一件落着
ザックが目を覚ました後のオーク達との戦闘は消化試合に等しかった。
教会の入り口を応急処置した上で入り口に陣取りオークを見かけたら倒しに向かう方法だ。
これで、村人の安全に気を配りながらもオークの処理に専念する事が出来た。
しかも、戦いの序盤でフィーナ達が倒したオーク達が敵の主力であり、残ったオーク達は略奪の為に散っていた下っ端ばかりであった。
そんなオーク達がフィーナ達に敵うはずも無く姿を見せた順から次々と討ち取られていった。
「これで最後か?」
ザックがフィーナに尋ねてきた。絶対と言える程自信がある訳ではないがフィーナの感覚にオークが残っている様な嫌な感覚は感じられなかった。
「最後かどうかは分かりませんが、他にオークの居る気配は感じられません。後は手分けして村を捜索しても大丈夫かとは思います」
フィーナは自分が感じた事をそのままザックに伝える。
「よし、それじゃ皆バラバラになって村を見回ろう。もしオークを見かけたら大声で叫ぶんだ。いいな?」
ザックの指示でパーティーメンバーはバラバラに村の中を巡回し始めた。
村人達はすでに村での生活を復旧させるための作業に取り掛かり始めている。
村はあまり大きくなくザック達が散ってから三十分も経たない内に村の安全は確認された。
オークの全滅を確認したザック達は村長に呼び出され教会前に集められた。
「冒険者の皆様、ありがとうございました。今回の依頼料、追加で冒険者ギルドに送らせて頂きます。本当に危ないところをありがとうございました」
ーパチパチパチパチ!ー
村長の言葉が終わると村人達から感謝の拍手がザック達に送られた。村人達の中には両親と一緒に手を振るエリスの姿もあった。
その姿を見てお返しに手を振るフィーナとイレーネとサラマンダーの二人と一匹。
とりあえず仕事が無事に終わった事にフィーナは心から安堵するのだった。
オーク達の死体はとりあえず村の外の空き地に蒐められ、ギルドの職員がやってくるまで放置される事になった。
また、日も落ち始めていた為ザック達は村人達の厚意で一晩の宿を用意してもらえる事になった。
宿として用意してもらったのは村の公民館的な役割の為に建てられた公共の平屋建ての建物であった。
食事も村人達が用意してくれるとの事でザック達はこの村にやってきて初めてのんびり寛げる事になった。
装備品を外し各々ラフな格好で思い思いに休息を取る一向。
食事を出されお酒が振る舞われる頃になると、今日の戦闘の反省会の様なモノが始まっていた。
彼らの普段を知らないフィーナは黙って人の話を聞いているだけだったが、彼らの話題はいつの間にかフィーナについての内容に移っていた。既に本人そっちのけで、である。
「フィーナさんにはすっかり助けられちゃいましたよ〜♪ サラちゃんにも」
「私もオークに襲われそうになっていたのを身代わりになって頂きましたから……」
と、フィーナの戦い方ほぼほぼ全肯定のイレーネとマリーに対し
「でも、危ないところもあったろ? もう少し安全な立ち回りを考えた方が良いんじゃ……?」
「オークに掴まってたからな。お嬢ちゃん、接近戦は向いてないんじゃないか?」
前衛としての立場から素直に駄目出しをするザックとガイの二人。
そして自分が話題の中心になるとは思っておらず、フィーナは恥ずかしくなり耳を垂れ下げて小さくなっていた。
ビリーに関しては、彼は食事に夢中でそもそも話を聞いてなかった。
「あの……、私の事は気にしないで下さい」
他の四人が熱く語っているところにフィーナが弱々しい声で発言したところで無駄である。
イレーネとマリーが、身を挺して自分達を助けてくれたフィーナに感謝していると主張するのに対し、ザックとガイはまず自分の身を大事にしろと言いたい様だ。
自分を犠牲にする様な戦い方は危険だと、長生きしたいのなら身を挺するのは止めるべき……と、フィーナの未来を案じての事の様だ。
そもそもゴブリンの洞窟の時も一人で斥候に出たからあんな事になったと、フィーナにとっての過去の恥部まで掘り返される始末である。
「フィーナは多分アレだ。信頼できるパートナーが見つかって初めて生きてくる……そんなタイプじゃないか?」
ザックの指摘にフィーナは何も言う言葉が見つからない。
考えてみたらこの異世界に限らず前の異世界でも誰かしらに助けられてばかりだった様に思う。
本来は一人で全てこなさなければならないのに……。
(…………)
自己肯定感が低くなっているフィーナはひたすら自分の事から話題が逸れるのを小さくなって待つしかないのだった。
その日の夜、パーティーメンバー全員が寝静まった頃……
「フィーナさ〜ん。起きてくださ〜い」
隣で寝ていたイレーネが声を掛けてきた。フィーナが眠い目をこすりながら上体を起こすと
「この村から少し奥に行ったところに湖があるそうなんですけど、水浴びとかどうですか?」
昼間はそこそこ暑いとも言える陽気だが、夜間はそれなりに涼しい季節である。
水温もそれほど高くは無いだろうし正直、フィーナはあまり乗り気では無い。
「すみません。私はちょっと……」
そう言うとフィーナは布団に潜ってしまった。
「う〜ん、それじゃ仕方ないですね〜。一人でクリスタル湖行ってきま〜す」
不吉な名前の湖名にフィーナは飛び起きた。
「あ、あの……今、クリスタル湖って……?」
この異世界で創作の湖の事なんか関係無いはずだが、フィーナにはとても嫌な予感がした。
一人で湖に水浴びとか死亡フラグにも程がある。
「そうですよ? 近くにある綺麗な湖って聞いてます」
慌てているフィーナとは対象的にイレーネの反応は実にあっけらかんとしている。
「わ、私も行きます!」
ありえない話だが万に一つがあるかもしれない。
そもそもが異世界なのだからホッケーマスクを付けた殺人鬼以上の化け物が居ても不思議は何も無い。
「マリーさ〜ん? マリーさんはどうですかぁ〜?」
イレーネはマリーにも声を掛け、彼女の同行も了承させてしまった。
明日には街に戻るため湖に行くとしたら今しか無いとは言え……
(大丈夫でしょうか……?)
フィーナは心の底から不安を覚えながら、クリスタル湖への夜間の散歩をイレーネやマリーと一緒に始めるのだった。
いつもの黒ローブを脱いだイレーネは白いブラウスに赤色のミニスカというラフな格好だった。それにいつもの黒いとんがり帽子と黒いブーツ。魔法の杖という簡素な格好だ。
フィーナは濃緑色のワンピースに茶色のロングブーツのみと、これまたラフ過ぎる格好である。
いつもの完全フル装備なマリーとは心構えからして大違いであった。




