歴史改変の影響
冒険者ギルドのホールに入ったフィーナはザック達の座っているテーブルに近付くとある違和感を感じた。
出ていった時はザック達とフレデリカ達のパーティーだけだったはずなのだが、今はデビット達のパーティーとキング戦の時に知り合った真紅の暴凶星団の面々も同じテーブルに着いていた。
確か彼等は居なかったはず……そう考えたフィーナだったが、なんだか今は確かに居た気がしてきていた。
これが、女神が確定させた歴史に介入する事の不具合なのかもしれない。何しろこんな事態はそうそう発生するものでは無いからだ。
面々の空気も仕事の達成を祝うという様な雰囲気ではなく、今後の行く先をどうするか?の様な重苦しいものだった。
そんな彼らの様子に少し戸惑い気味のフィーナが彼らのテーブルに近付くと
「フィーナ、用事は良いのか? 俺はてっきりエルフ達の国に帰るもんだとばっかり……」
ザックがフィーナの事を見つけたらしく、神妙な顔付きで話し掛けてきた。
フィーナもイマイチ状況が分からずに席に着く。どう見ても仕事終わりの打ち上げといった雰囲気ではなく、大問題を抱えた重苦しい会合と言った感じだ。
なんとなく前からそんな感じだった気がするが、どうにも腑に落ちない。
「あの、フィーナさんはどうされるんですか?」
隣りにいるフレデリカが話し掛けてきた。
「え? あの……」
何を聞かれているのか分からないフィーナが戸惑っていると
「あぎゃ!」
イレーネの肩で休んでいたサラマンダーがフィーナ目掛けて飛び掛かってきた。
サラマンダーはいつもの様にフィーナの肩に留まると特等席と言わんばかりに寛ぎ始めた。
そんな二人のやり取りを見ていたイレーネが話し始めた。
「ガイの故郷のガイゼルが攻められそうって話。私としてはガイゼルが落とされたら私の故郷も危なくなるし、出来る事ならなんでもしたいんだけどね〜」
と、何も分からないがフィーナにイレーネが簡単に現状を説明してくれた。
ザック達のメンバーである戦士のガイの故郷であるガイゼルが他国に攻められるかどうかといった瀬戸際なのだそう。
また、ガイだけでは無くデビット達のパーティーも暴凶星団のパーティーもガイゼルに縁があるらしく、彼らはガイゼルに行き傭兵隊に参加するという事でほぼほぼ結論が出ているらしい。
彼らが今、帝国に居るのは仕事があり食べ物が美味いからであって、故郷が危ないのなら帰って手伝いたいという事の様だ。
それでザック達はどうするかというところでフィーナが戻ってきたという事らしい。
(え……私はどうすれば……)
フィーナは途端に困ってしまった。今の彼女の目的は小田信永の連合軍から帝国を守る事にある。
しかし、ザック達が死んでしまったりなんかしたら本末転倒であり、フィーナは後悔してもしきれない事になってしまうだろう。
しかし、帝国に連合軍の脅威をいち早く知らせなければならないのもまた現実である。
しかし、小田信永がガイゼルに侵攻を開始するのは一年後のハズ。
何度かの交渉を挟み万全を期して攻めてくるはずなのだ。
それならば、フィーナも一度ガイゼルへ行き、小田信永を止められる方法が無いか探ってくるのも有りかもしれない。
可能であればエルフの国まで行ってグリンウッド国の連合国からの離脱。
あるいはエンダール国まで行き小田を説得して戦争を止めさせる事が出来れば……帝国はおろかガイゼルの危機すらも回避できる。
「わ、私もガイゼルに行こうかと思います。傭兵として働くかは分かりませんけど……」
フィーナの意見を聞いてザックも身の振り方を決めたらしい。
「よし、それじゃ俺達もガイゼルに行くぞ。フレデリカ達はどうする?」
ザックの問いにフレデリカは即答で一緒に行くと答えた。
彼女達は最初からザック達について行こうと決めていた様な感じだ。
行き先や目的が決まると大抵は宴会の流れなのだが今日は重苦しい雰囲気のままお開きとなった。
パーティーメンバーはそれぞれ宿屋に泊まる為、帝都の街に散っていく。
今更だが冒険者パーティーにもよるが、宿を個人で別々にするというのもあまり珍しい話でも無い。
親しき中にも礼儀あり。なんでも一緒というのは気を使うため少しでもプライベートな時間を持った方がうまくいくのだ。
もちろんケースバイケースであり、個室の宿屋が無いような街であれば贅沢は言ってはいられない。
しかし、宿屋が沢山あり、金銭的にも不自由が無いのなら個室を選びたくなるのが人情だろう。
そんな訳で各々がそれぞれの宿屋へ向かい始めたのだが、イレーネとマリーはフィーナと別れようとしなかった。何故か彼女らはフィーナと同じ方向に歩いている。
「あの〜……」
フィーナが二人に話し掛けようとしたところ
「今日は私達三人でお泊り会しませんかぁ? こんな機会これからそんなに無いかもしれませんから♪」
イレーネに明るく返されてしまった。こう言われてはフィーナに断る事など出来るはずが無い。
三人は帝都でそこそこの宿屋にて素泊まりのためにチェックインするのだった。
三人部屋へと入ったフィーナ、イレーネ、マリーの三人はとりあえず重苦しい装備品などをチェストに片付け、三人共ラフな格好で室内に置かれたソファーに落ち着いた。
フィーナはいつもの濃緑色のワンピース姿に茶色のロングブーツ。
イレーネは白いブラウスに紫色のミニスカート、黒のとんがり帽子に黒いブーツ。
白い法衣を脱いだマリーは黒のロングシャツに白いスカート、白のショートブーツという格好だった。
そして、イレーネがどこからか出してきた果実酒の瓶とグラスを出し
ーキィィィンー
器用に魔法でグラスを冷やすと果実酒をそこに注ぎ始めた。
「さぁさ〜! フィーナさんもマリーもぐいっと!」
イレーネの目的は最初からこれだった様だ。フィーナとマリーの二人も
『いただきます』
をして果実酒の入ったグラスを手に取り口につける。
「帝都ともしばらくお別れですからね〜! 心置きなく楽しんでおかないと!」
そんな口上でイレーネは都会暮らしの思い出を語り始めた。
(…………)
彼女の思い出話はルイゼ親子の護衛の依頼が始まりだった。フィーナが盗賊達に拐われた案件だったが、イレーネの昔話にフィーナが記憶に何かの違和感を覚える事は無かった。
歴史改変の影響は帝都で過ごしていたザックやイレーネ達には及んでいないかに思えた。しかし
「ガイがパーティーから抜けたいなんて言い出すなんてね。あれは、いきなりだからビックリだったわよね〜」
ふいにフィーナが聞いた事の無い話が飛び込んできた。




