開放
翌朝、様子を窺っていたフィーナだったがいつもの様にメイドが着付けに来る様子は無い。その時に一日の予定を教えられるのが日課だったのだが……今日は誰も来る気配が無い。
(ここでぼーっとしていても……)
と、部屋を出たフィーナは廊下を歩くメイドを呼び止めて話を聞く事にした。
「あの、すみません。私はもう……お屋敷を出て行っても良いんですか?」
呼び止められたメイドは不思議そうな顔をしながら
「はい。その様に申し付けられておりますが」
さも当然と言わんばかりに答えるのだった。
「あの、ギュンターさんは今はどちらに?」
最後に挨拶はしておこうとフィーナはバルトゥジアク卿の事を聞いてみるが……
「旦那様でしたら、政務の為にお城に行かれてます」
彼はとうに屋敷から出掛けてしまっている様だった。メイドは何かを思い出したのか言葉を続ける。
「旦那様から言付けをお預かりしております。今後露頭に迷う事があったらいつでも戻ってきてかまわない……との事です」
メイドはそう言うと仕事があるのか行ってしまった。一人残されたフィーナは部屋に戻ると荷物を持ちそのまま屋敷を後にする事にした。
廊下を行くメイド達に会釈しつつ屋敷を出ると眩しい日差しが照りつけてきた。
澄んだ青空はどこまでも続いて見え雲も高く見通しはとても良い。
バルトゥジアク卿の屋敷のある住宅地はルイゼの屋敷とは全く別の位置にあるせいか、街の中心地からは大分離れている。
(気長に歩いていきますか……)
フィーナが帝都の道を歩いていると街の外から大勢の人間の物音が聞こえてきた。
馬の蹄の音だったり馬車の動く音だったり男達が訓練でもしている様な掛け声だったりする。
もしかしたらキングと呼ばれている蜘蛛の化け物を倒す為に集められた人員なのかもしれない。
(…………)
数日前までお尋ね者だった為かなんだか街行く人達に見られている様な気がする。
この時のフィーナは知らなかったのだが、この世界ではエルフそのものがはかなり珍しい存在なのだ。
そんなエルフがサラマンダーを肩にのせて歩いていれば珍しがられるのも当たり前ではある。
子供を連れた母親とすれ違ったところ子供達に手を振られてしまったフィーナは
(え……と……)
キョロキョロと辺りを見回し自分の事かと判断すると慌てて手を振り返した。よく見ると子供達の視点はフィーナから少しズレている。
もしかしたらサラマンダーに手を振っていたのかもしれない。今のサラマンダーは若干おねむの様であまり活発では無い。
フィーナがサラマンダーをツンツンするとサラマンダーは気が付いた様で子供達が手を振るのも気が付いた様だ。すぐに子供達に手を振り返していた。
(もう少し頑張らなければなりませんね……)
キングがどれほど強力な魔物かは分からないがキングをなんとかしなければあの子供達の生活も危うくなってしまうだろう。
帝国がどんな方法を考えているのかは分からないが、冒険者の力も必要としているのだから相当強力なのは間違いない。
時間的にさほど余裕は無いはずなので早くザック達と合流しなければならない。
フィーナは冒険者ギルドのある街の中心部へと急ぐのだった。
冒険者ギルドに着いたフィーナだったが、目の前に来てみるとその大きさに圧倒されていた。
建物そのものは平屋だが敷地そのものは広く庭みたいなものまである。
離れにも建物がいくつかある様で訓練所も兼ねている様に見える。
(ここが入り口……かな?)
周りを見回しながらフィーナが正面入り口から入ると
ーギギィィィー
広いはずのホールにひしめく冒険者の数に圧倒されてしまいフィーナは中に入るのを躊躇してしまった。
中に入れるだけのスペースはあるもののザック達を探せそうな人口密度ではない。
ふと肩にのっているサラマンダーを見てみるも首を振って完全拒否の構えだ。
サラマンダーに中に入ってザック達を探してもらおうかと思ったのだが、頼む前から拒否されてしまった。ざっと見てみてもザック達は近くに居る様な感じはしない。
(少し外で待って見ますか……)
フィーナは仕方なく冒険者ギルドの敷地にある庭でザック達を待つ事にした。
ギルドの入口に続く道沿いに置かれているベンチに腰を下ろし道行く冒険者を眺めながらザック達が通らないかと思っていると
「なぁ、あいつエルフだぞ」
「噂通りかなり可愛いんだな〜」
「見たとこソロっぽいな」
「ラルフ、パーティーに誘ってみろよ?」
ヒソヒソ声で話している様だかフィーナには丸聞こえである。
エルフ耳も便利ではあるが、この世界では弊害があるのかもしれないのかな……と、考えているとさっきの声の主達がフィーナの前にやってきた。
「あ、あ〜俺達は真紅の暴凶星団ってパーティーのモンだ」
仲間からラルフと呼ばれていた男がパーティーの自己紹介を含めつつ挨拶をしてきた。
(真紅の暴凶星団……超新星爆発間近の赤色巨星の集まりでしょうか……?)
と、フィーナが誘いを断る前提で取り留めの無い事を考えていると
「俺達、戦士だけのパーティーだから魔法を使えるのが欲しいんだよ」
「あんた精霊魔法使えるんだろ?」
「頼むから俺達のパーティーに入ってくれよ〜?」
ラルフ以外のメンバー達が勧誘に加わってきた。なんとなく雰囲気が前の異世界で出会った白銀の群狼の面々にノリが似ている気がする。
あまり話を進められても困るのでフィーナが他のパーティーに所属している事を伝えようとした時
「あ、フィーナさーん! おーい!」
少し離れた街の方、冒険者ギルドの正門の方からイレーネの声が聞こえてきた。見ると、イレーネ以外にも他のメンバー全員が揃っていた。
見た目男達に言い寄られている様に受け取ったらしく、イレーネは急いでフィーナの元にやってきた。
「あんた達! フィーナさんに何の用? 勧誘ならお断り! もう、うちのパーティーに入ってるんだからね!」
まるで喧嘩でも吹っ掛けるかの様なイレーネの物言いに赤色巨星の面々は爆発寸前だ。
「なんだお前! ちょっとばかし可愛いからっていきなり口挟んできやがって!」
「お前には話してねぇ! すっこんでろ!」
「俺達を誰だと思ってやがる! 俺達はあの…」
イレーネの乱入は話をややこしくしただけとなってしまったらしい。
「あの、私は他のパーティーに所属してまして……」
フィーナは慌ててラルフに現状を説明するがイレーネと向かい合っている三人の戦士達にその声は届いていなかった。




