔パスである。朝早くなだけあって登校する子供達も目に付く。
なるほど、確かにこの世界では珍しいブレザーの様な学生服を子供達が着ている。前に見た魔法学園の制服の色違いといった感じだ。
いつも膝上くらいの半ズボンにサスペンダーのアルフレッドが着たら少しは大人びて見えるのだろうが…?
(……うーん)
幼いアルフレッドのイメージが定着してしまった為か、フィーナにはあまり想像出来ない。
実際のところ、八年後の彼とは既に会ってはいるのだが、フィーナが会ったのは前世の記憶を保持した全くの別人とも言える。
制服も着崩し目上の人間に敬語も使えない男だった彼は、今のアルフレッドからは想像も出来ない人物像だった。
もし、これからアルフレッドがあんなふうになってしまったらと不安にはなる。
(…………)
ふと、手を繋いでいるアルフレッドを見る。フィーナと目が合った彼はニッコリと笑ってまた前を向いた。
無邪気なアルフレッドの視線の先には魔法学校の校舎がある。
(……そうだ、私は……)
成り行きとは言えアルフレッドの人生の責任を負ってしまった事実が胸に突き刺さる。
自分は彼の人生がより良いものとなる様に最善を尽くさなければならないのだ。少なくとも彼が大人となり独り立ちするまでは……
魔法学校での入学の手続きはスムーズに終わった。今回はクラウスは不在だったので代わりの職員に全てをお任せした。
仕立て屋の紹介状を受け取り授業料を五年分前払いして終了である。
アルフレッドとリーシャの分だったので結構な量になってしまった。リーシャの分は当然女将さんから預かったものである。
少なくない銀貨をただの宿泊客に預けるか?とは、思ったのだが女将さん言うには悪い様な事する人には見えないから……だそうだ。
なんだか信用され過ぎな気がするが、それで良いのかと不安にはなる。仕立て屋での採寸と支払いも終わり、後は宿屋に帰るだけではある。
位置的に冒険者ギルドで用事を済ませた方が後々面倒は無いのだが、子供二人を冒険者ギルドに連れて行く訳にはいかないだろう。
可愛い衣装の女の子冒険者も居るとは言え、基本的に荒くれ者が集う場所である。
そんな乱暴な場所に身なりの整った貴族の三男であるアルフレッドと、宿屋の少女リーシャ、そしてメイド服のエルフがやって来たとあっては場違い感も甚だしい。
下手をすれば入場拒否なんて事にもなりかねない。フィーナが二人を連れて冒険者ギルドの前を通り過ぎようとしたところ
「フィーナさん、ギルドは……? 行かないの?」
アルフレッドから疑問の声が上がった。朝のミレット達との会話を聞いていたのだろうか?
小さい子を連れて行く訳にはいかないとフィーナは立ち去る理由を探し
「ほら、リーシャさんも帰らなければなりませんから」
と、助けを求める感じでフィーナがリーシャを見ると
「ギルドなら私、へいきです。はいたつで来てますから」
予想外にリーシャから背中を撃たれる結果となってしまった。フィーナが宿屋に帰る理由を必死に探していると
「あ、先輩! 待ってましたよ!……ニャ」
新しく買ったであろう革鎧に身を包んだミレットがギルドから出て話しかけてきた。その隣にはプロージットもいる。
フィーナ達に駆け寄ってきたミレットはフィーナの後ろに回ると
「さぁ、登録さっさと終わらせちゃいましょう!……ニャ」
そう言いながらフィーナの肩に両手を置き冒険者ギルドの入り口へ向けて押し始めた。
「いえ、あの……! ちょっと……!」
成す術も無くフィーナは冒険者ギルドの室内へと連行されていくのだった。
フィーナはミレットに押されながらギルド内を進んでいた。なんだか周りからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
「おい、今入ってきた奴見てみろよ?」
「この街に見世物小屋来てたっけかな?」
「どこぞのお貴族様の愛玩用だろ?」
フィーナのメイド服はさすがに浮いているのだろう。服装自体はフィーナより露出が多い女の子も結構居るのだが
「あれ見てよ。あんな格好で戦えるの?」
「まるっきり男に媚びてるわよね。恥ずかしくないのかしら〜?」
その娘達からも聞きたくない声がフィーナの耳に聞こえてくる。耳まで真っ赤にしながらフィーナは受付に進んでいく。
たった今気が付いたがアルフレッドとリーシャは自発的にフィーナの手を離しミレットの後ろに回って隠れている。
(見捨てられた……!)
子供は正直である。周囲から囃し立てられる事に子供ながら思う事があったのだろう。
アルフレッドとリーシャの無邪気な仕打ちにフィーナが全力で凹んでいると
「いらっしゃいませ! 冒険者登録ですか? ご一緒に数値測定もいかがですか?」
受付嬢が畳み掛けてきた。
「はい! 冒険者登録です! 測定もお願いします!……ニャ」
受付嬢に返答したのはミレットであった。ごく自然に話を進められる状況にフィーナには口を挟む暇も無かった。
「それではこちらの器具に手を触れて下さい! 良いって言うまで触ってて下さいね?」
受付嬢に言われるままにフィーナは手を差し出して彼女が出してきた器具に触れる。
見た感じ小さな石板の様に見えるが……綺麗な装飾もされており、神秘的な何かを感じる。
フィーナがしばらく石板に手を触れたままでいると石板の表面になにやら文字が浮かび上がってきた。
「えー……と、力が50……普通の女の子並みですね。あ、まだ触れてて下さいね?測定中なので」
言われた通りにフィーナは石板に触れ続ける。
「先輩ってあんまり力無いんですね。でも、これってただの目安ですからね。筋肉の総量を調べてるらしいですから……ニャ」
ミレットが言うには今測定しているのは冒険者としての方向性を決める為のものであり適性の無い道に進む事によるトラブルを防ぐものらしい。
力の数値がある程度あり、魔力が低い者には肉体労働を勧めるとか……そういう事らしい。
希望者には訓練所を紹介するなど新人が無駄に命を落とさない様に配慮しているのだそうだ。
「えーと……あれ? 魔力0になっちゃってますね。もしかして、今日魔法使っちゃいました? 測定の日は魔法とかは使わないで来てもらいたいんですが……」
胃カメラの日は朝ごはん抜いてこいみたいな事を言われても困る。
それに、魔力0は女神としてはデフォなのではないかとフィーナは思う。
しかし、力……魔力……と測定項目はいくつあるのだろう?よくあるゲームの様に素早さやら賢さなんてものもあるのだろうか?
そんなものを数値化する方法など見当もつかないが……
「おいおい、あのエルフの姉ちゃん魔力0だとよ」
「えーうそー、あれじゃ何も出来ないじゃなーい!」
「力も見た目通りだし、見世物小屋に帰った方が良いんじゃねぇかな?」
フィーナの測定を周りで見ていた冒険者達から嘲笑混じりの嘲りの声が浴びせられた。
メイド服の件に引き続き晒し上げられている様でフィーナの顔は真っ赤なままだ。
「ごちゃごちゃうるさいですよ! まだ結果は出てないんですから!……ニャ」
フィーナの後ろで肩を抑えているミレットが周囲の冒険者に言い返す。
もうなんでもいいから早く帰りたいとフィーナはすっかり落ち込んでしまっている。
「最後は信仰心なんですけど……おかしいですね。表示がバグっちゃってます」
受付嬢は石板を見て首を傾げている。確かに石板に表示された文字は文字化けの様になっていて読み取ることが出来ない。
信仰心と聞いたフィーナに嫌な予感が頭を過ぎる。
(これはもう帰った方が良いんじゃ……)
彼女はもう帰る気満々なのだが両肩をミレットに抑えられていて自由意志で帰る事すらままならない。
「すみません。ちょっと原因が分からないのでこちらを使ってもらえますか?」
受付嬢は受付の横にある古ぼけた黒っぽいかなり大きめの石板らしきモノを指し示す。
(……これ、触ったら進化が促されるとかないですよね?)
フィーナは黒い石板の様なモノを見上げながら取り留めも無い事を考えている。
しかし、正直なところ測定はこれ以上続けたくは無い。信仰心だけ計測出来ないとか嫌な予感しかしない。
「あの……何か調子悪いみたいですし……今日は帰りませんか? ねぇ?」
自分の肩を抑えているミレットに話しつつフィーナは目でアルフレッドに助けを求める。
だが、アルフレッドはなぜか信頼の眼差しでフィーナを見ている。測定でいい結果が出ると信じている曇りの無い目だ。
(…………)
そんな彼を見ていると……期待は裏切りたくは無い。
フィーナは意を決して黒い石板に手を触れる。黒い石板は長い事使われていなかった様で測定結果も中々標示がされない。
「うーん、動くはずなんですけどね〜……あ!」
受付嬢がコンコンと石板を叩くと計測結果が石板に表示された。
力…49.723902 魔力…0と、先程と大差ない数字が続く。
「信仰心は……と、53ですね。あれ……え?」
受付嬢は思わず表示を二度見した。桁数は力の数値が小数点以下が並んでいたので、バッと見で違和感は無かったが530000の数字が並んでいた。
(……あわわわ)
フィーナは慌てて石板から手を離す。すると石板の表示は消えてしまった。
周りで見ていた他の冒険者達は石板をあまり良く見ていなかった様で
「なんだ、信仰心もそれなりか〜」
「僧侶になるのがやっとじゃないかしら? 一日にヒール数回なら使えるでしょうし」
「うちのパーティーはいらないなー、足手まといになりそうだし」
それぞれ勝手な事を言って解散していった。
どうやら実際の数字は知られていない様だ。しかし神力は今は半分位だからフルだと百万近くはあるという事になる。
自身の力の数値をこうして測った事などなかったからまぁまぁ新鮮な経験ではあった。
「あの、それで私はこれからどうすれば良いんでしょうか?」
とりあえずの測定が終わったフィーナだがこれからどうすれば良いのかさっぱり分からない。疑問を受付嬢にぶつけてみると
「あなたは力も信仰心も人並みですので神官がご希望でしたら教会をご紹介出来ます。それ以外でしたら訓練所をご紹介致します」
どうやら冒険者となるには一通りの訓練が必要らしい。確かにズブの素人がなれる程甘い世界では無いのだろうが…
「あ、先輩はそういうの大丈夫なんで、登録だけお願いしまーす!」
と、後ろのミレットからである。フィーナにとって訓練は必要無いのでやらなくてすむのであればそれに越した事はないのだが。
「それでは、特技などありましたら自己申告をお願いします」
自己申告でいいんだ……と思いながら自身の特技を思い出すフィーナ。剣術と神聖魔法が使えるがそれをそのまま申告していいものか……
「えーと、剣術と神聖魔法なんですけど……」
変に隠す必要は無いかと、正直に答えてみる。しかし、受付嬢の反応はフィーナが想像していないものだった。
「え?剣術と神聖魔法ですか? それだとどっち付かずになっちゃいますし……器用貧乏と思われちゃいますから一つにしておきましょうか」
なんだかよく分からない理由で否定されてしまった。
「…それじゃ戦士でお願いします」
神力を消費する前提の後衛より前衛で身を危険に晒す事を選んだフィーナは戦士として登録してもらう事にした。
これで登録は終わり、冒険者証が出来上がるまで少し待つ事となった。
「それじゃあっちでひと息つきましょうか……ニャ」
ミレットが空いたテーブルを指差したのでその意図を理解したフィーナはアルフレッドとリーシャの事は少し気になるもののそれに従う事にするのだった。




