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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第67話


 入浴や食事を終えてアイセにログインした。


 レイドボスの実装前。私ができるのは防具の新調くらいだ。


 マーケットにはいい物が出品されてなかった。レイドボスの実装をひかえているからみんな買いあさったのかもしれない。


 私はおしゃれな店舗に立ち寄った。


 店舗の床を踏み鳴らした先でスーツ姿の麗人が映る。


「シメアさん」


 長身が呼びかけに応じて振り向いた。


「久しぶりヒナタさん。長らく会ってなかった気がするわね」

「今の防具を作ってから一度も新調してませんから」

「ってことは、改造生物相手でも申し分ない性能だったってことね。作った側としては鼻が高いわ」


 プレイヤーの大半は改造生物から素材を得て装備を作る。


 私はAGI補正が欲しくて今の装備を使い回してきた。単純な防御力だけで言えばとっくに力不足だ。


「今回は新調目的?」

「はい。できれば疾走アビリティのある防具が欲しいんですけど、ちょうどいいのはありますか?」

「あるわよ。これ何かどう?」


 シメアさんがウィンドウを開いて反転させる。


 表示されているのは防具の画像と性能。黒霞シリーズよりも性能はいい。


 要求される素材も全部持ち合わせている、けど。


「見た目結構ワイルドですね」


 フル装備するとさながらインディアンだ。今装備している籠手やダガーは雰囲気に合わない。


 今の忍び装束は気に入ってるんだけどなぁ。


「ワイルドな雰囲気はお好みじゃないの?」

「はい。私のビルドにはくノ一のイメージがぴったりなので」

「じゃあ重ね着してみたら?」

「重ね着?」

「そ。装備は更新したいけどアバターの見た目は変えたくない。そんな人におすすめのシステムよ」

「それって、インディーシリーズを身に着けても忍び装束のままでいられるってことですか?」

「そういうこと」


 自然と口角が浮き上がる。


「重ね着ってどうすればできるんですか?」

「装備の欄で専用のアイテムを使うの。一応私の店で作れるけど、少し面倒な素材が必要なのよね」

「構いません。取ってきますから」

「分かったわ。じゃあ素材を入手できるクエストを教えてあげる」

「ありがとうございます」


 シメアさんがマップを開いて一か所を指で指し示した。


 私は店舗を出て石だたみの地面を走る。


 足を運んだ先は峡谷きょうこく。高所だから風がビュービュー吹いている。リアルで忍び装束を着込んでいったら風邪を引きそうだ。


 今回の目的は家畜を襲う怪鳥の討伐。足元に気をつけて高所を目指す。


 ふと視線を下ろした先に川面が見える。


 落っこちたらと思うと足がすくみそうな一方で、高所からの眺めは遠くまで見渡せておもむき深い。


 景観を楽しむ内に頂上にたどり着いた。


「どこにいるんだろ」

 

 シメアさんの話だと頂上につけば来るって話だったけど。


 見渡していると地面に大きな影が降り落ちた。聞いたことのある鳴き声が開けた空間に響き渡る。


「君か」


 翼をはためかせる怪鳥を仰ぐ。


 エーファさんを襲っていた鳥。心なしか私を見下ろす目は忌々しげに映る。


 最初は私のエゴでしかなかったけど今回は違う。家畜を育てている人が迷惑をこうむっているんだ。


 人と鳥。どちらにつくかと問われたら私は人の側につく。


「悪いけど今回は見逃してあげられないよ」


 鞘からダガーを抜き放つ。


 再度おたけびが響き渡った。怪鳥が高所から急降下する。


 避けるのは簡単だ。


 でもその後が続かない。すぐ空に戻るから私の攻撃が当たらない。


「ずるい! 下りてきてよ!」


 声を張り上げても素知らぬ顔。翼を伸び伸びと広げて進むさまはとても気持ちよさそうだ。


「そう、だったらこっちにも考えがあるんだから」

 

 斜面を駆け下りる。


 影がついてきた。地面に映る影の動きで滑空の予兆をつかむ。

 

「よっと」


 突進をかわしてなお走る。時にサイクロンエッジを活用して距離を稼ぐ。


 地面がない場所でも一定距離直進するらしい。仕様を頭に入れつつMPポーションを口に含む。


 ミントじみた清涼感でリフレッシュすると影が動いた。手頃なつるを見つけて駆け寄る。


 全力で地面を蹴り飛ばして腕を伸ばした。


 間に合え!

 

 手の平越しにつかんだ感触。慣性に身をゆだねて樹木の幹をぐるっと一回転する。


 滑空する怪鳥の背後を取った。すかさず腰をひねって雷鳴とともに宙を駆ける。


 背後で悲鳴が上がった。地面にドサッと何かが落ちる。


 地面を踏みしめるなりマシンガンスリンガーを構えた。連射機能を使って麻痺クナイを連射する。


 眼前に長方形が浮かび上がる。


【武器の熟練度が3に到達したため『フュージョンバレット』を習得しました】


『フュージョンバレット』

弾となるアイテムを消費して特別な弾を撃ち出す。消費したアイテムの種類によって性能が変化する。

MP消費10




 新しいスキルだ!

 

 すごく久しぶりに見た気がする。パワーショットの習得はすぐだったのにずいぶん時間かかったなぁ。


 もがいていた怪鳥が体勢を立て直した。


 MP10は重いけど試してみよう。


 麻痺クナイを十個消費。飛翔した怪鳥のお腹目がけてトリガーを引く。


「わっ⁉」


 反動を受けてしりもちをついた。


 発射されたのは柳葉形りゅうようけいの黄色い光。ドリルのように回転するそれが再び怪鳥を地面に誘う。


 砕け散ったポリゴンが宙を飾った。リザルト画面が討伐完了したことを書き記す。


 目的達成。でも頭の中は全く別のものに引かれていた。


 墜落のダメージでエネミーの体力が尽きたのは分かる。


 でも体勢を立て直したばかりの怪鳥がダウンした。高い威力がないと起こり得ない事象だ。


 フュージョンバレット。大量のアイテムとMPを要求するじゃじゃ馬だけど、反動があるくらいだし相当強いスキルかもしれない。


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― 新着の感想 ―
調べたのですが出てこなくて、「運めた」って「さだめた」なのでしょうか?
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