第78話
ランキング報酬が届いた。
今回の贈り物は新アイテム。説明文を読む限りテイムに使うアイテムらしい。
今日アップデートで実装される新マップ。そこで入手できるレアアイテムの一つなんだとか。
テイム。
日本語にすると飼育。ゲームの世界で犬や猫を飼えるってことなのかな。ハウジングスペースに踏み入るなりしっぽを振って出迎えてくれるとか。
想像してなごんでいると転移が行われた。正面で巨大な人型がのっそりと動く。
一日一回のレイドボス戦。
最初は苦戦したものだけど、攻略法がプレイヤーの間に知れ渡って比較的安定している。
ダウン時はMPを温存して攻撃。紅の植物に拘束されたプレイヤーをサイクロンエッジで解放し、ゼルニーオ・アルボロスの強化形態移行を阻止した。
さすがにHPの減少による強化形態移行は止められないけど、一部の攻撃に気をつけていれば全滅は避けられる。
今回もブラックホールの解放を阻止してレイドボスが消滅した。
恒例のリザルトウィンドウ展開。
今回は一味違った。シャリン! と高い音が鳴り響いて胸の奥がとくんと跳ねる。
レアドロップの音! 人差し指でウィンドウを弾いてドロップ品を確認する。
『妖仙樹の投弾弓』
AGI +53
アビリティ【仙手】
マシンガンスリンガーとはレア度が1しか違わないのに補正値が倍以上違う。アビリティのおまけまでついている。
すごい性能だ! これは乗り換えるっきゃない!
そう思った刹那、武器名称を彩る赤色に気づいた。
押し寄せた歓喜の波が引いていく。
赤い名前は装備不可の証。
何が足りないのかと思って見てみると『妖仙樹の投弾弓』はSTRを要求していた。
それも並みの数値じゃない。私の装備についているAGIの補正値をSTRに振り切っても届かない。
すごい武器だから要求値が高いのは分かる。
でももうちょっとこう、どうにかならない? なりませんかそうですか。
装備できないなら売るしかない。
でもせっかくドロップしたスリングショットだしなぁ。テイムしたらSTRを上昇させる動物がいるかもしれないし、売るのは早計な気もする。
ひとまず間違えて売らないようにロックをかけて倉庫に送った。
ラティカの街に転移してミザリのお店に向かう。
魔女の隠れ家みたいな妖しい様相は少し改善されている。毒々しい色合いの樹木が消えて、代わりに色鮮やかな花が建物付近を飾っている。
数日前の話だ。建物の雰囲気と装いを見た女の子がミザリを魔女と勘違いした。その女の子は面と向かって「お姉ちゃんはお姫様をいじめるの?」と問いかけたらしい。
怖がられてショックを受けたというのは本人の談だ。お店の雰囲気を明るくしたのはミザリのささやかな抵抗に違いない。
そんなわけでいつもの店舗に踏み入った。
「おはようございますヒナタさん」
「おはようミザリ。お店の雰囲気少し明るくなったね。魔女も子供の純心には勝てなかったか」
「いじらないでください。これでも気にしてるんですから」
あどけなさの残る顔に苦笑が浮かぶ。
そのわりにまだ装いは黒いローブだ。そんなに性能いいのかな。
「半日したら新マップだね。公式は和風のマップって言ってたけど、侍が帯刀して歩いてたりするのかな」
「そういうNPCはいそうですね。サムライさんが紛れていても分からないかも」
「さすがに分かるんじゃないかなぁ」
ミザリがふふっと小さく笑う。
サムライさんこと桐島さんは家族と海外旅行中だ。アイセの中で会うのは当分先になるだろう。
揚羽も今日はモデルの仕事が入っている。何で今日なのとぼやいていたっけ。
「ミザリはアップデート明けに予定ある? もしなかったら一緒にプレイ――」
「やります!」
ミザリが身を乗り出した。前のめりな反応を前に目をぱちくりさせる。
眼前の顔がハッとした。
「す、すみません!」
「ううん、ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ。カフェ、は混みそうだからここを待ち合わせ場所にしていい?」
「もちろんです。楽しみにしてますね」
後方でカチャと軽快な音が鳴る。
お客さんが入ってきた。ミザリが上体を傾けていらっしゃいませを口にする。
そろそろ注文しないと商売の邪魔になりそうだ。
あらためてミザリに向き直った。
「いつものセットちょうだい。あとこの前言ってた手裏剣型の弾も」
「いくつ購入しますか?」
「99個」
「豪快ですね。さすがヒナタさんです」
無邪気な笑みをたずさえてミザリが手裏剣を手に取る。
私はアプデ後の備えを終えてログアウトした。




