第6話
『ハムシュターの投実器』
AGI +3
投実機なんて聞いたことない。投石器に似た響きから考えるに、木の実を撃つ武器と見て間違いない。
試しに装備してみた。手元に光の粒が集まってスリングショットを構成する。
先程あのエネミーが握っていた武器だ。さっき見た時よりも大きくなっているから不思議なほど手になじむ。
「弾は石でも大丈夫かな?」
物は試しだ。
ポーチから石を取り出して弾受けにセットした。離れた木の幹目がけてバンドを引っ張り、手を離す。
石が勢いよく飛び出す。
小気味いい音を立てて樹皮が弾けた。
「おお」
意図せず感動の声がもれた。
腕で石を投げるのとはスピードが全然違う。意外と狙いもつけやすくていい感じだ。
もっとこの武器を試したい。
確か近くにダンジョンがあったはずだ。小走りで樹木に囲まれた空間を駆け抜ける。
数分とせず洞窟前にたどり着いた。
洞窟内は暗いし顔を隠さなくていいか。
お面の装備を解除して薄暗い洞窟内に足を踏み入れる。
思ったより暗くない。壁に一定間隔で飾られた松明が行く先を照らしてくれている。
静かな洞窟内に靴音が響き渡る。
音につられたのかエネミーが現れた。
コウモリだ。胴体がバスケットボール並みに大きくて動きが遅い。
これなら難なく狙える。弾受けに石をセットして射出する。
石がコウモリの胴体に当たって黄色の光を散らす。
一撃じゃ終わらなかった。コウモリの突進を避けて二発目を撃つ。
今度は頭に命中して赤い光を散らした。コウモリの体がポリゴンになって消える。
当たり所によって命中時に弾ける光の色が変わるらしい。次からはできるだけ頭に当てるようにしよう。
歩みを再開する。
体をぷるぷるさせるスライム、一メートル近い大きさのトカゲ。コウモリ以外にも色んな種類のエネミーが住み着いているようだ。
トカゲを仕留めるのには苦労した。
何せ当たり前のように壁や天井も走り回る。石を当てるのに苦労した。
でもヘッドショットを決めると体を震わせて地面に落ちた。
そういうギミックなんだと感動しながらとどめを刺すとポップアップ。
『武器の熟練度が2に到達したため【パワーショット】を習得しました』
【パワーショット】
MPを消費して弾を加速させて攻撃する。
MP消費3
ちょっと強い攻撃って考えていいのかな。パワーってつくくらいだし。
気を取り直してブーツの裏を浮かせた。
進む先で見つけた鉱石は全部採取した。外で入手できる鉱石とは種類が違うようだ。紫の結晶が得られた時はレアドロップの音がして胸が高鳴った。
ダンジョンの最深部には大きなクモが待ち構えていた。
早速パワーショットを試した。射出した石が紅の光を帯びて突き進む。
速い。
思った時にはクモの頭部から赤い光が散っていた。
お返しとばかりに糸が吐き出された。右に跳んでやり過ごしつつ二発目を撃つ。
かみつきや糸をかわして、生まれた隙をパワーショットで狙う。
MPが尽きた。ポーチからMPを回復させる木の実を取り出してかじる。
ミカンのような味。結構おいしい。
HPバーの下にある棒が回復した。回復させたMPを使ってまたヘッドショットを狙う。
十分ほど駆け引きを続けた末にクモが伏した。きらめくポリゴンとなって洞窟内の空気に溶ける。
『おめでとう! ヒナタのレベルが2にアップしました!』
ヒナタ
Lv2
HP 20+5
MP 10+5
STR 11+2
VIT 13+3
AGI 115+4
DEX 12+2
INT 11+2
MDF 11+3
「やった!」
ボス討伐を経てのレベルアップ。すごい達成感だ。
砕け散ったポリゴンが引力を受けたように集まる。
目の前に宝箱ができ上がった。赤と金色に彩られたていかにもロイヤルな見た目だ。
中には何が入っているんだろう。知識欲に身を委ねて宝箱のふたを開け放つ。
『アリアネの糸』
弾力に富んだ粘りのない糸。この糸で作ったトランポリンは一級品。
……クモの糸をもらって、私にどうしろと?




