少女の依頼
フィーナが盗賊達を衛兵に引き渡し終えた頃には日もすっかり登っていた。
今なら冒険者ギルドも今日の営業を始めているはずだ。フィーナはエリスを伴って冒険者ギルドに向かう事にした。
冒険者ギルドは朝から仕事を求める冒険者達でごった返していた。
人よりいい仕事にありつこうと我先にとギルドの掲示板に張り出された依頼が書かれた紙を食い入る様に見ている。
「あ! フィーナさーん! おーい!」
入り口近くの掲示板の様子を眺めていたフィーナに冒険者ギルドの奥の方から声が掛けられた。
声の主はイレーネだった。彼女は他のメンバーと席に着いておりフィーナに向けてブンブンと手を振っている。
フィーナが手を振り返すのみでエリスと一緒にギルドの受け付けに並んでいるのが気になったのかイレーネがフィーナの元にやってきた。
「フィーナさん、どうしたんですか? その子」
イレーネはフィーナと手を繋いでいるエリスに目線を合わせる様に腰を屈めると軽く手を振りつつフィーナの事を見上げて質問してきた。
「え〜と…、今日の朝に色々ありまして……」
フィーナが朝の出来事を掻い摘んで簡単にイレーネに説明する。
「それで冒険者ギルドに依頼を出しに来たそうなんです。この子、一人では放っておけなくて……」
フィーナが説明している間、手元に炎を出したり氷を出したりと手品の様にエリスに魔法を見せているイレーネは随分小器用な事をしていた。
エリスにとっては珍しい物を見たのだろう。魔力が集められているイレーネの手に釘付けになっている。
「それで……依頼ってどんな内容なんですか?」
イレーネに聞かれてフィーナは初めて依頼について何も聞いてない事に気がついた。
エリスの住んでいる村はどこにあるのか、どうして一人で来たのかなどそちらを聞く事ばかりに一生懸命になっていた為、そちらの方までは気が回っていなかった。
「あ、それはまだ……、エリスさん。仕事の依頼内容って……」
フィーナがエリスに尋ねようとした時
「お待ちのお客様〜! どうぞ〜!」
受付嬢からフィーナ達に声が掛けられた。フィーナ達はカウンターの前に立つと、イレーネがエリスの事を後ろから抱っこして受付嬢からもエリスの事が見える様にした。
エリスはポケットから硬貨の入った袋と手紙を取り出すと
ージャラッ!ー
受付嬢の目の前のカウンターにそれらを置いた。
「それを見せればわかるって言われました。よろしくお願いします」
エリスにお願いされた受付嬢は出された手紙を開封し中の確認を始める。
「はぁ……、オークからの防衛依頼ですか。こちらが報酬ですね? 確認します」
受付嬢は小袋を開け中身をカウンターに出し一枚一枚確認を始めた。
出された硬貨は角銀貨一枚と丸銀貨が数枚、銅貨がたくさんだった。
「オーク相手でこの報酬ですか……。一応、募集は掛けてみますがすぐには見つからないかもしれませんよ?それでも良ければお預かりしますが……」
受付嬢からの答えはあまり色よい返事ではなかった。
エリスが提出した報酬は日本円の価値に換算すると三万円にも満たない。
その報酬では新人の駆け出し冒険者くらいしか食指が動かないだろう。
「そ、そうですか……」
受付嬢の返事を聞いたエリスは明らかに落胆していた。
エリスを抱きかかえたイレーネも心配そうにエリスの顔を覗き込んだ後にフィーナの顔を伺ってきた。
「あの……その仕事って個人でも請けられますか?」
フィーナは考えるより先に口から思いを出してしまっていた。
女神は異世界での行動に具体的な制限がある訳ではない。
しかし、今回の様にザック達の全滅の未来を回避するいう目的があるにも関わらず彼らと別行動を取ってしまうと、別行動中に取り返しの付かない事になってしまうかもしれない。
故にあまり褒められた行動とは言えないのだが……かと言って、フィーナがザック達の行動に口出しする訳にもいかない。
(う〜ん……)
フィーナの心情的にはエリスの村のトラブルを見過ごしたくは無いという思いがある。
それに、どちらにしろエリスを一人で村に帰すのは……と、フィーナは考えてはいたのでオークに対する警備の仕事もエリスを村に送り届ける延長上の出来事くらいと軽く考えている。
そんなフィーナにギルドの受付嬢は
「はぁ……。ま……まぁ、フィーナさんのランクでしたらお一人でも大丈夫……とは思いますけど……」
大丈夫と言いながら受付嬢の言葉はどことなく歯切れが悪い。
「フィーナさんがやるなら私も手伝っちゃおうかな〜? いいかな?」
エリスを抱き抱えているイレーネがエリスの顔を後ろから覗き込みながら彼女に意見を求める様に聞いてきた。
「え? あの……え〜と……」
聞かれたエリスは何と答えていいか分からず戸惑っている。
「どーせ、私達暇だし手伝ってあげるわよ」
イレーネはそう言うとエリスを抱えたまま自分のメンバーのところに戻っていった。
フィーナは改めてエリスの依頼を自分が請ける事を伝えるとイレーネの後を追う。
「そういう訳だからこの子の依頼請けたから。今日は私、この子の村にフィーナさんと行ってくるから」
イレーネは既にザック達に自分がエリスの村に赴く事を伝えていた。
さすがに報酬の額を考えたらメンバーを誘うつもりは無いらしい。
「オーク相手の防衛戦にお前とフィーナだけで対処する気か?」
ザックはイレーネにオークと戦う上での人手不足を指摘した。
確かに先日のゴブリン相手の警備の仕事の内容を考えると二人で村を守るのは難しいかもしれない。
「まぁ、オークだしなんとでもなるでしょ? フィーナさんも居るし」
イレーネはエリスを床に立たせると隣に来たフィーナの肩をポンポン叩き、頼りにしてますよアピールに余念が無い。
「なんだか心配だから俺も行くぞ。前衛はどうあっても必要になるだろ」
ザックは立ち上がるとイレーネに同行を申し出た。
「この仕事は無理に付き合わなくていい。話の通り報酬には期待出来ないからな」
リーダーとは言えザックもメンバーにタダ働きを強制するつもりは無い様だ。
しかし、ガイとマリーも無言で立ち上がると出かける準備を始めている。
「お前達だけで行かせて何かあったら夢見が悪いだろ」
「怪我人が出たら治療役は必要ですよね?」
ガイとマリーもタダ働きを嫌がる事無くついてきてくれる様だ。残るはビリーだが……
「ぼ、僕は行かないぞ! タダ働きなんて嫌だからな!」
ビリーは冒険者としては至極当然な反応を見せた。命を懸けてタダ働きするのを推奨なんて出来ないのだから彼の選択を非難する事など誰にも出来ない。
「まぁ、強制は出来ないからな。お前は俺達が帰ってくるまでこの街に居てくれ。何も無ければ明日には戻る」
そう言うと、ザック達はゾロゾロと冒険者ギルドを後にするのだった。




