軟禁生活
フィーナがガイゼル王国の王城にて軟禁を余儀なくされて三日が経過した。
衣食住に困らないとは言え、今のフィーナには目的がある以上あまり無駄な時間は過ごしていられない。
軟禁生活で客間に放置されるだけかと思っていたのだが、そこは暗殺者との繋がりを疑われている重要参考人。
城の兵士は言うに及ばずガイゼル国の国王やその息子ゲイルにまで尋問という訳ではないものの、ガッツリと話を聞かれてしまった。
気の休まらない生活ではあったが、ステファニーがカレンを伴ってよく遊びに来てくれていた。
トランプの様なカードゲームやチェスの様なゲームをしたりフィーナの生活や冒険者としての経験を話したりとステファニー達の気遣いにフィーナは甘えさせてもらっていた。
「フィーナさまはごぶりんに会ったことはあるのでしょうか?」
冒険者であればゴブリンなど親の顔よりよく見る存在である。
しかし、城から出た事の無いステファニーにとってはほぼほぼ未知の生物でありUMAである。
写真がない世界なのでそう言った部分は図鑑などに頼らざるを得ない。
「ゴブリンはよく見かける方ですね。力が弱く頭もよくありませんがずる賢く徒党を組み、集団で襲ってくる気の抜けない相手です」
フィーナは自身の過去を思い出しながらステファニーに脚色無くゴブリン達のありのままの実態を教えていく。
「そうなのですね。この本にはたいしたことがないとかかれておりましたので……」
ステファニーは手にしている魔物図鑑の様なものを眺めながら首を傾げている。
「ゴブリンたちがそんなによわいのでしたら、いつかはたいじできてしまうのではないのですか?」
ステファニーの質問にフィーナは少し考えてみた。
ゴブリンの駆除仕事は冒険者ギルドでも定番の仕事で毎日の様に依頼が入っている。新人冒険者にとっても経験を積むための絶好の相手だ。
毎日の様に数を減らしているはずのゴブリンが居なくならないのは、単純に繁殖力が高いからだろう。
「それは……倒す以上に増えてしまうからですね」
ステファニーの問いに答えてはみたが……ゴブリンは見た目オスばかりであり、メスという個体は見た事はおろかメスが居るのかどうかすら分からない。
ゴブリン達が若い女の子を拐っていくのは日常茶飯事であり、帰ってこない女の子もまた少なくないのが現実である。
つまり女の子達はゴブリンの繁殖の為に拐われている可能性が高いのである。
(…………)
しかし、まだ幼いステファニーにそこまで説明する訳にはいかない。
臭いものに蓋をするのが何でも正しい訳では無いが、正論が必ずしも適切とは限らない。
「フィーナさま、ゴブリンとはどうやって増えているのですか?」
……そうそう、こんな質問さえ来なければ何も問題は無いのだ。
(……ん?)
フィーナは一瞬自らの聞き間違いに期待した。だが、その期待はただの現実逃避でしか無かった。
「フィーナさま、ゴブリンがふえなければいいとおもうのです。ゴブリンたちはどうやってふえているのですか?」
ステファニーは執拗にフィーナを質問攻めにしてくる。
「あ、え〜と……」
答えに詰まったフィーナは、カレンに目で助けを求めるが、彼女はいつの間にか退出してしまっていた。今の今まで視界の片隅に立っていたはずなのだが……。
(……カレンさ〜ん!)
うまい具合に彼女に逃げられてしまったフィーナは一人でこの難題に立ち向かわなければならなくなってしまった。
さて、ゴブリンが増える方法をステファニーに伝えるに当たり、留意しなければならない点がいくつかある。
それは年齢相応な説明をしなければならないという点だ。間違っても拐われた女の子達を使ってゴブリン達は無理やり自分達の子を作っているなどと言ってはいけない。
物事には教えるに適切な時期と言うものがある訳だが、十歳にも満たない女の子に言える話では無い。
前述の内容を伝えるのは少なくとも思春期以降が適切だろうと思う。
(じゃあ何と言えば……)
ゴブリンは卵から生まれるとかハーピーが運んでくるとかデタラメを教える訳にはいかない。
フィーナ自身の信頼性が無くなってしまうのは言うまでもないが、ステファニーの為にもならない。
デタラメを信じさせてしまう事は彼女にとっても不幸となる。
「え〜と、ゴブリン達は……」
一人でとんでもないジレンマを抱え込んでしまったフィーナの頭はパンク寸前であった。
「魔王です! 魔王の悪しき力によってゴブリン生達は生み出されているんです!」
思考がショート寸前だったフィーナが辿り着いた答えは魔王に全責任を押し付ける事だった。
魔物達を統べる事が出来る魔王がゴブリン達も含めた魔物達の根源であると言えなくもないが、これはこれで魔王に対する熱い風評被害である。
「そうなんだ〜! まおうってわるいひとなのね!」
まぁ、この異世界の魔王は人間社会の均衡が崩れたら人間社会に攻めてくるのだから、多少の風評被害は已むを得ないだろう。
ーコンコンー
「ステファニー様、フィーナ様、失礼致します」
客間の扉を叩く音とカレンの声が聞こえてきた。まるでフィーナが難所を切り抜けるのを見計らったかの様なタイミングである。
ーガチャー
「お茶のお時間です。紅茶とケーキをお持ちしました」
ワゴンを押しながら入室してきたカレンは、やや恨めしそうな顔をしているフィーナを気に留める事無く
「本日はクランベリーケーキです。ステファニー樣、テーブルの上をお片付け下さい」
ステファニーと二人でお茶の準備を進めている。
「カレンさん、さっきなんですけど……」
フィーナがゴブリンについてのステファニーからの質問に一人で四苦八苦するはめになってしまった事をカレンに抗議しようとしたその時
「フィーナ樣、クランベリーはお好きですか?」
「は、はい……」
ケーキを眼の前に置かれたフィーナは途端に大人しくなってしまった。この女神、チョロ過ぎである。
こうしてフィーナは徐々にカレンに餌付けされていってしまうのであった。




