情報交換
屋敷に取り残される形となったフィーナは自分が逸れてしまった後のザック達の行動をマリーに聞いてみる事にした。
「マリーさん? 前に盗賊に襲われた後ってどうしてたんですか?」
これはフィーナがパルドゥジアク卿の屋敷に来る事になったキッカケの盗賊達との一件についてである。
それに対するマリーからの返事の内容は以下の様なものだった。
まず、盗賊の包囲を突破したザック達はそのまま帝都にルイゼ達シュトリーゾフ父娘を送り届け、報酬を受け取ろうとしたのだという。
しかし、父親のシュトリーゾフ卿からこのままルイゼの警護の仕事をしなければ報酬は払わないと言い出したらしいのだ。そして仕方なく引き受ける事になったらしい。
護衛の仕事がてら帝都に滞在していたら後からサラマンダーがやってきたので、とりあえずフィーナは生きているのだろうという事でフィーナの捜索は後回しにしたとの事。
ビリーもいつの間にか帝都に来ていたので合流、ザック達はルイゼの警護の仕事を続けて現在に至るのだそうだ。
「それでルイゼさんの護衛をしていたらフィーナさんも助ける事になりまして……フィーナさんが無事で良かったです」
マリーはフィーナ達の事を助けた時の出来事を思い出しながら語っていた。
「フィーナさん? フィーナさんはルイゼさん達にどうして違う名前で呼ばれてるんですか?」
ふいにマリーがフィーナについての疑問を挟んできた。
フィーナはあまり気にしていなかったが彼女が別の名前で呼ばれているのがマリーは気になっていた様だ。
「それは……攫われていた時に付けられた名前でして、ヘルムートさんやルイゼさんにその名前で覚えられてしまったので、今更無理に訂正しなくても良いかなって……」
平たく言うと、わざわざ訂正するのが面倒という非常にズボラなものだった。
それに、いちいち訂正するのは場の空気を悪くしてしまいそうな気がしなくもない。
萩原さんや荻原さんも似た様な悩みはきっと抱えているだろう事にフィーナが思いを馳せていると
「あの、マリーさん達は私が居ない時に危ない目に遭ったりとかはしなかったですか?」
これもフィーナの気がかりだった事の一つではある。ザック達に対して運命めいた何かが彼らを全滅させるように仕向けていた気がしたのだが……
「うーん、フィーナさんが攫われてからは帝都で護衛のお仕事をしていたので……特に危険な事は無かったと思いますけど……」
マリーは錫杖を大事そうに抱えながらフィーナの質問に答える。
まだ気を抜いてはいけないとは思うがとりあえずは大丈夫だったらしい。
あとは今後の事だが……とりあえず自分はお尋ね者の身で自由に出歩く事は出来ない。姿を消していけば出来ない事も無い。
光の精霊ウィル・オー・ウィスプの力で光を屈折させれば光学迷彩の様に周囲の風景に溶け込めるはずだし、フィーナがその力を行使する事に何の不自然も無い。
しかし、わざわざ自分が出歩いて危険を呼び込む様な真似をする事も無いだろうとは思う。
ヘルムートの様子はルイゼ達が見に行っているはずだし、一度暗殺されかけたのなら今は厳重な警戒が成されているはず。
気がかりがあるとすれば行方不明のバルトゥジアク卿くらいか。元々、彼はフィーナを攫った側の人間である。
彼も何かしらの目的の為にフィーナを利用していたであろう男だ。そんな彼の事を気にする必要など無いのかもしれないが……
(なんだか、この国の重要な人そうですからね。放置は良く無いのかも……)
この国において歴史的に重要な人物であれば放置は不味い。
歴史があらぬ方向へ変化してしまう恐れが出てきてしまう。彼が居ることで歴史に悪影響が出るならともかく、フィーナにはバルトゥジアク卿が悪人とは思えなくなってきていたのだ。
自分が動けないのであれば……
フィーナは自分に寄り添って休んでいるサラマンダーを抱き上げて話し掛けてみた。
「サラマンダーさん? これからお城に行ってバルトゥジアクさんを見つけてきて欲しいんですけど……お願い出来ますか?」
(あぎゃぁ……)
サラマンダーの反応はあまり良いものでは無く気が乗らない事を全身で表していた。
しかし、フィーナの手を離れたサラマンダーは部屋から出ていくとそのまま城へ向かっていった様だった。
後はザック達が帰ってくればとりあえずは安心だし、特に気がかりという事も無い。だが……
ルイゼ達がヘルムートの様子を見に城へ向かってから二日が過ぎた。バルトゥジアク卿を探しに行ってもらったサラマンダーも戻ってきていない。
彼らになにかあったのかとフィーナは不安に思っていたが、マリーはそれどころでは無い様だった。
「もう二日ですよ、あまりに遅過ぎです! 皆に何かあったのかも……」
落ち着かない彼女は自分も城へ様子を見に行くと言い出したのだ。
ザック達に何かがあったのかもしれないが、フィーナとしてはそれは止めてもらいたい。
一旦遠ざけた全滅フラグが戻ってきてしまう事にもなりかねない。
しかし、このままルイゼの屋敷に留まっていたところで何か進展がある訳でも無い。
城に行こうとするマリーを引き止め自分も同行する事を伝えた。
「でも、さすがにその格好では……」
マリーに指摘されて初めて気が付いたが、フィーナは貴族然とした白いドレスを着ている。
「あ……」
さすがにこの格好で街に出たら捕まえて下さいと言わんばかりである。
困ったフィーナは侍女のステラに何か無いかと聞いてみる事に。
「レティシア様に合うお洋服ですと……ルイゼ様のお召し物しか……あ!」
何かを思い付いたらしいステラは部屋から出て行ってしまった。ステラが居ない間、フィーナとマリーは街に出る時の注意点について話し合う。
「フィーナさんはお尋ね者なんですよ? どうやってお城まで行くつもりなんですか?」
何も考えていなかったフィーナに対して物事の核心を突く質問をマリーから投げかけられた。
「あ……えっと、う〜ん……」
ノープランなフィーナは言葉に詰まる。仮に変装したとしてもその長い耳は隠す事は出来そうに無い。
しかも、お尋ね者のビラは人相書きがほとんど機能していないとは言え、特徴的な長い耳は書かれているので街を歩けばフィーナは即通報されてしまうだろう。
サラマンダーを使いに出している今、重複して光の精霊を呼び出す事は出来ず、この世界に沿った方法で姿を消す事は出来ない。
「お待たせしました! このお洋服はどぅでしょう? 庭師が使っているものなのですが……」
息を切らせたステラが持ってきたのは赤色のシャツに淡い青い色のズボン。つばの広い麦わら帽子……。
なんだか何処かの海賊を連想させる色彩だが、とりあえず変装に無理は無い様に見える。
帽子を深く被れば長い耳も目立たなく出来そうではある。髪を結い上げたフィーナが着替えを済ませ帽子も被ると立派な海賊王……ではなく庭師となる事が出来たのだった。




