冒険者事情
「あの、危ないところをありがとうございました!」
魔術師の少女が深々と頭を下げてきた。帽子を取りすんなりお礼が言えるあたり、ごくごく普通の少女の様だ。
年齢は十代半ば位……この世界では成人扱いされる年頃である。
しかし、肩出しのドレスは中々に目を引く扇情的な衣装である。
スカート部分のスリットも腰の方まで続いており、全体的な露出こそ少ないものの結構際どい格好である。
こういうのが都会の流行りなのかとフィーナが考えていると
「もしかして冒険者の方ですか? もし良かったら私をパーティーに加えてくれませんか?」
少女は恥ずかしそうにフィーナにお願いしてきた。どうやら、何かしらの事情を抱えてはいるらしい。
しかし、日も暮れ始めで王都とは言えこの裏通りではこれから物騒にもなるだろう。第一、不審者がまだ近くに転がっているのだ。
衛兵を呼びに行くべきだろうが、男をこのままにして呼びに行くのは無用心すぎる。
「あ、色々お話する前に誰か呼んできた方が良いと思うんですけど……」
フィーナの意見に少女はそうだったと、ハッとした様な顔をしすぐさま詠唱を始めたかと思うと
「バインド!」
の、少女の声とともに光の輪が男の周囲に現れたかと思ったら
ーギュッ!ー
「うがっ!」
光の輪が小さくなりあっと言う間に男を拘束してしまった。拘束の力が強いのか男が反射的に悲鳴を上げる。
どうやら、死んではいなかった様だ。ギリギリ音が続いているあたり、締め付ける力は継続的に強くなり続けているらしい。
「それじゃ、行きましょう! しばらくは大丈夫なはずですから!」
少女の言葉通りもう心配は無さそうだ。男は手足を拘束されており身動き一つ出来そうに無い。
「くそっ! ガキどもめ、舐めたマネしやがっ……があっ!」
意識を取り戻した男から恨み節の様な文句が聞こえてくるが、二人は気に留める事無くその場を後にするのだった。
衛兵に男を突き出したフィーナ達は、とりあえず落ち着ける場所で……と言う事でフィーナが泊まっている宿屋に行く事となった。
道すがら何も話さないのも気を使うものなのでフィーナは改めて少女に
「あ、私はフィーナと言います。よろしくお願いします」
と、軽く会釈をし少女に話し掛けた。すると少女も畏まった様子で
「よ、よろしくお願いします。私はプロージットと言います」
横に並び歩きながらの忙しい自己紹介となった。
「プロージットさん……ですね? それで先程パーティーに入れて欲しいとお聞きしましたけど、冒険者をされているんですか?」
彼女の素性から聞いていく事にするフィーナ。すると、少女は王都に来るまでの身の上話を始めた。
彼女の話によると出身は近くの村出身であり、魔法の習得は村に住んでいる魔術師の女性に教わったそうだ。
小さい頃から物珍しさから女性の元に通っており成人する頃にはかなりの魔法を習得したらしい。
都会暮らしへの憧れもあり王都へやってきた……と、ここまで聞いたところで宿屋に着いてしまった。
日も落ちてニワトリと躍る女神亭は大賑わいである。フィーナがプロージットを連れ立って店内に入ると中はやっぱり混雑していた。
フィーナ達が店内で座れそうな場所を探していると
「先輩!こっちこっち〜!……ニャ」
自分を呼ぶミレットの声が聞こえてきた。声の方に行くとテーブルの一つでミレットがアルフレッドと食事を摂っていた。
アルフレッドは無事にリーシャと宿屋まで来る事が出来ていた様だ。
「アル、ありがとうございました」
フィーナがアルフレッドに声を掛けると恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。単純にフィーナに褒められたのが嬉しかった様だ。
ふと、辺りを見るとリーシャが母や姉と一生懸命働いているのが見えた。
とにかく二人が無事で良かったとフィーナが安心していると
「先輩? そちらの女の子は……ニャ?」
ミレットがフィーナの後ろにいるプロージットに気付いた様だ。
「あ、こちらはプロージットさんです。冒険者をされている方なんですけど、ちょっと色々ありまして……」
と、フィーナは軽く紹介してプロージットに席に着いてもらう事にした。
「プロージットです。よろしくお願いします」
とんがり帽子を脱いでミレット達に頭を下げてプロージットも挨拶する。
それだけ見ると礼儀正しい普通の女の子である。格好が派手目なのが不釣り合いではあるが、その辺りもこれから聞いていけばいいだろう。
「プロージットさんは冒険者をされているとお聞きしましたが、お仲間の方は……?」
すでにパーティーに入りたいと言われてはいるので聞くまでもないのかもしれないが、一応現状把握は必要である。
しかし、フィーナの問いにプロージットの顔がみるみる曇っていき
「うわーん! 私、役立たずだって言われたんです! 無能は追放だ!って!」
いきなり感情爆発させたプロージットにミレットがそばに行き宥め始めた。フィーナもフィーナで何か地雷を踏んだかと内心ドキドキしている。
「落ち着いて。きちんと話して下さい。吐き出しちゃえばすっきりしますから……ニャ?」
ミレットが彼女の肩を抱くと少し落ち着いたのか、ヒックヒックと泣きながらプロージットがその辺の経緯を話し始めた。
村から出てきて初めて誘われたパーティーでの初仕事の際、リーダーから魔法で敵を撃てと指示を受け言われるがままに彼女は魔法を撃った。
その魔法が先程も街中で見せたファイアストームであり、その威力が高すぎる事で怒られてしまったらしい。
場所が洞窟内だった為に酸欠の可能性も考える様に言われ、前衛を巻き込みかけた事も怒られた原因の一つなのだそうだ。
低威力の魔法では申し訳ないかなと張り切った行動が完全に裏目に出てしまった様だ。
「それで、次の戦いでは威力を抑えたファイアランスを使ったんです。でも、撃った後で味方の方が射線に入ってしまって……」
結果、フレンドリーファイアとなってしまいクビを宣告されたのだそうだ。
そして傷心のまま街を彷徨っていたところ、先程の中年男性に仲間を募集していると誘われ付いて行った結果がさっきの有り様なのだそう。
「いくら仲間を募集してると言われても相手は見るべきです。それにプロージットさんの服装は男性から見たら刺戟的過ぎます。もう少し慎ましい衣装をですね……」
少し説教気味にプロージットに注意するフィーナだったが、服装に関してはお前が言うな案件である。
基本色が白系統のフリフリメイド服なエルフが言える話では無い。
「先輩が言っても説得力無いですー……ニャ」
ミレットからも当然の様にツッコミが入る。
「この服は私の先生のバーバラさんが用意してくれたんです。王都ならこれくらい普通だからって……」
プロージットの話によると今の服装は自分の趣味では無く恩師のチョイスなのだそうだ。
他人の趣味に振り回されている残念な有様はフィーナの中にプロージットに対しての親近感を芽生えさせていた。
しかし、服装の件はともかくとして彼女の身の振りは考えた方が良いだろう。
また、男に暗がりに連れ込まれたりなんてしたら命がいくつあっても足りないし、さっきみたいに魔法を発動させたらどれだけの被害が出るか見当もつかない。
「うーん、仕方ありませんね。このベテラン冒険者さんのミレットさんが一肌脱いであげましょう!……ニャ」
と、プロージットの肩をバンバン叩く自称冒険者さんであるミレット。
彼女のお召し物は屋敷から出た時のまま、一般的な上着とスカートなのでベテランどころか冒険者の風格すら無い。
特徴があるとすれば首から下げられている銀色のプレート……
(……あれ?)
朝は付けていなかったはずである。フィーナの視線に気付いたミレットは得意げな顔で
「じゃーん! シルバーマイナスの冒険者証です。今日登録に行ったら昔の記録が残ってたんですよ〜! 冒険者稼業の事なら何でも聞いて下さいね!……ニャ」
ミレットはもしかしたら調子に乗りやすいタイプなのかもしれない。
運ばれてきた飲み物を口にしながらフィーナはそんな事を考える。本日に引き続き明日もやる事は山積みである。
(……頑張りましょう、皆の為に)
隣で静かに食事を続けるアルフレッド、反対側でプロージットの悩みをあれこれ聞いてミレットが元気付けている。
彼らを見てフィーナは自身の思いを再確認するのだった。




