魔神
先頭のザック達は武器を失いイフリートに対抗する手段を失ってしまった。
剣や戦斧があったところで何かが出来る相手ではないだろうが、丸腰で何も出来ないでいるザック達に対しイフリートが
「どうした? 恐怖で何も出来ないか?」
ザック達に近寄りながら余裕たっぷりに語り掛けてきた。
二人は護身用の短剣を手にしたものの二人は動く事が出来ない。その時
「アブソリュートフリーズ!」
後列のイレーネが冷気魔法を発動させた。
ーキイイィィィン!ー
イレーネが魔法を発動させるとイフリートを中心に冷気が発動し、そのまま周囲の湿気によって彼を完全に凍てつかせてしまった。
「やったか!」
最前列のザックが凍りついたイフリートを見て叫んだ。しかし
「やれてる訳無いでしょ。時間稼ぎよ時間稼ぎ」
イレーネがため息を付きながらザックにツッコミを入れている。
その間にもイフリートからは湯気が発生し始め凍りついてたはずの身体が動き始めた。
「さっきもこんな小細工をしたのはそこの小娘か。甚だ図々しい」
イフリートがイレーネに手を向けた次の瞬間
ーバッ!ー
「サラマンダーさん…!」
フィーナの胸で震えていたサラマンダーがイフリートとイレーネの間に割って入った。
サラマンダーはイフリートからの熱線の直撃を受けたが、炎属性だけあって何とか耐える事は出来た。
しかし、サラマンダーはかなり辛そうにしている。
「こうなったら逃げるしかないわね。皆、後ろの空洞に逃げるのよ!」
これまで状況を見守るだけだったレアが退却を指示した。有効な対抗策など何もないザック達は素直にレアの言葉に従い出した。
レアは続けてフィーナとマリーにも指示を出す。
「マリーちゃんは光の壁をありったけ私達とイフリートの間に展開して! フィーナちゃんはシルフを呼び出して空洞に逃げる皆の着地を助けてあげて!」
レアからの指示は簡潔だった。フィーナはサラマンダーの呼び出しを一旦止めた。
彼を自然に帰すと同時に風の精霊シルフを呼び出す。
ービュウウゥゥ……ー
フィーナが空洞へと続く崩れた壁の一角に近寄ると、ザック達が空洞に入るのに躊躇しているところに到着した。
「こんなの降りられるのか?」
底の見えない縦穴を前にしたザックの反応は当たり前のものだった。
「シルフさんが風の力で着地をお手伝いします! ですから急いで!」
フィーナは空洞の縦穴に飛び降りる様にザック達を促しつつシルフに軟着陸の準備を進めてもらっていた。
ービュウウウゥ!ー
途端に縦穴の底からかなりの風圧で風が吹き始めた。
「それじゃ、お先!」
「ちょ!引っ張るな! うわあああ!」
イレーネが先陣を切りザックの腕を引っ張って縦穴を飛び降りていった。
「お前達も急げよ!」
ガイはそう言い残すとザック達の後を追った。残るはマリーとレアである。フィーナがイフリートと対峙しているはずの二人の方を見ると
「これで最後です! ホーリープロテクト!」
マリーが張った光の壁は幾重にもイフリートとレアの間を阻んでいた。
「マリーちゃんも逃げなさい! ここは私に任せて早く!」
レアがマリーに早く立ち去る様に死亡フラグバリバリのセリフで促す。
しかし彼女はレアを残す事に躊躇している様だ。
「マリーさん! 急いで!」
フィーナは無理矢理マリーの手を引くと縦穴のある空洞の入口に移動させた。
マリーは縦穴の高さに一瞬躊躇ったがすぐに意を決し飛び降りて行った。
「レアさん! 私以外は全員降りました。レアさんも早く……!」
フィーナがレアの方を振り返りながら彼女に声を掛けた。その時レアは
「うぬぅ! なんだこれは!」
マリーが展開した光の壁を転移で越えてきたイフリートに対し、レアは独自でもう一枚の光の壁を展開してイフリートを光の壁同士で挟み込んで圧迫していた。
挟み込んでいるというよりはめり込んでいると言った方が正解か。
イフリートの顔の部分は光の壁に器用に穴を空け、会話が成立するようにしている。が、身体の方は完全に身動きが出来ない様に完全に捕らえていた。
「き、貴様……何者だ!」
光の壁から顔だけ出して悔しそうに叫ぶイフリート。
(ああいうの、観光地によくある様な……)
イフリートのなんだかその間の抜けた様子に、フィーナは観光地でよく見る顔だけ出す記念撮影用のオブジェを思い出していた。
「イフリートさん、あなたどうしてこんな事したの?」
レアは動けなくなって悔しがっているイフリートに尋問気味に声を掛けた。
「不遜な人間共に我が力を見せつけてやって何が悪い?」
ぐぬぬ……と、悔しそうなうめき声を上げながらイフリートはレアの質問に答えたが
ーバチーン!ー
レアはそんなイフリートの頬におもいっきり平手打ちをお見舞いした。
「そうじゃないでしょ? 分かりやすくお話なさい。私は理由を聞いてるの」
レアは低い声でもう一度イフリートに問い質した。確かにさっきの答えではイマイチ要領を得ない。
「なぜそんな事を貴様如きエルフに……ぐおっ!」
イフリートが四の五の言おうとするとレアは容赦なく光の壁による圧迫を強めた。光の壁に拘束されてしまっては転移も使えないのだろう。身体が前後から挟まれる苦痛にイフリートは必死にもがいていた。
「私の顔見忘れちゃったかしらね?」
レアが笑顔で尋ねるとイフリートはハッとした顔になり、ゴニョゴニョと鉱夫達を焼き尽くした理由を話し始めた。
イフリートは完全にレアの正体が誰なのか理解した様だ。
暴れん坊な征夷大将軍と週替りの悪役代官みたいなやり取りをしたその後、イフリートは明らかにレアに対し恐縮した態度へと変わっていた。
「だって……人間共が我の住処の壁を壊したから……。その前からも何だか五月蝿くしてたし……人が寝てる横でそんなんされたら、マジありえないッスよねぇ?」
イフリートはレアの正体が分かった途端に口調を変えてきた。今まではキャラを作っていたのかもしれない。
「フィーナちゃんはもう行っちゃっていいわよ。私はイフリートさんに教育的指導と魔界への連絡、鉱夫さん達の蘇生もしなくちゃならないから」
レアはフィーナの他に誰も居ないのを良い事に、神力で後始末をしていくつもりの様だ。
ここから先は異世界の女神であるレアの判断だし、仕事上フィーナが意見できる立場でもない。
「わかりました。レアさんだから大丈夫だとは思いますけど……気をつけて下さいね」
フィーナはそう言うと、ザック達の後を追う為縦穴の底へと降りていくのだった。




