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走るのが好きなのでAGIに全振りしました  作者: 藍色黄色


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112/119

第112話


「始まっちゃいましたねぇ。第二回イベント」


 地下天守閣内部。燕尾服の男性が壁を背にしてつぶやく。

 

 室内にあるのは二つの和服姿。無表情な男性が口を開く。


「何か言いたそうだなパテル」

「いやね、あなたがリバークをリリースするとは思わなかったので」

「それがルールだ。奴は負けた、ならば全てを失わねばならない」

「あなたのそういうストイックなところ大好きですよ。しかし解せませんねぇ。里には蛮角もいたはずなのに、一体誰がリバークをヤッたのやら」

「例のくノ一だ。リバーク自身の口から聞いた」


 パテルが壁から背中を離す。


「ほう、あのお嬢さんが。この前戦った時はなされるがままの弱者に見えましたが」

「奴も力をつけたということだろう。オレたちと同じように」

「それは戦う時が楽しみですねぇ。では私は先に行っていますよ」

「ああ」


 燕尾服姿が室内から消失する。


 廊下から足音が近づいてきた。障子の戸前に人影が浮かび上がる。


「やぁザンキ。少し語らないかい?」

「アーケンか。急用じゃないなら後にしろ」

「そう言わずにさ」


 障子の戸が開かれた。


 目を細めるザンキの前で、整った顔立ちに少年のような笑みが浮かぶ。


「入室の許可は出していないが」

「聞いたよ。ずいぶん大胆な策を考えたものだね」


 ザンキが小さくため息をついた。


「そうでもしないと鬼サイドに勝ち目はないからな。我々は忍の里を潰せなかった。現状は人間側が圧倒的優位にある。有利はそれ自体が強力な広告塔だ。乗っかろうとする者が集まって人数差は広がる一方だろう」

「君が以前言っていた株のようなものかな」

「そういうことだ。近いうちに、勝ち馬に乗ろうとする輩がオレたちを討とうと押し寄せる。配置した戦力では止められん」

「銀の暗殺に失敗したのは痛手だったか」

「いや、それは作戦の内だ。部下が派手に散ったことで、連中の大半は全ての工作員をあぶり出せたと確信しているだろう。奴らの情報は今もこちらに流れている」


 シルヴァリーに討たれたプレイヤーはあくまで囮だ。本命は今も仲間の振りをして人間サイドにまぎれている。


 そこから流れる情報を使って不利な状況をひっくり返す。それがザンキの作戦だ。


「ずいぶん手の込んだ立ち回りをするじゃないか。鬼の力におぼれない知性は好ましい限りだね」

「当然だ。現時点の俺は、熟練者に囲まれれば消え失せる程度の存在にすぎん。そもそも今回のイベントは鬼側が圧倒的に不利なのだ。いくら身体能力が高いとはいえ、人の多くは人型の生き物を喰らうことに抵抗を覚えるからな」


 所詮仮想世界。


 されど仮想世界。髪をなでる風や世界を感じる五感は、ゲームの世界でも強烈な現実味を付加する。逃げ惑う人々の背中を裂くだけでも一つの才能だ。


「そこまで読めていたなら、どうして君は鬼の側についたのかな」

「勝算がある。何よりおのが存在証明のためだ」

 

 ザンキが体の前で右の拳を固く握りしめる。


 アーケンがまぶたを下ろして肩をすくめる。


「それは結局聞かせてもらえなかったね。君は心の壁が分厚すぎるんだ。気を許した相手なんてパテルとリバークくらいじゃないか?」

「パテルに気を許した覚えはない。あれにとってはオレも玩具だからな」

「玩具あつかいしてくる相手をそばに置くなんて変わってるね。あるいは、君を卑怯呼ばわりしなかったから信を置いているのかな」

「黙れ」


 ザンキが視線を鋭くする。


 アーケンが小さく笑って背を向ける。


「長く話しすぎたね。ボクは一足先に失礼させてもらうよ」

「その前に聞かせろ。お前は一体何がしたかったのだ。改造生物ミュータントやアルボロスを生み出し、妖華に来たかと思えば我々から話を聞くだけ。まるで目的が分からない」


 アーケンが足を止めて「んー」とうなる。


 振り向いて子供っぽい笑みを浮かべた。


「おのが存在証明のため」

「おい」

「別にバカにしたわけじゃない、ボクの偽らざる本心さ。生き物は自分の存在を世界に刻むべく生きている。人も鬼も、鳥や獣だって例外じゃない。君がそうであるようにね」

「大事なことははぐらかしてばかりだな」

「これでも君に敬意を表して話したつもりだよ。お気に召さなかったかな」

「構わん。どうせいずれ明らかになるのだろう」

「そうだね。それじゃボクは行くよ。機会があればまた話を聞かせてくれ」


 アーケンが廊下に出て障子の戸に指をかける。


「ああそうだ、約束通り鬼の改造生物ミュータントを作っておいたよ。黒い個体は君の言うことを優先して聞くように調整してある。最終手段を実行する際には役に立つはずだ」


 ザンキが微かに目を見開いて横目を振る。


 アーケンがひらひらと手を振って障子の戸を閉めた。


「……くえない奴だ」


 ザンキがコンソールを開いてアイテムを確認する。


 座布団から腰を浮かせて部屋を後にした。


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