決着
フィーナ達は重苦しい空気に包まれていた。全て片付けたと考えていたサンドワームに生き残りが居たからだ。
しかも今度のサンドワームは今までの個体と違い、基本は地中を這い回っているのだが、フィーナ達の居る岩場の下も這い回り始めた。
ーズズズズズ……ー
そしてサンドワームが通り過ぎていく度に避難場所としている岩の高さが低くなっている様だった。
「まずいぞ! このままじゃ岩ごと俺達も砂の中だ!」
ザックが焦りとともに大きな声を上げた。たしかにこのままでは彼らが立っている岩も砂漠の中に埋まってしまうのも時間の問題だった。
攻撃しようにも相手が岩の下ではフィーナの光弾もイレーネの氷柱も当てる術は無い。
サンドワームが通る度にジリジリと岩全体が砂地に沈んでいく中
「こうなったら俺が囮になる。ヤツが姿を見せたら絶対に仕留めてくれ」
ザックが身に付けているプレートメイルを脱ぎ捨て、丸腰で砂地に降りようとし始めた。そんな彼を見たガイも
「囮は多いに越した事無いだろ」
彼もまたレザーアーマーを脱ぎ始めた。そんな二人を見たイレーネが
「待ちなさいよ! 敵が落とし穴掘ってたりしたらどうすんの? 無駄死によ、無駄死に!」
サンドワームには地上に姿を見せずにこちらを捕まえる方法がある事を説明する。
確かにフィーナもキングとの戦いの時にタイラントスパイダーの落とし穴にハマった事が遭った。
あの時はレアが助けてくれたが、頼りになるその彼女も今は居ない。
このまま岩ごと地中に飲まれてしまったら全員が助かるのは難しくなる。
万策尽きたと判断したフィーナがまとめて全員を帝国に転移させようとしたその時
「落とし穴……? 待って、フィーナさん!」
「な、なんですか?」
転移の準備を始めていたフィーナはイレーネに話し掛けられ慌てて転移の準備を止めた。
「ノームさんってこの岩の下にあるサンドワームとの間にある土、どっかにやっちゃえる?」
フィーナにはイレーネの言葉の意味は分からなかったがノームは理解できたらしい。大きく頷いて出来るという事を身体で伝えている。
「じゃあ、今すぐお願い!」
イレーネの決断は早かった。フィーナがノームにイレーネからの指示を遂行するよう伝えると
ードズゥゥゥン!ー
彼らののっている岩が急激に地中に沈み込んだ。沈んだと言うよりはエレベーターで下階に下った時の様な垂直落下に近い。
フィーナ達は少し身体が浮いた様な感覚を感じた後、柔らかい何かに岩が着地した感覚を味わっていた。
ーズシン!ー
「ギャアアア!」
突然岩の下から響き渡る悲鳴に人々も馬達もパニック寸前だった。おまけに岩の下の何かがもがいているのか岩は絶え間無く大きく揺れている。
岩の高さは地面と殆ど同じ高さになっていて、もしサンドワームが舌を伸ばしてきたら難なく捕らえられてしまうだろう。
「私達が助かる方法は二つ。サンドワームが岩に潰されるのを期待して全力で街まで走って逃げるか、ここでサンドワームを倒すか」
イレーネが杖で岩をコンコンと叩きながら今後の執るべき方針を語った。高さが無くなった岩の上ではサンドワームに舌を伸ばされたら簡単に捕まってしまう。
逃げるなら岩の重みでサンドワームが動けなくなっている今しか無い。しかし、ここから街まではまだまだ距離がある。
逃げると決めたところで簡単に実行出来る距離では無い。
「俺達は逃げさせてもらっていいか? 馬が三頭居るからなんとかなりそうなんだ」
隊商のリーダーが提案してきた。護衛対象である彼らを先に逃がすのは吝かでは無いが……
「いいとは思うんだけど……フィーナさん? 岩の下の一匹以外はとりあえず居ないのよね?」
イレーネがフィーナに現状を尋ねる。ノームによると今把握しているサンドワームは岩の下の一匹だけだという。
その答えを聞いた隊商のメンバー達はすぐに街へ行くために馬の準備を始めた。
鞍も鐙も無しに馬に乗るのは難しいのだが隊商のメンバー達はなんとか街に向かって出発した。
その間も岩は字面の下からユラユラと揺らされており、サンドワームがまだそこに居る事の証明にもなっていた。
馬に乗って遠ざかっていく彼らの旅の無事を祈りながらフィーナ達は隊商のメンバーを見送った。
隊商のメンバーが地平線の彼方に見えなくなって初めて安心する事が出来たのだった。
隊商のメンバーが去ってしばらく経っても足元の岩は揺れ続けサンドワームが蠢いているのを表していた。
そして太陽が砂漠の空に高く上がった頃、地平線の彼方から馬車が何台か近付いてくるのが見えた。
「あれ、商人の馬車じゃねーか?」
「とにかく大声だ。叫んで助けを呼べ」
「おーい! ここだー!」
「助けてくれー!」
ザック達は盗賊達と一緒にひたすら手を振り大声で馬車隊に呼びかけた。
その声が届いたのか馬車隊は明確にザック達の元に向け進路を変え確実に近付いてきてくれていた。
「おめぇさん方、こんなトコでなにやってんだ?」
先頭の馬車の御者の男が声を掛けてきた。
「バケモノが地面の下に居て困ってるの。街まで乗っけてってくれない?」
イレーネが早速交渉に入った。交渉と言うよりは単純なヒッチハイクのお願いに近い。しかし、そこは愛嬌のあるイレーネである。
「構わねぇが纏めては乗れねぇぞ。別れて乗ってくれ。」
イレーネの交渉もあってか御者は快く応じてくれた。しかし、一台の馬車に全員は乗れないらしい。
まずはマリーとイレーネ、盗賊の二人が最初の馬車に乗り込んだ。
続いてガイと盗賊の男達三人が次の馬車に。最後にザックとフィーナ、首領も含めた残りの盗賊達が乗り込む事になった。
(……?)
乗り込む順番待ちをしていたフィーナは足元の岩の揺れがいつの間にか完全に止まっているのに気が付いた。
(まさか……!)
サンドワームが岩の重さに耐えきれず力尽きた可能性もあるが、もしかしたら岩の重みをはね退けて逃げ出してしまったのかもしれない。
反射的に自分の足元を見るが異常は何も無い。また、辺りを見回しても周囲には何の変化も見つけられなかった。
「フィーナ! お前の番だ、乗れ!」
ザックがフィーナに馬車の荷台に乗る様に促す。彼女がその声に従い馬車に乗ろうとしたその時
ーシュルシュル……ギュッ!ー
「きゃっ!」
何かが自分の足に絡みついてきたかと思った時には左足首が既にきつく締め付けられていた。
フィーナの足に絡みついた触手は器用にもう片方の足にも巻き付き彼女の動きを封じてしまった。
「や、やだ…!」
ードサッ!ー
「あうっ!」
両足が捕らえられ蹌踉めいたところを凄い力で引っ張られた彼女は、地面に倒されてしまい成す術無く避難していた岩の辺りの砂地へと引き摺られていく。
ードオオォン!ー
「きゃあぁぁぁっ!」
フィーナが引き摺られていく先の地面からサンドワームが地上に顔を出した。
ーブウォォォン!ー
「いやあっ!」
鎌首をもたげる様に頭を持ち上げ、フィーナの事も力任せに宙に引っ張り上げてしまう。
両足をサンドワームの舌に捕らえられたフィーナは逆さ吊りの状態にされている。
「いやぁっ! 放してっ! 降ろしてぇ!」
フィーナは必死に両手を地面に伸ばしているが、それは何の意味も無い行動だった。
「フィーナ!」
ザックが剣を手にサンドワームに駆け寄った。彼はフィーナを捕らえている舌を斬ろうとするが剣が届きそうにはない。
馬車に乗り込んだイレーネもフィーナの悲鳴を聞き魔法で対処しようとしたが、フィーナを楯にする様に吊り上げているサンドワームに対し有効な手段は見当たらない。
サンドワームが地上に姿を見せた今こそ光弾で仕留める絶好の機会だ。
しかし、宙吊りにされている今のフィーナにはそんな事を思い出せる程の冷静さはどこにも無かった。
彼女を捉えている舌の根本には触手が無数に生えており、それに捕まったら助からないのは明白だった。
「いやっ! 放してぇっ!」
ただ逃げる事しか思い付かないフィーナが必死に身を捩って抵抗していると
「グオオオオ……」
サンドワームは苦しそうな声を上げたかと思ったら突然えづき始めた。何度か苦しそうにえづいた後
「ゲボォっ!」
サンドワームは口から何かを吐き出した。吐き出されたそれは石の様な人間位の大きさのモノで、地面に落ちた衝撃でそこかしこに亀裂が入っていった。
ーピシピシ……パキッ!ー
そして亀裂の隙間から見えてきたのは艶のある滑らかな金髪と透き通る様な白い肌。
ーピシッ! バキッ! バキッ!ー
茶色い石の様なモノは次々と剥がれていきすぐにその正体は顕になった。
「ウインドカッター!」
ースパアッ!ー
その者はすぐに風の精霊シルフを呼び出し、風による斬撃でサンドワームをあっという間に輪切りにしてしまった。
「あ……!」
開放されたフィーナは何も出来ずに地面に落下していった。そして地面にぶつかりそうになったその時
ーガシッ!ー
落下中のフィーナはその何者かに抱き抱えられ事無きを得る事が出来た。
「レアさん……!」
サンドワームを仕留めたのは捕食されたはずのレアだった。
「フィーナちゃんったら、本当に世話が焼けるんだから♪」
彼女は平然とフィーナを抱え、彼女達はザックに付き添われて馬車へと向かうのだった。




