女三人寄れば
フィーナはイレーネの言う、ガイがパーティーを抜けたいと言う話に違和感を覚えていた。
その話をイレーネに聞いてみたがそんな話が出たのは大分前でガイは長い間迷っていたらしいという事た。
少なくともキング戦が終わった辺りに出た話だと言うのだから、少なくとも昨日今日の話では無い。
(そんな事……あった様な……うーん……)
言われてみたらそんな事を言っていたかもしれないがフィーナは記憶に自信が無くなっていた。
彼の決意が固まったのはガイゼル国が大々的に傭兵を募集し始めたつい最近の話だった。
単なる仕事仲間であるガイを引き止める権利もガイに力を貸す義務もザック達には無い。
だが、ガイに同行すると真っ先に決めたのは神官であるマリーだった。
比較的控えめであるマリーが同行を決めた事にザック達他のメンバーのみならず、ガイ自身も驚いていた。
傭兵の仕事は冒険者家業とは違う。マリーには安全な帝国に居て欲しい。と言うのがガイの主張であり、フィーナ達フレデリカ一行が冒険者ギルドに到着する前の話であったそうだ。
フィーナはギルドに来てすぐにどこかに飛び出していって戻ってきたから知らないかも……というイレーネからの注釈は付いていたが。
(え……? うーん……)
確かに聞いた気もするが覚えているというよりは今思い出した感じであり違和感がかなりある記憶である。
「ここからが本題! マリー! どーして折角のチャンスだったのにブチューしなかったのよー!」
イレーネは果実酒をグイッと喉の奥に放り込むとマリーの事を指差しながらウザ絡みを始めた。
「キスなんてのは、こうやってこうして首の角度を傾けて! こうやって! ん〜!」
イレーネはマリーの方を見ながら両手でフィーナの顔面を掴み言葉に合わせてフィーナの頭を動かしながらマリーに実演して見せている。
「や、止めて下さい!」
ードン!ー
フィーナは途中までされるがままで放っておいたのだが、いよいよという段階に来て慌てて拒否した格好だ。
突き飛ばされたイレーネはソファーにゴロンと転がったがノーダメだったので、再びフィーナに襲いかかってきた。
「ほらほら、ん〜! ん〜!」
悪ノリを続けるイレーネに対し今度はサラマンダーが
ージュッ!ー
「あづ! あづ!」
イレーネが突き出してきた唇にサラマンダーがそっと手を出し唇が手に触れかけた瞬間イレーネは口を抑え、もんどり打って転げ回り始めた。
「まりーしゃま〜、ひ〜るぅぅぅ……」
一通り転げ回った彼女は縋り付く様にマリーに助けを求め
「はしゃぎすぎですよ。イレーネさん、あなたは少し悪ふざけが過ぎます。物事には時と場合というものが……」
マリーは溜め息を付きながらお説教と共に
ーパアアァァー
イレーネの唇にヒールを掛け始めた。
「まりーだって……、よーへーなんてぼーけんしゃのしごととちがーの。あーてはにんげんなんだしいっひょにいやれうわけやないんあからね」
ヒールを掛けてもらってもサラマンダーの熱の影響が残っているらしくイレーネが言わんとしている事がイマイチ分からない。
「わかっています。だからこそ出来るだけ近くに居たいんです」
ガイを想うマリーの決意は固い様だ。フィーナはマリーがガイにそんな感情を抱いている事にまるで気付いていなかった。
マリーは十代半ば、ガイは二十代半ばの年齢差のはずである。
フィーナの価値観で言うと中三と社会人の恋愛であり某島国であれば事案となる案件である。
「お二人って十歳くらい離れられてますよね? なんだか意外な感じが……」
フィーナは率直な意見を口にした。しかし、その発言に反応を見せたのはマリーではなくイレーネであった。
「あらあら、十歳なんか誤差にしかならないくらいの殿方に恋い焦がれていらっしゃるフィーナさんが何かおっしゃってましてよ? アルさんでしたかしら? おほほほほ……」
イレーネはどこから取り出したのか扇子で口を隠しながら嫌味ったらしく言ってのけていた。
フィーナはエルフの姿をしているから年齢不詳に思われても仕方が無い。加えて女神に年齢など意味を成さない為把握すらしていない。
確かにイレーネの言う通り、フィーナとアルフレッドの年齢差はガイとマリーの比ではないかもしれない。
ほんの一言が自分に向けたカウンターとなってしまいフィーナは真っ赤になってしまった。
「わわわ、私はアルの保護者代わりとして大事に想っていただけで、そういう考えは微塵も……」
顔を赤くして慌てるフィーナはイレーネのみならずマリーすらも愉しませていた。
「私は年齢差はとやかく言いません。ですがお子さん相手にそういうのはちょっと……」
若干引き気味にマリーからも痛烈なカウンターがフィーナに向けて放たれた。
「そういう考えってなんですかあぁ? 私達お子様だからわかりませーん♪」
イレーネなど完全にフィーナをおちょくりに入っている。二対一ではフィーナには勝ち目は無かった。
戦いは数というのはこういった事にも適用されるのかもしれない。
頭から湯気が出る勢いで真っ赤になっているフィーナはイレーネにツンツンされたりマリーにお説教に近い苦言を真顔で言われたりと散々な目に遭っていた。
きっかけを作ったのはフィーナ自身であるとは言え口は災いの元、全ては自業自得であった。
そして、この状況を愉しんでいるのはイレーネとマリーだけでは無く……。
天界からフィーナの様子を見ているフレイアとミレットのコンビも同様であった。
「おい、フィーナの奴なんでこんなに茹でダコみたいになってるんだ?」
事情の分からないフレイアが頭の上のミレットに尋ねる。
「それは話すと長くなるんですけどアルフレッドお坊ちゃんという男の子がおりまして……ニャ」
ミレットは自身が知っている範囲での二人の経緯を事細かに話していく。
フィーナとアルフレッドの経緯などなんとなく程度にしか知らなかったフレイアは
「う〜む、ショタコンはいかんぞ。倫理的にも生産性的にも……帰ってきたら説教だな」
フィーナの知らない所でまた面倒事が増えているのだった。




