第59話
【アイセ】Ideal self online part2101【アイディアルセルフオンライン】
8名前:理想の自分
知ってるか? アスチック山の頂上が金色に光った話
9名前:理想の自分
知らん
10名前:理想の自分
>>8
知ってる。何か急に金色に輝いたって話だろ? 動画がSNSに載ってるぞ
11名前:理想の自分
初詣に実装するサプライズの予行練習じゃね
12名前:理想の自分
何で夏休み前にやるんだよありえねーだろ
13名前:理想の自分
それがありえるかも
14名前:理想の自分
ミルク色のって言わせねーよ
15名前:理想の自分
で、その金色の光があったから何なの?
16名前:理想の自分
で、その金色の光があったから何なの?
17名前:理想の自分
さあ? 行ってみたけど特に何もなかった
18名前:理想の自分
何だそりゃ
19名前:理想の自分
さすがにそんなわけないだろ。ちゃんと探せよ
20名前:理想の自分
そんなこと言うんなら自分で探せや。こちとら改造生物狩りにいそがしいんじゃぼけ
21名前:理想の自分
結局改造生物って何なんだろうな
22名前:理想の自分
>>21
ラティカを追放された研究者が作り出したバケモノらしいぞ。海底洞窟にある施設に文献があったらしい
23名前:理想の自分
よく見つけたなそれ。そんなところ普通見つかんねーわ
24名前:理想の自分
でその研究者はどこよ
25名前:理想の自分
知らん。名前がアーケンってことしか分からなかったみたいだし
26名前:理想の自分
じゃ見つけた意味ないじゃん
27名前:理想の自分
そうでもないぞ。そこには見たことない改造生物が大勢徘徊してるからな。今の最前線はそこよ
28名前:理想の自分
海底洞窟ってどうやっていけばいいんだ
29名前:理想の自分
>>28
海の生物と仲良くなって乗せてもらえ。そういうクエストがある
30名前:理想の自分
まずはそのクエスト探しか。レイドボスに関係してるかもしれないし今日中に見つけたいなぁ
ゼルニーオをやっつけた日の翌日。私は期末試験一日目に臨んだ。
試験勉強はとっくに終わっている。おだやかな心持ちで一日目の試験を終えた。
「余裕そうだね日向」
「そう見える?」
「見える。ずっとアイセやってたんでしょ? 何でそんなに余裕なのよ」
「そんなこと言われても、毎日の授業を真剣に受けてるからとしか言えないよ」
「なにーっ、私が真剣に授業を受けてないと言うのか!」
「そうは言ってないよ」
「言ったも同然でしょ。そんな悪い子にはこうだあああっ!」
「やっ! ちょっ、やめてっ!」
わき腹をくすぐられて身がよじれる。
揚羽が止める様子はない。小気味よく笑うさまは完全に私の反応を楽しんでいる。
もう、わき腹は弱いのに!
「あ、あの!」
こちょこちょが止まった。
すかさず揚羽の指を離した。声の主に向き直って微笑を浮かべる。
立っていたのは前髪で目元が隠れた少女。この前言葉を交わした宮嵜さんだ。
「どうしたの宮嵜さん」
「これ、落としましたよ」
白い手が消しゴムを差し出す。
私のじゃない。
小首をかしげかけて気づいた。これはきっと宮嵜さんの助け舟だ。こちょこちょされる私を見かねて声をかけてくれたに違いない。
優しいなぁ宮嵜さん。
「ありがとう。気づかなかったよ」
「日向ってそんな黒い消しゴム持ってたっけ」
「うん。持ってたよ」
「ショック! 私の知らない日向要素があったなんて!」
「日向要素ってなに」
小さく笑う。
手持無沙汰な宮嵜さんを見ていつものノリをやめた。
「宮嵜さんは今日の試験どうだった?」
「だ、大丈夫でした。毎日勉強してますし、あの程度の時間で上下する点数は知れてますから」
「日向、宮嵜さんと長電話でもしてたの?」
「まさか、試験前にそんなことしないよ」
「アイセでパーティプレイはしましたけどね」
あ、それ言っちゃうんだ。てっきり隠してるのかと思って言葉をぼやしたのに。
揚羽が目をぱちくりさせた。
「アイセ? もしかして宮嵜さんでっかいシカと戦った?」
「はい。戦いましたけど、どうしてそれを九条さんが知ってるんですか?」
「私も戦ったから」
「え?」
すっとんきょうな声がもれた。
垂れた前髪の向こう側ではまばたきが繰り返されているに違いない。
「九条さんも昨日の戦いに参加してたんですか?」
「うん、参加した。ちなみに宮嵜さんってあのヒャッハー侍だったりする?」
「ヒャッハーってサムライさんの口から聞いたことないよ」
「そう? あの侍なら言いそうじゃない?」
「言わないってー」
いや言うかな?
言いそういつか。サムライさんなら。
「私はミザリです」
「あーあの弓使いね。言われてみるとあのアバターと似てるね。リアルボディを参考にしたの?」
「はい」
「そっかぁー。私はちょっといじったんだよね。リアルじゃできないことをやれるのがゲームの醍醐味だと思うからさ」
「分かります。私も近づきたい人はいますから」
「あ、でも宮嵜さんって弓道部だよね。矢をつがえる所作がさまになってるなと思ってたけど、リアルを参考にしたからこその恩恵とも言えるのか。ね、今度フレンド登録しようよ」
「え、は、はい。おおせのままに」
おおせのままにって、私たち同級生だよね?
揚羽が目を輝かせる。
「おおせのままに! いいね、さながら気分はお嬢様!」
「え、えっと、はい」
宮嵜さんは上げ上げのテンションについてこれていない。
今度は私が助け舟を出す番かな。
「瑠璃ーッ!」
廊下から元気のいい声が上がった。
振り向いた先で腕が左右に揺れる。
花火のような笑顔だ。瞳がブラックホールになってるんじゃないかってくらい視線を惹かれる。陽光を吸ったような金色の髪も意識を引いて離さない。
日本人離れした美貌で気後れしそうな一方で、表情を彩るのは無邪気な笑顔。教室でクラスメイトを虜にしている図が容易に浮かぶ。
宮嵜さんが私たちに後頭部を向ける。
「桐島さん。どうしたんですかこんなところまで」
桐島なる少女が駆け寄る。
「試験終わったのでどこか遊びに行きまショウ。今から!」
「まだ一日目が終わったばかりですよ? 気が早いと思いますけれど」
「そうデスか? でも二日目と三日目の科目は自信ありマス。きっといい点数が取れるはず!」
「はずじゃだめですよ。この前現代文の朝テストで赤点ギリギリだったんでしょう?」
「うっ、そ、それは」
エメラルドグリーンの瞳がすーっと逃げる。これは自覚がありそうだ。
桐島さん面白い人だなぁ。
見たところフレンドリーなタイプだし声かけてみようっと。
「桐島さんは現代文苦手なの?」
「はいデス。考えてると頭が痛くなりマス」
形のいいまゆがハの字を描く。
帰国子女なのかな。明らかに片言だし。
片言、片言か。サムライさんの顔が脳裏にちらつくなぁ。
ヒナタの私。
モンシロが揚羽。
ミザリが宮嵜さん。
そして聞き覚えのある片言の桐島さん。きれいなほど四人そろっている。
本当にそんなことがあり得るの?
でも現にこうなってる。二度あることは三度あるっていうし、三度あることは四度あってもおかしくない。
言っちゃう?
言っちゃおうか。
私は口角を上げて桐島さんに呼びかける。
「サムライさん。昨日は手伝ってくれてありがとね」
「へ?」
桐島さんが振り向いてきょとんとする。
「あの、どうして私のユーザーネーム知ってるデスか?」
本当にサムライさんだった。
三度あることは四度あるものだなぁ。




