決戦前夜
グレースの部屋を後にしたフィーナは人気の無い場所を見繕って即座に物置へと転移した。
ーパアアァァー
魔物の大群が迫っている為、城内も慌ただしくフィーナの事を気にする余裕も無かったのだろう。転移は意外にもすんなり行う事が出来た。
ーパアアァァー
物置の二階、寝室スペースに転移したフィーナは辺りがすっかり日が落ちてしまっているのに気が付いた。
明日の事を考えると気が昂ぶって落ち着かないが仕事は仕事……と、フィーナは店内に入っていった。
物置に居なかったアルフレッドやリーシャも店内で手伝いをしているのかもしれない。
明日の事を口止めされているとは言え、アルフレッドとリーシャには事実を伝えておきたい。
(…………)
今のフィーナの考えでは物置に籠城して貰うのが安全じゃないかとは思っている。
リーシャの家族全員で物置に籠もってもらった方が安心だとは思う。そういえばミレット達はどうするのだろう……?
彼女達は今日も店員のアルバイトとして働いてはいる。店内で食器の片付けを始めたフィーナの耳に客達の会話が入ってくる。
「おい、聞いたか? 南からの物流が止まっちまってるらしいぜ」
「ああ、だから俺んトコは明日は自宅待機だとさ」
「それよりよ、明日の夜にお城で姫様が歌声を披露してくれるんだとよ」
「姫様かー、滅多に見られないから行ってみるかぁ」
南から魔物の集団が迫っている以上、街道を行き来する商人の動きにも影響が出るのは当然である。
しかし、ここで初耳だったのは王女プリシアの動きである。民衆を一箇所に集めて外の魔物から目を背けさせパニックを防ごうというのだろうか……?
「おい、ミレット。明日は魔物退治の仕事に出るからな?」
「俺達白銀の群狼にかかればチョロいもんだぜ。っすよね? アニキィ?」
「ラット、お前次は無理すんなよ?」
「次は大怪我じゃ済まないかもなぁ?」
「ギルドの話によると街の北や東西が狙い目らしいですよ?」
「油断しないようにとも言われているわよね。なにがあっても自己責任だって」
白銀の群狼はいつもの男四人組に加えて犬耳少女のメイブルとハーフエルフの少女マリベルが加わって和気藹々としている。
彼らに加えてミレットとプロージットもいるのだから、白銀の群狼も随分と大所帯になったものである。
「そういう訳で先輩! 明日のお店は頑張って下さいね!……ニャ」
テーブルの片付けをしているフィーナにミレットが話し掛けてきた。
何でもこなせる彼女だがやはり本分は冒険者なのだろう。明日の仕事が楽しみな様だ。
「外なら遠慮なく魔法使えるかな……?」
二人の直ぐ側に居たプロージットがボソッと呟いた。確かに広い場所なら味方への誤射の危険も少ないだろう。彼女もやはりと言うか、どことなく嬉しそうである。
(皆さん、どうかご無事で……)
彼らには無事に明日を生き延びて欲しい……。いつも通りに騒ぐ彼らを見ながらフィーナは彼らの無事と幸運を願うのだった。
いつも通りの仕事はいつも通りに終了した。魔物の集団が街に迫っている事など毛ほども感じさせない賑やかな店内だった。
「フィーナさん、なにかあったの?」
就寝の準備をしているフィーナにベッドで横になっているアルフレッドが話し掛けてきた。
「え? ……あ……え〜と」
突然のアルフレッドの質問にフィーナは答えに詰まる。彼にある程度の事実は伝えたいがどこまで話すべきかはまだ全然纏めていなかった。
「あ、そうだ。学校……明日休みなんだって」
伝えておくべき話を伝え忘れていたアルフレッドが明日、魔法学校が休みである事をフィーナに伝えてきた。
「そ、そうなんですか。せっかくのお休みに何かしたい事はあるんですか?」
臨時休校の理由を知っているフィーナにはアルフレッドの休みも素直には喜べないが、彼はどことなく嬉しそうではある。
「……魔王さんのところ、行きたいな」
何がしたいかと聞かれたアルフレッドは素直に興味本意な答えを返してきた。
いつもだったらすぐに約束を取り付けたりするところだが……
「突然、お伺いしてもご迷惑でしょうから……」
途中まで言い掛けたところでフィーナにはある考えが浮かんだ。
(……ん? もしかしたら……)
考えが浮かんだフィーナは就寝の準備を止めいつものメイド服に着替え直し始めた。
「フィーナさん……?」
突然のフィーナの行動にアルフレッドも戸惑いを隠せない。
「アルはここで大人しく休んでいて下さいね。私、少し用事が出来てしまいましたので……」
フィーナは着替え終えるとすぐさま魔法陣を展開し転移の準備を始めた。
「アル、ありがとうございます。まだ出来る事が見つかりました。」
頭の上にハテナマークが浮かんでいそうなアルフレッドを残し、フィーナは何処かへと転移していった。
転移を終えたフィーナは魔王の居城の入り口に来ていた。
(……魔王さんに会えるかな?)
こんな夜間に来訪するのは常識外れだとは思うが、魔王の城に営業時間とかの概念がある様にも思えない。
フィーナはとりあえず入り口の魔族の門番に話しかけてみる事にした。
「あの、夜遅くすみません。魔王さんに会いたいんですけど……」
フィーナが恐る恐る声を掛けると魔族はハッとした様な動きを見せ
「んぁ? は……? 誰だ? こんな時間に?」
半分寝起きの様な……いきなり話し掛けられて慌てている様な……少し挙動不審な反応を見せた。
「お前、例のエルフじゃねーか! こんな時間に何考えてんだ! 魔王様寝てるに決まってんだろ!」
居眠りから覚醒したらしい魔族はフィーナに至極もっともな正論で返してきた。
「あ、す……すみません。急ぎの用事が出来てしまったもので……」
魔族に怒鳴られションボリなフィーナだが怒られてすごすご帰る訳にもいかず
「魔王さんにはいつお会い出来ますか?」
魔王との面会のアポイントを取る事にした。魔物の王都への襲撃の時が迫っている今、少しの時間も無駄には出来ない。
もしかしたら全ての問題を一気に解決する事が出来るかもしれないからだ。
「魔王様、起きるの朝になってからだからなぁ。それからだ」
今現在は時刻にすると夜の十時を廻った辺りである。逸る気持ちはあれど、十時間も入り口で待ち続ける訳にもいかない。
「じゃあ、明日の朝また来ます。面会の約束、お願いします」
ーパアアァァー
フィーナはややがっかりした様子で城塞を後にし、再び何処かへと転移していくのだった。




