第76話
作戦は見事にうまくいった。
劣勢な方の危機感をあおって共闘に持ち込み、MPの消費を極力抑えてはさみ撃ちにした。
最後はフュージョンバレットで状態異常漬けにした。
プレイヤーに対しての効果時間は短いけどゴールは間近。相手の加速さえ封じれば逃げ切れると踏んだ。
全ては狙い通りに事が進んで、私たちは水上レースで優勝した。脱落した二人も交えて表彰台の一番高いところに立った。
表彰式を終えて、私はその三人とカフェに立ち寄った。
祝勝会がてらにあらためて自己紹介を交わした。レースを肴にして盛り上がり、アイセでこなしてきたことを語り合った。
みんなも色んなクエストを受けてきたらしい。入り江の動物たちとたわむれるなんてのもあった。
精霊界で色んな精霊と会ったけど、イルカやカワウソとはしゃいだのは純粋にうらやましい。
「そういえばみんなに聞きたいんだけどさ、プレイヤーがプレイヤーに懸賞金をかけるって可能なの?」
「そんなシステムはないわ。厳密にはね」
「やりようによってはあるんだね」
「ええ。キルしたログの写真を送って報酬をもらうのよ」
「ルイナさんはやったことあるの?」
「アイセではやったことないわ」
ってことは別のゲームでやったことあるんだ。
ルイナさんがどこかの誰かをヘッドショットする図が浮かぶ。
一緒に優勝をもぎ取ったパートナーだから複雑な気分だなぁ。
「でもそれってリスキーじゃない? キルしてもマニーが支払われなかったらどうするの」
「逆のケースもあり得るよね。前払いで払うケースもありそうだし」
「前者は依頼主をキルするだけ。後者は信用があれば大丈夫じゃないかしら」
「信用なんてものがあるの? ゲームの世界に」
「もちろんあるわよ。分かりやすいのがクランリーダーね。悪い評判が立てば構成員の求心力を失うし、いずれ人員が減ってクランを維持できなくなる。よほど大きなメリットがあるなら話は別だけれど」
クランリーダーか。
そういえばレース中にプレイヤーの一人がそんなことを言っていた。
でもどうしてクランのトップが私を狙うんだろう。返り討ちにしたプレイヤーキラーの中にそのクランリーダーがいたとか?
理由はどうあれ、知らない人に狙われるのはいい気分がしない。
「教えてくれてありがとう。プレイヤーキルって奥が深いんだね。私も最近狙われてるみたいでまいっちゃうよ」
「ヒナタに懸賞金かけてるのってトップクランの虚無だよね。何やらかしたの?」
「特に何かをした覚えはないんだけどなぁ。クランの名前ヴォイドって言うんだね」
「うん。虚無って書いてヴォイド」
「シンプルな名前だよね。他のところは何とかの騎士団とか長ったらしいのに」
「そういう意味でも虚無だよねー」
テーブルの上で小さな笑いが起こる。
私としては笑いごとじゃない。
幽霊やゴーストならまだかわいい名前だ。幽霊は苦手だけどクランの名前なら微笑ましく思える。
でも虚無の二文字は短すぎる。
みんなでわいわいするのがクランのはずなのに、何を考えてそんな名前にしたんだろう。
分からない。
分からないって、本当に怖い。




