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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
天界の日常編(壱)

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過ぎ去った日々

 フィーナは何人かの転生候補者をレアの元に転移させたところで、ようやくまとまった休憩を取る事が出来た。

 ほとんどの転生候補者は文句も無くすんなり異世界転生を受け入れてくれたのだが、安室祐一に前澤悠人の二人は厄介だった。

 まぁ、異世界に送ってしまえばフィーナの仕事は一段落だし前澤悠人の方は記憶もしっかり封印してある。滅多な事は無いだろうとは思う。

 後はフレイアから渡された転生者に関するフォローの仕事内容の確認をするだけだ。

 フィーナは収納空間から書類を取り出し今度はじっくりと目を通してみる事にした。

(…………)

 件の転生者は冒険者となって日々を過ごしていた様だ。それがある時、難易度の低い仕事に失敗しパーティーも全滅してしまったとある。

(ゴブリンに裏でもかかれたんでしょうか……?)

 異世界によって魔物の強さにはある程度のバラつきはある。

 しかし、基本的なヒエラルキーは変わらないからゴブリンよりドラゴンが弱い世界などは無い。

 フィーナは書類を片手に紅茶を嗜む。異世界から帰ってきたばかりなせいか現地の習慣が抜けきっておらず、暇な時はどうにも口が淋しくなってしまう。

 なんとなく疲れも感じているし少し休んでから出張に出るべきだろうか……?

 書類には特に期限は書いておらず急ぎの仕事と言う訳でもないようだ。

(出張は……少し休んでから行きますか)

 フィーナは転生課に順番待ちの転生候補者が居ない事を確認すると、少し休息を取る事を伝えソファーに座ったまま一眠りするのだった。



「いらっしゃいませ〜、お好きな席にどうぞ〜」

 いつもの店内、いつものランチタイム後の空いた時間。それでも店内にお客さんの姿が無くなる事はない。

 最近はようやく聖女であるフィーナ目当ての勘違い中年男性が減ってきたところだ。

 フィーナが食器を下げている間、アンがお客さんの注文を取り女将さんに伝えている。

「くぉらぁ〜! フィーナぁ? お客様の接待はぁ〜?」

 エルフィーネは相変わらず暇しているらしく今日も飲んだくれては仕事中のフィーナに絡んでくる。

 近くの席の食器を下げるついでにフィーナはエルフィーネの側まで行くと


ーガッー


「他のお客様の御迷惑になる言動はお控え下さい」

 フィーナは手にしていたお盆の側面でエルフィーネの頭を小突く。

「いったぁ〜!」

 エルフィーネは両手で頭を抱え悶えている。静かになった店内を見回しているとそろそろアルフレッドとリーシャが帰ってくる時間になっていた。

(もうそろそろですね……)

 フィーナが今日の彼らのおやつをどうしようか考えていると

「先輩! 私達が交代しますよ? 休憩どうぞ〜……ニャ」

 いつの間に来ていたのかミレットとプロージットの二人がメイド服に着替えてフィーナの後ろに立っている。

(あれ? ミレットさん達は今朝仕事に出掛けていって……)

 いつの間に彼女達は帰ってきた上にメイド服に着替えたのだろう……?フィーナが一人考えに耽っていると

「どうしたんですか、先輩? ほらほら、遠慮しないで! 二人とも帰ってきちゃいますよ……ニャ」

 ミレットに背中を押されフィーナは裏の物置へと押し出される。なんだかミレットがニャーニャー言う声が妙に耳に残る気がする。

 そういえばオーウェン家の屋敷の近くに住み着いていた猫達は元気にしているのだろうか?

 そんな事を考えている間もニャーニャー鳴く声が絶え間無く聞こえてくる。




(……ん?)

 フィーナが気が付くとそこは天界の自分の仕事場だった。ソファーに座ったまま一休みのつもりがかなりしっかり眠ってしまっていた様だ。

 夢から覚めたフィーナはどこかがっかりした様ななんとも言えない悲しい気分に包まれていた。

 ごくごく当たり前だったはずの日常が手が届かない遠い昔の事の様に感じられる。

 目を閉じればニャーニャー言っていたミレットの声がフィーナの耳に聞こえてくる感じがした。

「ニャー……」

 そうそう、こんな感じの声……と、フィーナが半ば寝惚けながら優しかった日々を思い出していると

「ニャー!」

 今度は何かを催促する様な猫の鳴き声が聞こえてきた。

 そして感じる足元の違和感……何かが何度も何度も足に当たってくる感じがしている。

(……ん?)

 ふと自分の足元を見てみるとそこには一匹の茶色い小猫がフィーナの足に何度も頭を押し付けてくる姿だった。

 なんだ、猫か……と、フィーナは再び寝ようとしたところで思わず小猫を二度見する。

(え? ここ、天界ですよ……?)

 天界は神々の住まう場所であり人間の世界の様に様々な生き物で構成された食物連鎖で成り立っている世界とは違う。

 当然小猫が自然発生する事などありえない訳でフィーナは目の前の光景が信じられずに居た。しかし

「どうしたんですかぁ〜? あなた、どこから来たんですか〜?」

 猫なで声でフィーナは子猫に手を伸ばす。一方の子猫はフィーナの手を警戒する事も無く、コロンと寝転がり無防備にお腹を見せてくる。

「仕方ありませんねぇ〜。そんなに撫でて欲しいんですかぁ〜?」

 フィーナは子猫のお腹を遠慮なくワシャワシャする。

 手から伝わってくる子猫の毛のモフモフ感と身体の暖かさ、小さく愛くるしいその動きにフィーナは癒やされ夢中になってワシャワシャし続けている。

 フィーナがしばらくワシャワシャし続けていると子猫は満足したのかフィーナから少し離れた場所へトコトコと歩いていきまたその場でコロンと倒れたかと思うと仰向けに寝転がりフィーナの方を見る。その目は


【撫でろ】


 と言わんばかりの眼差しである。

「もう、困った猫さんですねぇ〜」

 フィーナは子猫の気ままさに振り回されながら子猫が望む様にワシャワシャをし続ける。

(あ……)

 ふいにフィーナはオーウェン家の裏で子猫の相手をしていたアルフレッドの事を思い出してしまった。

 温かい日々の午後、洗濯場に干された洗濯物が風に揺れる中、石鹸の良い香りが感じられる光景がはっきりと彼女の脳裏に思い起こされる。

「フィーナさん! これ……ほら」

 洗濯物を干し終えて一息付いているフィーナにアルフレッドが子猫を抱えて話し掛けてくる。

 屈託のない笑顔を見せるアルフレッドは猫に受け入れられたのが嬉しくてたまらない様だった。

(アル……)

 フィーナは未だアルフレッドの事を吹っ切れずに居た。

 異世界から戻ってまだ間もないからとは言え、彼女が自分の中で彼の事を消化し過去の出来事と考えられる様になるのはかなり先の話となるのだった。

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