真打ちの帰還
フィーナ達パーティーの食事はいつしか親睦会、新人歓迎会の様相を呈してきた。
最初は遠慮がちだったフレデリカ達もお酒が入ってくると徐々にくだけ初め、親睦会は宴会の騒がしさになっていった。
話題は冒険者となった経緯や目標、達成したい夢など同業だからこそ分かる共通の話題で盛り上がっていた。
フィーナとサラマンダーの給仕仕事も皆のお酒のペースが進むごとに増え始めていった。
空いたお皿を下げたりおつまみを調達したり、フィーナはほとんど店員かメイドの様になっていた。
フィーナが空いたジョッキを下げにギルドの人混みの中を進んでいると、人混みの中に見覚えのある人影を見つけた。
(あれは……?)
その小さな人影はフィーナを避ける様に人混みの中へ消えていく。
人影が気にはなるがジョッキを持ったまま追いかける訳にもいかず
「サラマンダーさん、お願いします」
フィーナはサラマンダーに人影の追尾をお願いした。急いでジョッキを下げたフィーナが宙に浮かぶサラマンダーを目印に駆け付けると
「ここはお前みたいな能無しが来るところじゃねぇんだよ!」
ーバキィ!ー
「うわあっ!」
男の怒鳴り声と殴打音が聞こえてきた。怒鳴り声を上げた冒険者は戦士風の粗野な男で日に焼けた肌が特徴だ。
一方、殴られ床に倒れていたのは行方不明であったビリーだった。
彼の姿を確認したフィーナはサラマンダーと共に二人の間に割って入った。
「ギルド内での暴力行為は違法です。なにがあったのか話していただけませんか?」
フィーナの説得に戦士風の男は渋々話し始めた。
彼の話によるとビリーの事を少し前に臨時のスカウト役として雇ったらしい。
しかし、索敵はろくに出来ず、パーティーはオーガの夜襲に遭い全滅の憂き目にあったのだそう。
野営中にかなりの距離まで近付かれてようやく気付くという有り様だった様だ。
「それでもすぐに起こしてくれりゃあ良かったんだ。大声出せば済む話なのにこいつは……」
戦士風の男は話をぼやき気味に続ける。オーガの接近を許したビリーは何を思ったのか短弓で矢を射かけるのに必死になっていた様だ。
そこで物音に気付いた彼が起きてどうにか事無きを得たらしいのだが……
(うーん……)
これは向こうの男に理がありそうである。どう考えても報・連・相を怠ったビリーに問題があったのは明白である。
「すみません、彼にはよく言って聞かせますからこの場は収めて貰えませんか?」
フィーナはこれ以上事が荒立たない様に戦士風の男の説得を試みる。
その時、騒ぎを聞きつけたらしいザック達もゾロゾロと騒ぎの現場にやってきた。
「なんだ? 何があったんだ? ……て、ビリーじゃねぇか! 一体どこに居やがった!」
ザックはビリーに掴みかかるがそれはマリーやガイに止められた。
「そいつ、お前達のパーティーのメンバーか?」
人数的に蚊帳の外になりかけた戦士風の男がザック達に話し掛けてきた。
「そいつの不手際で俺達は仕事を失敗しちまってランクも下がっちまった。責任……取ってくれるよなぁ?」
仕事の失敗は冒険者にとっての信用問題であり、今後の生活にも支障をきたしかねない。
いくら別行動していたとは言え、パーティーメンバーの粗相は所属しているパーティーの信用にも関わってくる。
ザック達がここで突っぱねる事は容易だが、その悪影響がどこまで尾を引くかは分からない。
相手が普通の同業者であるのなら、可能であれば円満に解決するのが望ましい話ではある。
「責任……金か?」
慰謝料代わりに金で精算するのが最も手っ取り早い話ではある。しかし
「俺達の仕事をタダで手伝ってくれるんならチャラにしてやるよ。どうだ?」
戦士風の男には金よりもランクが下がってしまった事の方が関心がある様だ。
恐らく下がったランクを元に戻せるくらいの高難易度の仕事なのだろう。
「仕事は何だ?」
何の仕事か分からなければ請ける訳にはいかない。ザックが仕事の内容について尋ねると
「オーガの砦の壊滅だ。俺達が元々請けていたのは山道に出没する正体不明の魔物の調査だった」
彼が言うにはビリーを臨時で誘った仕事は調査任務だったのだそうだ。原因と敵の数を探るといった今後の仕事の布石となる様なモノだったらしい。
しかし、敵であるオーガに見つかってしまった事で、敵は警戒し防備を固め始める結果となってしまった。
より困難な仕事となってしまっては、より実力の高い冒険者を集める為に高い報酬を払わなければならない。
仕事の依頼人からクレームが冒険者ギルドに入ってしまい、結果的に彼等のランクが下げられてしまったと言う訳だ。
「敵がオーガだって分かってたら俺達だって慎重に立ち回ったさ。よりによってこいつは先手を取りやがったんだ」
オーガは組織的な魔物である。知能があり、やられたらやり返すという単純明快なルールに従って行動している。
つまり、オーガ達に見つかっただけでは対立は確定という訳では無く、戦うこと無くやり過ごせていた可能性もあったのだ。
しかし、ビリーが短弓で攻撃してしまった為にオーガ達は怒り心頭。
結果としてオーガ達は手出しが困難な脅威となってしまったのだ。
「ビリーさん、オーガの特性は知っていたんですか?」
フィーナの問いにビリーは俯きながら首を横に振った。
フィーナ自身もオーガの特性など知らなかったが彼女の性格上、知らない敵に出くわしたらまず味方を頼るはずである。
ビリーの無鉄砲さが裏目に出てしまった結果と言えるだろう。
「オーガの殲滅か……」
オーガは怪力自慢の強敵である。今のザックやガイの実力では一対一でも手に余る。
イレーネの魔法の支援があってやっと一匹仕留められるかどうかといった実力差である。そんな相手が徒党を組んでいるとなると……
戦士風の男の仲間が何人居るかは分からないが、ザック達のパーティーが加わってもかなりキツい戦いとなるのは明白である。
仮にフレデリカ達のパーティーも追加で入ったところで焼け石に水だろう。
「明日まで時間やるから考えといてくれよ?」
戦士風の男はそう言うとギルドから出て行ってしまった。




