暗中模索
黙ってルイゼ達のやり取りを見ていたフィーナにイレーネがふいに話し掛けてきた。
「でも、この報奨金生け捕り限定なんだよね〜。普通だったら生死問わずのはずなんだけど……。フィーナさん、なんか心当たりない?」
イレーネはピラピラとフィーナにお尋ね者のチラシを見せながら聞いてきた。
チラシには依頼者の名前はどこにもなく皇帝陛下の勅命として出されていた。
何だか大事になってきた気がしたフィーナは
(本当はただのゴブリン退治の補助の仕事だったはずなのに……)
広告内容と実務に差がありすぎた従業員な思考に困惑し、なんでこんな事になっているのだろうと一人途方に暮れていた。
ここまで国の重要人物に関わってしまっては、今すぐに天界に帰ったとしても、後世の歴史にどんな悪影響を及ぼすか分かったものでは無い。
第一、暗殺されかけた皇子ヘルムートや行方不明のバルトゥジアク卿を放置して投げっぱなしのまま天界に帰りたくは無い。
何とかしたいと思うフィーナだったが、今回の陰謀を暴ける様な妙案も無ければ相手を出し抜ける様な考えも思い付かない。
神力で全てを吹き飛ばせば問題解決になる様な単純な話でも無い。
しかも、現在の自分はお尋ね者の身。自由に街中を出歩く事すら出来ない。
こんな自分にここから逆転出来る方法があるのだろうか……?
(う〜ん……)
元々、頭脳労働があまり得意では無いフィーナにとってはこんな陰謀めいた事態への対処など無理難題に近い。
「あ……!」
自分で考えても駄目ならそれが得意そうな人に頼めば良いと思い付いたフィーナは未だに自分の処遇について激論を交わしているルイゼに聞いてみる事にした。
「あの、ルイゼさん? バルトゥジアクさんが今、どこに居るのかはご存知ありませんか?」
ずっと黙っていたフィーナが話し掛けてきたからかルイゼは少し驚いている様だった。彼女は少し考えた後
「バルトゥジアク卿は行方不明のままでして……。レティシア様が捕らえられたのとそう違わない時間にやはり捕らえられてしまったものと……どこにおられるのかは全く分かりません」
ルイゼの答えはフィーナのプランを粉砕するのには十分だった。
政治の世界に詳しいであろうバルトゥジアクに頼んで知恵を貸してもらうという方法は使えそうに無い。それならばと少し考えてみたフィーナは別の質問をしてみる事にした。
「それじゃ、私とヘルムートさんにお茶を淹れた給仕係の人は……? 彼なら何か知っているんじゃないですか?」
さも名案を思い付いたとばかりにフィーナは明るい声で発言してみたが……
「給仕係なら死体が見つかったよ。溺死したのが近くの河原で見つかってな」
多少食い気味にザックから返事が帰ってきた。あまりの返しの速さに元からフィーナが何を言うのか予め知っていたのではないかと思う程。
秒で否定されてしまったフィーナはがっくりと項垂れてしまった。
頭の良い人にも頼れない、何かを知っているであろう重要人物も亡くなっている。
仮に天界に戻って給仕係魂を見つけたとして、この異世界でどうやって真実を話してもらうのか、それ以前に給仕係は何か知っているのか?それすらもフィーナには分からない状態だった。
こうなったら天界からヘルムートが毒を盛られた時から時間を遡って経緯を確認してもらうしか無い。
(ミレットさん……聞こえますか?)
フィーナは天界で留守番中のミレットに頼んでみる事にした。確かこの異世界を監視している視点が変になってそのままにしていたはず……。
それを元に戻して時間を巻き戻して見てもらわなければならない。
(…んぁ! せ、先輩? おはよーごじゃいまふ……ムニャムニャ……)
フィーナの呼びかけに反応してくれたミレットだったが完全に寝ぼけている様だった。
気を落ち着けてフィーナはミレットに頼み事を伝える事に。
(ミレットさん、この異世界を見ている視点を私の居る所まで動かして欲しいんです)
ミレットから眠そうな返事がありフィーナは操作方法を説明しながら視点の誘導を進めていっている……はずだった。
「フニャーッ!」
突然フィーナの耳にミレットの絶叫が響き渡った。一体なにがあったのか聞いてみると
「なんだか、真っ暗になっちゃいましたぁ〜。真ん中に明るい球があるだけで……他には何も……ニャ」
ミレットの話を聞いたフィーナは全てを察した。ミレットは視点移動の操作を誤り惑星の低軌道どころか恒星を俯瞰出来る場所まで視点を吹き飛ばしてしまったらしい。
もしかしなくても猫の手では複雑な操作は色々無理があったのかもしれない。
いくら非常時だからと言っても猫の手を軽々に借りるべきでは無かったと、フィーナは反省し
(あ、やっばりレアさんが戻るまでそのままにしておいて下さい。それじゃまた連絡しますので……)
ミレットとの交信を終了するのだった。今更ながらあんな女神なレアでもそのありがたさを痛感させられていた。
(天界に戻ったら差し入れでも持っていこうかな……?)
フィーナは目の前の現実を一旦忘れて仕事が終わってからの事をぼーっと考えていた。
「フィーナさん! フィーナさんってば!」
天界とのやり取りに気を取られていたフィーナはイレーネから話し掛けられていた事にまるで気付かなかった。
「……んぁ? は、はい? 何ですか?」
と、しどろもどろになりながら返事するのがやっとという有り様だった。
「レティシア様、私はお城へ戻ろうと思います。ヘルムート様が心配ですので……」
ルイゼがそう言うとザック達も席を立ち始めた。フィーナも慌てて立ち上がろうとすると
「悪いなフィーナ。あの馬車は四人乗りなんだ」
ザックに付いてくるなと制止されてしまった。
どこかのお金持ちの少年を思い起こさせる断り方にフィーナは同行を諦めるより他は無かった。
泣きつく青狸も居ないフィーナにはただただ彼らを見送る事しか出来なかった。
(…………)
部屋に残されたのはフィーナとマリーと侍女のステラの三人だけとなった。




