帝国の脅威
小田信永は一年をガイゼル国との交渉に費やしその間、間に合わせであったエンダール国の男達を鍛え始め三千の歩兵隊による自在に動けるファランクスを手中に収めていた。
また、エルフ達には来るべき決戦に備えてか長弓への装備変更を要請し速射訓練を依頼していた。
使い慣れた弓から大きな長弓への変更には異を唱えるエルフも居たが、小田信永にゾッコンな王女ディアナによって長弓への変更は強引に進められた。
一方、騎馬民族であるヌーディア族にも長槍と鎧を提供しそれらで槍を携えて敵に突撃する重装騎兵の訓練を依頼していた。
こちらも軽快な騎兵の利点を殺す気かと異を唱える者が居たが小田信永に心を寄せているノーラによって反対意見は却下されていた。
エンダール国……小田信永の軍勢は着実に強化されつつあった。
対するガイゼル国は幾重の城壁に守られた要塞の様な国であり、軍隊も歩兵や騎兵、魔法兵団や状況に応じて冒険者達を傭兵として雇い入れられるだけの国力を有していた。
いくら力を付けたとは言えエンダール国がガイゼル国に挑むのは無謀以外の何物でもない。
それはガイゼル国だけではなくエンダール国内の見方も同じであった。
しかし、数度に渡る交渉という名の強迫が不調に終わった小田はガイゼル国攻略を決定。
対するガイゼル国もエンダール国軍の動きを察知したものの、野戦で迎撃するか籠城で耐えるかの選択で意見が別れていた。
歴史では野戦を選択しガイゼル国境近くの平原でエンダール国を待ち受けている。歩兵一万、騎馬隊二千、魔法兵団五百という大軍勢であった。
ガイゼル国は防御側という利点を生かし平原の中でも比較的高台となっている高所に陣を配置した。
歩兵を中央に置き、両サイドに騎兵を半分ずつ配置。歩兵隊の後ろに魔法兵団を置いた。
対し、遅れて戦場に到着したエンダール国軍も陣を敷いた。三千の重装歩兵を一列千人を三列とし薄く広く展開させ後列にエルフ達の弓兵、ヌーディア族の騎兵は戦場に姿すら見せていなかった。
そんなエンダール国の陣形を高所から見ていたガイゼル国の司令官は侮りの感情を覚えていたに違いない。
見るからに薄い兵士の陣容に一万の歩兵を突撃させるだけで容易に打ち破れる様に見えた。
事実、ガイゼル軍は一万の歩兵を五百人を一列とした二十列の歩兵部隊を高所から突撃させた。
そんな大集団を相手に小田はエルフの弓兵部隊に敵の頭上から矢を落とす様、ひたすら上空に撃つように命じた。
放物線を描いて飛んでいった矢は重力に負け次々と地上へと雨の様に降り注いでいく。
そこには普通の剣と楯を構え普通のプレートメイルを着込んだガイゼル国の兵士達が居た。
上空から降り注いでいく矢の雨に兵士達は次々と倒れ伏していく。
いくら突撃しようともエンダール国の重装歩兵に槍が届くより遥か先の地点で矢の雨に晒されているのだ。
距離はおよそ二百メートル、その距離では歩兵はおろか魔法兵団の魔法ですらエンダール軍には届かなかった。矢の雨は止まる事無く引っ切り無しに降ってくる。
一万の歩兵を有していると言えど次々と減らされ倒されていく自軍の状況に退却を考えたガイゼル軍の指揮官だったが遅かった。
その時、戦場を大きく迂回していたヌーディア族の騎兵隊三千がガイゼル軍の後方から現れたのだった。
ガイゼル軍は騎兵二千を迎撃に向かわせたが数と練度で勝るヌーディア族の騎兵に対しては時間稼ぎにもならなかった。
騎兵を打ち破られ、高所にあった司令部もろとも包囲されてしまったガイゼル軍はあっけなく降伏してしまった。
彼等を一時的に捕虜とした小田は、捕虜の返還すら交渉材料としてガイゼル国に降伏を持ち掛けた。
しかし、野戦の一つに負けた程度ではガイゼル国は強気な態度を崩さなかった。
対する小田は捕虜達に自分達の目指す世界のあり方をエルフの王女ディアナに演説させた。
可憐な王女の語る理想論にガイゼル国の捕虜達はコロッと落城してしまい捕虜の全てがエンダール国に寝返るという有り様となってしまった。
この異世界の者達は老若男女種族問わず皆チョロいのかもしれない。お国柄と言うよりは異世界柄とでも言うのだろうか。
「そして、ガイゼル国の野戦軍すら取り込んで再び交渉に臨んだ小田はガイゼル国との休戦と同盟という形での決着を得る亊に成功したのだ」
ここまで一気に話したフレイアは明らかに不機嫌な顔をしていた。自分の想像に反して成り上がりを見せている小田信永への憤りから来る怒りかもしれない。
「ガイゼル国との同盟には続きがある。ガイゼル国には国民から愛されている幼き王女が居る。名をステファニーと言ってな……」
詳細を聞く前だがその後の展開はフィーナにも読めていた。
さしずめそのステファニー王女も小田信永に惚れるとかそういう話なのだろうと思ったらその通りだった。
アリスと言う正統派王女樣、エルフの王女ディアナ様、騎馬民族の元気娘ノーラだけで飽き足らず幼女枠まで確保してしまった小田信永にフレイアも怒髪天となる勢いだった。
怒りをキッカケに超なんちゃら人へと覚醒してしまうのではないかとフィーナが思ってしまう程。
「なぜこんなイキリ戦史オタが成り上がれる! なぜちやほやされる! なぜ惚れられる! こんな歪んだ世界が許されてたまるものか!」
深夜だというのにフレイアは元気である。
しかし、放っておいたら異世界に降りて小田信永を抹殺に向かいかねない。
仕方なく、フィーナはやんわりと上司を止める事にした。
「フレイアさん、ガイゼル国以外はどうなったんですか?まだありましたよね、諸国」
フィーナは話の続きを求める事でフレイアの超化を止めようとした。
「強国であるガイゼルが落ちたのだ。他の国が立ち向かえるはずも無い。後はほぼ消化試合の様なものだ」
魔法で成り立っていたヘンリック国、貿易立国であったシンダル国、広大な農地を有しているファーランド国、いずれも無血開城の様な状態でエンダール国の傘下に入っていった。
そして膨れ上がる軍勢と共に小田信永のハーレム要員も増えていった。
魔法国からはインテリ枠のアイリーン。商業国からはアイドル枠のミーリン。農業国からは遮光器土偶枠のグレーダ。
いずれも小田信永に惚れ込んでしまい見事なハーレムと化してしまっていた。
しかし、この異世界は一夫多妻制では無い。小田信永も調子に乗ってハーレムを築いたは良いが最終的な落とし所までは考えていなかったのだろう。
その結末はしっかりとアカシックレコードに記されていたのであった。




