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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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第121話


 私はニオのロデオに耐え切って妖華の街に入った。


 街は比較的平穏だ。酒呑童子や鬼派閥のプレイヤーはお城に直行したらしい。


 ロデオ続行。お城まで一直線に駆け抜ける。


 お城の前で剣戟が繰り広げられていた。NPCが私たちの姿を視認するなり酒呑童子の行き先を教えてくれた。


 私はニオとお城に入る。


 門と同様に城内部も荒れ果てている。城を守る兵士と鬼が交戦した痕跡だろう。


 ニオに廊下を走らせた先で階段の瓦礫を見つけた。


「階段壊れちゃってるね」

「鬼が壊したのだろう。後からやってくる我々を足止めするために」

 

 私はニオから下りてポーチから鍵縄を取り出した。忍シリーズをもらった際に正式に頂戴したオプションアイテムだ。


 鉤縄を振り回して上の階にアプローチをかけた。カンッと軽快な音を耳にして縄を引く。


「よし」


 ニオをポーチ内の角に戻らせた。縄を伝って二階まで上る。


 モンシロたちのことを考えて鍵縄を残したいところだけど、この先も階段が原形をとどめている可能性は限りなく低い。空中ジャンプできるサムライさんに期待して鍵縄は回収させてもらおう。


 私が背中に乗る前にニオが駆け出した。乗馬ならぬ乗鹿を楽しむにはもうしばらく時間がかかりそうだ。


 私も床を蹴った。程なくしてニオと並ぶ。


 上の方で大きな破砕音が鳴り響く。


 誰か戦ってる。もしかしたら大名かもしれない。

 

「ニオ、先に行って」

「私だけ先に行ってどうなる」

「言いたいことは分かるよ。でも大名が討たれたら全部終わっちゃう。それだけは阻止しないといけないの」

「分かった。では先に行っているぞ」


 ニオの体が原型を失って煙のごとく立ち昇る。


「便利な体だなぁ」


 私は上へ続く階段を探して駆け回る。また瓦礫を見つけて鍵縄を投げる。


 疑似的忍者体験を経て、ついに剣戟の場までたどり着いた。


 真っ先に目についたのは大きな人型。鎧をまとった男性が、絢爛かつ禍々しい長髪をたなびかせて口端を吊り上げる。異様に発達した犬歯が人外であることをうかがわせる。


 三メートルはありそうな体からは赤黒いオーラが噴き出している。鬼派閥の首魁しゅかいを示す証だ。


 彼の手前には見知った銀色があった。


「シルヴァリーさん」


 振り向いた端正な顔に笑みが浮かぶ。


「ヒナタさん! よかった、無事だったんだね」

「はい、心配をかけてすみません」


 私はシルヴァリーさんのもとに駆け寄る。


「この鬼が?」

「ああ。酒呑童子だ」


 前方で鼻から空気を抜いたような音が鳴った。


「何だ、また新手かァ? 騎士気取りの次はくノ一とは、一体いつから妖華は仮装パーティの場になったんだ」


 酒呑童子の大きな刀がギラッと光を反射する。


 鬼になる前は武人だったと聞く。武士らしく刀を使った攻撃を繰り出してくるのかな。


 酒呑童子が左腕を突き出した。


「新手が来たからには名乗り直さなきゃいけねえなァ。我様こそは酒呑童子! 人を超えた存在にして、いずれ世界を取るビッグな男よォッ!」


 歌舞伎よろしく芝居がかった声色が響き渡る。


 これが鬼の頭領か。すっごく傲慢な人だなぁ。


「受けよ、覇王の刃!」


 酒呑童子が大きな刀を引いた。


「来るぞ、構えろ!」


 シルヴァリーさんが声を張り上げた。私も他の人員に混じって得物を構える。


 大刀から赤い光がほとばしった。拡散したそれが無数のつぶてとなって周囲を打ちすえる。


 忍の里で交戦したプレイヤーの攻撃に似てる。


 その一方で精度に差がある。被弾したのは二人だけだ。


 連射はできないらしく白兵戦に移行した。シルヴァリーさんたちと連携して、酒呑童子を囲むように展開する。


 ダガーで斬りつけても酒呑童子はひるまない。鎧の硬さもさることながら、純粋に身体能力が高い。


 時折召喚される化け物もぴょんぴょん跳ねてうるさい。ゴリラみたいなのは拘束しようと腕を伸ばしてくる。強さはそこそこ止まりのようでニオが処理を引き受けてくれた。


 それにしてもあのプレイヤーはどこにいるんだろう。


 酒呑童子が倒れたら私たちの勝ちだ。本来は最優先で酒呑童子を守るべきなのに、広場を見渡してもあの男性は見当たらない。酒呑童子の強さを信じているから護衛をつけなかったってことかな。


「シルヴァリーさん、大名は今安全なんですか?」

「他の班をつけているが絶対安全とは言い切れないな。向こうにはザンキがいる。今度はどんな卑怯な手を使ってくることか」


 物言いはどうかと思うけど、ザンキなるプレイヤーの動向が気になるのは同感だ。


「何の話をしている。我様の話をしろッ!」


 酒呑童子の攻撃がより一層激しさを増す。おそらくボスエネミーにありがちなフェイズ移行だ。


 何だかんだで消耗はしているらしい。私が来る前からシルヴァリーさんが戦っていたし、討伐まであと少しだったりして。


「ぐうッ⁉」


 思って早々に酒呑童子がうめいた。巨体が大きく飛びのいて距離が生まれる。


 赤黒いオーラが渦を巻いた。筋肉がボコボコと隆起して上半身の防具が弾け飛ぶ。


 またたく間にゴリラもかくやと言った肉体に変貌した。長髪が逆立って炎のように揺らめく。


「人間ふぜいが、我様を誰だと心得る! 人知を超えし存在、酒呑童子なるぞッ!!!」


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! 獣のごとき雄叫びに次いで赤い光が飛散する。


 散った光が当たった箇所からぬるっとした何かが伸びる。うねうねしていて気持ち悪い。


「うわっ!」


 爆発を受けて一人吹っ飛んだ。光がプレイヤーに接触すると爆発するようだ。


 私は光の起動を読んで回避に努める。


 光の拡散が収まった。酒呑童子の隆々とした腕が引かれる。

 

 その手に赤黒いオーラが集まって球体を形作った。


「避けろ!」


 シルヴァリーさんの声に遅れて球体が射出された。五十センチ近いサイズの光がすれ違って後方で爆音をとどろかせる。


 二発、三発。かわしては次の球が形作られて射出される。距離を詰めようにも床に着弾した際の爆風で押し戻される。


 これじゃ近づけない。


「さっき人間ふぜいがって言ってたくせに、こんな戦い方して卑怯と思わないの?」

「ふん、うらやましいか人間。妬みならそう言うがいい」

「その体は見かけ倒しなんだね」

「勝てば正義、ゆえに勝つ我様の全ては正しいのだ。この体を含めた森羅万象は、この酒呑童子の正しさを証明するものであればよい!」


 とんでもなく傲慢なこと言ってる。さすが鬼の王様だ。


 数分前まで誇っていた刀技はどこへやら。言葉の通りに球をほうられるだけのやり取りが続く。


 もどかしい。こうしている間にもあのプレイヤーが大名を見つけ出すかもしれないのに。


「フハハッ、手も足も出ないか! むッ⁉」


 酒呑童子の視線が逸れる。


「たらーっ! 私参上っ!」


 聞き覚えのある声に続いて、赤黒い球があさっての方向に放たれる。


 見上げた先には天狗の面をつけた少女。華奢な足が宙を蹴って、すれ違った球体が天井で衝撃波をまき散らす。


 サムライさんだ。


「鬼さんこーちら、手の鳴る方へー!」

「小娘が、ナメるなアアアアッ!」


 酒呑童子がムキになって球を連発する。


 よそ見している今が好機だ。


「シルヴァリーさん、私たちも行きましょう」

「そうだね。総員突撃!」


 応じる声とともに酒呑童子への距離を詰めた。巨体を囲んで全方位から攻撃をしかける。


 迎撃する酒呑童子の上にデバフアイコンが表示された。


「お待たせヒナタ」

「間に合ってよかったです」

「二人とも待ってたよ」


 モンシロとミザリも包囲に参加する。

 

 文字通りの袋だたきに耐え兼ねて酒呑童子が跳躍した。


 また距離を空けてからの球連打かと思いきや、大きなひざが床を突き鳴らした。


 シルヴァリーさんがレイピアの先を酒呑童子に向ける。


「終わりだ鬼の首魁。君の死をもってこの争いに終止符を打とう」

「おのれ、おのれおのれおのれおのれエエエエエエエエッ!」


 地獄の底から響くような叫び。されど苛立ちに任せて叫ぶ子供のようでプレッシャーに欠ける。


 もう少しでイベントは人間側の勝利に終わる。小夜さんたちが鬼や蛮角の家畜に落とされずに済む。


 突如靴音が響き渡った。私も含めて全員が視線を振る。


 靴音の源は酒呑童子が背にしている出口。男性の後ろには黒い異形が三匹控えている。


 場に緊張が走る。私は思わず息をのむ。


 間違いない。地下空間で交戦したあのプレイヤーだ。


「酒呑童子、これはどういうことだ。銀と遭遇したら逃げろと言ったはずだが」

「了承した覚えはねえぞ」

「そうか、それで戦いを挑んだあげくひざをつかされたわけだな。何と無様な」

「そう言うテメエこそ大名はどうした!? 探しに行ったわりにはずいぶんと寂しいお供じゃねえか!」

「爆発音が聞こえたから引き返して来ただけだ」

「んなこたァどうでもいいから力貸せザンキィ! こいつら人間の分際で我様にひざつかせやがった。存在を許してたら罰が当たんだよォッ!」

「業深き人喰いが何を言う。まあ連中の存在を許せないという点は同感だがな」


 ジロッとした視線を受けて身がすくむ。


 その視線はシルヴァリーさんにも向けられた。銀色の美貌は微笑をくずさず真正面から見返す。その横顔からは余裕が感じられて安心感すら覚える。


 でも状況は悪い。酒呑童子が回復する前に追い打ちをかけたいけど、後方に控える黒い化け物の力が不明瞭だ。


 何よりザンキなるプレイヤーは無傷。前に出て返り討ちにされたら後がない。


 ザンキが足を前に出す。


「それで、これからどうするつもりだ」

「決まってるだろうが、こいつらを皆殺しにするんだよ」

「その傷でか」

「大した傷じゃねえ。この酒呑童子にたてついた罪をあがなわせるのが先だ!」


 酒呑童子が体を起こす。


 言葉通りまだやる気らしい。ここで決着をつけたい私たちとしては願ったり叶ったりだ。


 私もダガーを構えて、ふと違和感を覚える。


 その違和感が明確な形を帯びる前に鈍い音がした。狂気を帯びた両目が大きく見開かれて、赤い瞳が重力に引かれて下がる。


 視線が下りた先には腹部。そこから伸びた腕が酒呑童子の体液に濡れている。


 ミザリたちが小さい悲鳴を上げる中、酒呑童子が信じられない物を見たかのように横目を振る。


 腕の主は、自身の敗北条件を満たしたにもかかわらず平然としていた。


「なッ、にをォッ。貴様裏切ったのかァッ!」

「裏切ってなどいない。お前を守りながら奴らを殲滅する自信がないのでな。鬼派閥はオレが勝利へ導く。お前はもう用済みだ」

「おのれがァッ、ふざ、けるなアアアアアアアアッ!」


 酒呑童子が右腕を振り上げる。


 黒い化け物が動いた。酒呑童子の足や腕にしがみついて身動きを封じる。


 酒呑童子がどけと命令しても化け物は応じない。


「何故だ、何故命令を聞かない! まさか、こいつらも!」

「そうだ。オレの言うことを優先して聞くように調整されている」

「アーケエエエエエエエエンッ!」


 怒号が響き渡る。


 それが断末魔になった。酒呑童子がポリゴンと化して砕け散る。


 あれ、これで私たちの勝ち?


 酒呑童子は鬼の頭領。それが消滅したってことは、私たちの勝利条件が満たされたことになる。


 そのわりに祝うような音楽は鳴り響かない。もしかして演出なし? だとしたらちょっと味気ないな。


 微かな落胆を覚えた直後だった。ザンキから見覚えのある赤黒いオーラが立ち昇る。


 ザンキから噴き上がった光は、先程まで酒呑童子がまとっていたオーラに酷似している。


「成った……くくっ、クハハハハハハハハッ!」


 呆然とする私たちの前でザンキが高笑いを響かせる。


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