第47話
【アイセ】Ideal self online part2068【アイディアルセルフオンライン】
130名前:理想の自分
改造生物強くね?
131名前:理想の自分
あのやたら動きが激しいエネミーな。急に出てきたよなあいつら
132名前:理想の自分
日曜日に実装されたのかね
133名前:理想の自分
たぶんな。同時接続数からしてアップデート当日に出てないとおかしいし
134名前:理想の自分
日曜日にたっぷり遊んでほしいってことで遅れて実装したんじゃね?
135名前:理想の自分
それするなら普通土曜日だろ
136名前:理想の自分
何かのクエストで広まったとかそういうパターン?
137名前:理想の自分
そんなクエスト聞いたことないけどな。攻略ウィキにも書いてないし
138名前:理想の自分
最前線走ってるシルバーさんと卑怯者も知らないって言ってたしな
139名前:理想の自分
卑怯者って誰?
140名前:理想の自分
>>139
イベントで逃げた一位のプレイヤー
141名前:理想の自分
最近プレイヤーキルにはまってるらしいな。さすがというべきか
142名前:理想の自分
プレイヤーキルは卑怯じゃないぞ。プレイヤーキルは権利だからな
143名前:理想の自分
>>142
この前のBANくんのコメント語録になってて草
144名前:理想の自分
卑怯者はともかくとして、しばらくは改造生物を探して狩るのがメインコンテンツになりそうだな
145名前:理想の自分
そういえばもう少しするとレイドボスが来るんだっけ。改造生物ってそれの伏線だったりすんのかね
146名前:理想の自分
改造生物が全種類合体してキメラになるとか
147名前:理想の自分
>>146
妄想乙
148名前:理想の自分
キメラって言うけど改造生物そんなに種類あるのか?
149名前:理想の自分
俺が見たのは鳥だったな
150名前:理想の自分
サルもいたな
151名前:理想の自分
ゴリラもいたぞ
152名前:理想の自分
動物は大体全種でるような感じなのかね。ウィキには書かれてないけどライオンとかトラも出たりすんのかな
153名前:理想の自分
出るんじゃね? 知らんけど
154名前:理想の自分
知らんのか
155名前:理想の自分
知らんからな
156名前:理想の自分
そうか
158名前:理想の自分
レアドロップ仕込まれてるかもしれないしプレイング磨かなきゃなぁ
私は月曜日の朝日を浴びて通学路を歩く。
今日もいい天気だ。ゲーム内のノリで全力疾走したくなる。
昇降口を介して教室に踏み入った。お友だちとあいさつを交わして自分の席に着く。
揚羽とも笑みを交わした。
「おはよう日向。聞いたよ、アイセの方で変なエネミーが出たんだってね」
「改造生物のこと?」
「そうそう。やっぱり日向も戦ってたんだね。どんなエネミー?」
「すごく攻撃的だったよ。かすっただけなのに体力二割持っていかれるくらい」
「へえ、やっぱり強いんだ。SNSの方は強すぎ動きすぎって騒いでたし」
「強かったのは確かだね。でもちゃんと隙が用意されてたから理不尽ではなかったよ。やりごたえもあったし」
「そのわりに浮かない顔してるよ」
「私が?」
「そ」
実感はない。手鏡で確認しても出発前の顔が映るだけだ。
「話してごらんよ。気持ち楽になるかもしれないし」
「特別何かあったわけじゃないよ。ただかわいそうと思っちゃって」
「かわいそうって、改造生物が?」
「うん」
私はエーファから聞いた話を揚羽に語った。
「なるほどね。かわいそうってそういうことか」
「私変だよね。ゲームのことなのに落ち込んじゃって」
揚羽がかぶりを振る。
「んにゃ、そんなことないと思うよ。他のゲームでも敵がかわいそうって理由でゲームをプレイできない人がいるし」
「そうなの?」
「うん。きっと感受性が高いんだね。特にアイセは感触や匂いがあるし余計に入り込みやすいんだよ。小説や漫画で泣く人いるでしょ? それと同じ」
「なるほど」
ゲーム内の展開は作り物。それに入れ込んでいる自分はどこかおかしいんじゃないかと心のどこかで思っていた。
私以外にも同じ体験をした人がいる。それが知れただけでも気が楽になった。
一限目は移動教室だ。
担任とのショートホームルームを終えて揚羽と席を立った。筆記用具や教科書を持って廊下にはける。
「しかし悪の研究者か。気になるなぁ」
「気になるなら一緒にクエスト進める?」
「いや、やめとく」
「マナー違反だから?」
「そ。一人じゃ進めるのは厳しいって思ったら声をかけてほしいな」
「分かった。その時は頼りにさせてもらうね」
揚羽が足を止めてハッとした。
「やば、ノート忘れた」
「揚羽そこに持ってるよ?」
「これ古いやつなの。取って来るから先に行ってて」
「分かった」
遠ざかる背中を見送る。
「あの、風早さん!」
靴裏を浮かせようとした時だった。呼びかけられて振り向く。
きれいな黒髪の女子が立っていた。前髪が長すぎてほとんど目元が隠れている。
相変わらず肌白いなぁ。
「なに? 宮嵜さん」
「わ、私のことを覚えててくれたんですか?」
「クラスメイトだもん。覚えてるよ」
「こ、光栄です!」
宮嵜さんが背筋を伸ばして声を張り上げた。
思わず苦笑する。
「光栄って、私たち同じ生徒だよ?」
「で、でも、光栄です!」
「あははっ、宮嵜さん面白いね」
ちょっとびっくりしたものの、尊敬のまなざしを向けられて悪い気はしない。
以前までの私ならそうだった。
「私もう陸上やってないよ? 誰かにあこがれられる要素はないと思うけど」
陸上選手として活躍していた頃には多くのファンがいた。部活中には黄色い声を上げられたし、同性に好意を告げられたこともある。
でも退部してからというもの、私の周りはシンとしている。
不登校になった期間もあったし、ファンの中で解釈違いが起きたのかもしれない。
「確かに陸上のことはショックでした。でも陽のオーラと言いますか、最近の風早さんからは昔と似た雰囲気を感じるんです。その、よかったなぁって」
「そんなこと初めて言われたよ。ありがとう宮嵜さん」
自然と口角が浮き上がる。
足が壊れる前の私には戻れない。でもあの頃に近づけたならとてもうれしい。
眼前の顔がりんごのごとく赤みを帯びた。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
「え、あれ」
呼び止める間もなく宮嵜さんが走り去った。
結局私に何の用があったのかな。




