表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/119

第113話


 集合場所に足を運ぶと人だまりができていた。設置された係員が看板を掲げてプレイヤーを誘導している。


 ペットチェックの際に名簿を作成していたらしい。それを元に班を構成して、あらかじめ用意しておいたんだとか。


 私は係の指示に従ってプレイヤーたちの列に並ぶ。


 モンシロたちも同じ班だ。近くのプレイヤーにあいさつして談笑で間をつなぐ。


 大きな声が張り上げられた。隊長を名乗った男性プレイヤーの号令でぞろぞろと移動を始める。


 鬼の本拠地は明らかになっている。


 忍の勢力は大名の味方だ。小夜さんがつかんだ情報は大名に上げられて、そこから人類派のプレイヤーへと伝播した。

 

 鬼の潜伏場所に襲撃をかけて一気に終わらせる。それが人類派の総意だ。


「鬼の頭領、酒呑童子しゅてんどうじだっけ。モンシロはどんな鬼なのか知ってる?」

「すごく強いとは聞いたよ。体が大きくて、鎧を着込んでて、背丈くらいある大きな刀をダイナミックに振るうんだってさ」

「刀か」


 忍の里で交戦したプレイヤーが脳裏に浮かぶ。


 酒呑童子もあんなふうに遠距離攻撃を仕掛けてくるんだろうか。鬼面を維持できる間に倒し切れればいいんだけど。


「そこ、遅れるんじゃない!」


 すみませんと告げようとして、男性が違う方向を見ていることに気づく。


 視線の先にいるのはギャハハハハと騒ぐグループ。隊列から少し離れた場所でのんびりと歩を進めている。


 男性がもう一度声を張り上げると、男性グループが気だるそうに目を細めた。


「なに、何か用?」

「お前ら歩くのが遅すぎだ。隊列が乱れているのが分からんのか」

「はーいすいませーん」


 再び愉快気な笑いが続く。


 指揮官が眉をピクリとさせた。


「何だその返事は! 我々が遅れたら他の隊も動けないんだぞ。奇襲が失敗したら俺の責任になるだろうが!」

「知らねーよそんなこと。銀だか何だか知らないがけどよ、勝手にまとめ役の顔されても困るんだよなぁ」

「なに?」

「だってそうだろ? 俺らはイベントに参加してるだけで、配信者の下についた覚えはないんだからよ」


 雰囲気悪いなぁ。


 心の内で思っていると男性が私たちを見た。


「なあ、お前らはどうなんだ? 勝手にどこぞのストリーマーの信者に仕切られて、不快に思ってる奴はいねえのかよ!」


 問い掛けの声が響き渡る。


 誰一人として声を上げる人はいない。


 ここにいるのはシルヴァリーさんの呼びかけに応じた人たちだ。仕切られることに不満を覚える人はいても、イベントで勝つためには仕方ないと割り切った人であふれている。


 私たちと問いを投げたグループの間に明確な距離を感じる。


「そんなに嫌ならお前たちは来なくていい!」

「へいへい、分かりましたよーっと」


 男性グループが駆け寄って隊の最後尾に戻った。


 結局ついてくるんだ。個人的には別行動をとってほしかったのに。


 指揮官が深くため息をついて移動を再開する。


 前方に谷が映った。


 両側が崖にはさまれている。桶狭間の戦いを想起させる地形だ。


「上で待ち伏せしたくなりマスね」

「逆を言えば待ち伏せされてる可能性もあるってことだよね」


 きっと指揮官も同じことを考えるはず。


 予想に反して、谷が近づいても警戒を呼び掛ける様子はない。


 私は焦燥に耐え兼ねて口を開いた。


「あの、指揮官。このまま進むのは危ないと思うんですけど」

「何故だ」


 どうやら分かってなかったみたいだ。


「両側が高所にはさまれているでしょう? もし鬼が隠れていたら挟み撃ちにされると思うんです」


 指揮官が顔をしかめる。

 

 その様子は、私に指摘されて悔しいって感じじゃない。


「だが潜んでいないかもしれんだろう。それに、ここを通るなんて鬼側は知らないんだ。待ち伏せているはずがない」

「でも」

「時間がないのだ。回り込んでいたら集合に送れてしまう」


 ああ、そういうことね。待ち伏せの可能性をあえて伏せてたってことか。


 指揮官はシルヴァリーさんのクランメンバーだ。集合に遅れたら評価に響くのだろう。私に気づかれて時短できなくなることをうれいたに違いない。


「指揮官速く行こうぜー! 真っ直ぐいかないと遅れちまうよー」


 さっきも聞いた声色にむっとする。


 白々しい。前進が遅れてるのはあなたたちのせいなのに。


「ほら、奴らもああ言っていることだし行くぞ」

「待ってください」

「待てん。急ぐと言っただろう」

「だったら三十秒だけください。私が確かめてきます」

「は? 三十秒でそんなことできるわけが」

 

 会話の時間が惜しい。私は右手を額に当てて、後方にいる男性グループの顔を思い浮かべる。


 視界内が青紫を帯びた。


「な、何だ!?」


 周りを動揺を振り切って大地を駆ける。


「ニオ、反対側見てきて」

「了解した」


 ポーチから飛び出した青紫の光が鹿を形作った。


 ニオは左、私は右の高台。何本もの樹木をしり目に流して高所へ駆け上る。


 十個ほどの背中が見えた。


「ん?」


 いくつかの人影が振り向く。彼らの手元には弓や杖が握られている。


 イベント中は敵の頭上にプレイヤーネームが表示される。この人たちは鬼派閥のプレイヤーだ。


 声をかけることなく最寄りの鬼を斬りつけた。一撃でプレイヤーがきらめきとなって霧散する。鬼面をつけている状態ならただの斬撃も一撃必殺にばけるようだ。


 鬼が武器を剣や槍に持ち帰る。


「何だこいつ! ぐあッ⁉」


 最後の一人を切り伏せた。キルして流れ込むアイテムを一瞥いちべつして反対側を見すえる。


 ニオも他のプレイヤーと遭遇したらしい。いくつかの人影が悲鳴を上げて高所から落ちる。


 大きな鳥が羽ばたいた。飼い主らしき人の肩をわしづかみにして飛翔する。逃げられて報告されても面倒だ。

 

 私は妖仙樹の投弾弓を使おうとして逡巡する。


 私たちがこのポイントを通過することはばれていた。誰かが鬼側に情報をもらしたのは確実だ。


 ちょうど同行者に怪しい人たちがいる。彼らに手の内は見せたくない。


 考えた末に、先程キルして奪い取った槍を実体化させた。


 走って慣性を味方につける。


「とどけええええええっ!」


 疾走の慣性を乗せて槍を投げた。長物が逃亡者の背中をつらぬいて人型をポリゴンの光に変える。


「やった!」


 喜んじゃいけない気もするけど、ひとまず槍投げは成功した。待ち伏せも看破できたし満足の戦果だ。


 私は鬼面を解除してポーションを飲み干した。HPゲージを満タンにしてから『風爪雷牙*』と『マシンガンスリンガー*』を装備する。

 

 坂を下ってからすーっと深く空気を吸い込んだ。


「もう大丈夫ですよーっ!」


 指揮官が戸惑いながらも足を前に出す。


「待ち伏せを見破ったことは礼を言う。だが何ださっきの仮面は」

「そんなことより急ぐんでしょ? クラン内の立場が悪くなっても知りませんよ」


 怪しいのは男性グループだけど、個人的にはこの指揮官も信用できない。


 ニオが歩み寄ってきた。


「せっかくだし乗」

「せぬ」


 ゼルニーオが輪郭を失ってポーチに入る。


 苦笑しているとモンシロたちが駆け寄ってきた。


「ヒナタ何さっきの! ビューンって走ってたよ」

「青紫のお面見えまシタ! ゼルニーオと関係あるんデスか?」

「うん。ここだけの話、ニオに力を貸してもらってるんだ」

「あのゼルニーオとそこまで仲良くなるなんて、さすがヒナタさんです!」

「私も似た物出せマスから今度比べ合いっこしましょうデス」


 言葉を交わすだけで嫌な気分が吹き飛ぶ。


 やっぱり私のお友達は最高だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ