第111話
士気が高いままシルヴァリーさんの集会はお開きとなった。
私はフレンドと肩を並べて石だたみの地面を歩く。模様替えされた街並みについての感想を交わしつつ目的地への道のりを進む。
おもむく先はペット禁止。ゼルニーオにはまた角の中にこもってもらった。モンシロたちのペットも同様に実体化が解かれている。
「ここだよ」
目的地に到着して足を止める。
そこにあるのは飲食店。大半がNPCによる経営の中で、プレイヤーが直に働いている珍しいお店だ。一か月の間ランキング上位に乗ることで、次のランキング調査まで出店する権利を得られるらしい。
つまりは人気のお店。わくわくしながらドアを開ける。
和風な内装を背景に知り合いの横顔が映った。いつもの軍服から一転して白い調理着を身に着けている。
「こんにちはルイナさん」
ルイナさんが包丁を握る手を止めて振り向く。
「いらっしゃいヒナタさん。来てくれたのね」
「うん。出発時刻までに料理のバフをもらおうと思って」
第二回イベントは人と鬼の派閥に分かれての決戦。シルヴァリーさんや鬼以外のプレイヤーは仲間だ。
全体の指揮はシルヴァリーさんをトップに据えて行われる。指定された場所と時間に集まらないと集団に加わっての戦いができない。
鬼側も団結するだろうし仲間は多い方がいい。
「好きな椅子に座って」
「カウンター席でもいい?」
「ええ」
私は木製のチェアに腰かけた。モンシロたちも横に並んで座る。
ホログラムメニューを開いた。和風な様相がお店の雰囲気によく合っている。
表示されるのは料理名に写真。詳細文には得られるバフについて記されている。
どれも上昇数値が高いけど値段はお高めだ。レアな素材を食材に用いているのかもしれない。
私はAGI、モンシロとミザリはINT、サムライさんはSTRが上がる料理を注文した。
ルイナさんがまな板の上に魚を置いて包丁を握る。
「ヒナタヒナタ、店主と知り合いなの? 紹介してよ」
「いいよ。元々そのつもりでここに連れてきたからね。彼女はルイナさん。水上レースのイベントで知り合ったの。クールでかっこいいんだ」
「そうなんだ。私モンシロ、よろしくねルイナさん」
「よろしく」
よろしくの次が続かない。包丁の刃が魚を三枚に下ろす。
ルイナさん仕事人だなぁ、かっこいい。
「えーっと……じゃあサムライ、どうぞ!」
モンシロが両腕で促す。
サムライさんが元気よく腕を上げた。
「はいハーイ! 私サムライと申しマス。以後末永くよろしくドーゾ」
「後半適当なのね」
あ、食いついた。
モンシロがそうつぶやく中、ルイナさんが薙刀袋に視線を向ける。
「どうして名前はサムライなのに薙刀を持っているの?」
サムライさんが目を輝かせて身を乗り出した。
「よくぞ聞いてくれまシタ! 侍と言えば刀のイメージが強いデスが、実際には槍が多用されていたという説がありマス。リーチが長くて安全な距離から攻撃できる点が魅力的だったんデスね」
「つまり同じ理由で薙刀が使われたのね」
「まさにその通りデス! 薙刀を使用したとされるのは主に僧兵や女性武士デスが、ここにいる私は何を隠そう女性デス。つまりあえて、あえて武器を薙刀にすることで歴史を忠実に再現したのデス!」
「そ、そう、分かったわ」
サムライさんが袋から薙刀を引き抜く。
「そして見てくだサイこの薙刀っ! クエストで入手したのデスが、いかにも武士が使いそうな装飾デスよね。カラス天狗は剣術に秀でるって聞きマスが、さっきも言ったように女性武士の得物は薙刀。つまりこれは私のためにあるような武器なのデスよー!」
「ありがと。もう、いいから」
「それで――」
「いいから。大丈夫」
ルイナさんがたじたじしている。その様子が新鮮に映って思わず小さく笑う。
ミザリの自己紹介を終えて談笑すること数十秒。私たちの前に料理が並んだ。
「わぁ……っ」
想像していたよりも立派な海鮮だ。きれいに並んだ刺身が照明の光を反射してその瑞々しさをアピールする。エビやウニに似た食材もあって宝石箱みたいだ。
横に座るフレンドも感嘆の吐息をもらす。
「どこか変だった?」
「ううん、そんなことないよ。むしろきれいで驚いちゃったくらい」
「そう、ならよかった」
アイセの高級料理を食べる記念にスクリーンショットを撮った。
私は箸を握って透き通る白身を口に運ぶ。
淡白ながらも上品な甘み。温泉の時も思ったけど、ゲームの中でこの再現性は素直に感動する。
「本当においしいですね」
「ハイ。始めて日本でお刺身を食べた時のこと思いだしマス」
「これはあれだね、プロでもやっていけるね」
「プロよ私。アイセの中では」
ルイナさんの表情が微かに緩んだ。
普段のクールな雰囲気とは違う、どこか安心したような横顔が場の空気をやわらげる。
次は赤身を口に含んだ。舌の上でとろけるような食感に口角が浮き上がる。
「ルイナさんリアルでも料理スキル高いんじゃない?」
「実際に高いと思う。時々料理することもあるから」
朗らかな空気ができたのを機に雑談にしゃれ込んだ。ルイナさんの戦闘スタイルやアイセでの過ごし方を聞いた。
談笑を経て、四人の距離が入店前より近づいた気がする。
食べ終わると眼前にステータス画面が開いた。表示された数字を視認するとメニューブック通りにAGIが大きく上昇している。
「プレイヤーが経営するお店で食べたのは初めてなんだけど、料金はどうやって払えばいいの?」
「店を出る時に自動で精算されるから大丈夫よ」
「そっか。ごちそうさまでした。私たちはこれから征伐戦に参加するんだけど、ルイナさんも一緒に行かない?」
「ごめんなさい。私はリアルの方で予定があるの」
「それは残念。じゃあいい報告を待っててよ。人類側の勝利をお届けするからさ」
「ええ。楽しみに待ってるわ」
ルイナさんに見送られてお店を後にした。モンシロたちと次の目的地へ足を進ませる。
以下現在のヒナタの装備です。{}の中は鬼面発現時に着装する装備です。
武器 【風爪雷牙*】{宝刃シルヴェール}
【マシンガンスリンガー*】{妖仙樹の投弾弓}
頭 【忍・影柳】
胴 【忍・朧月】
腰 【忍・風帯】
足 【忍・飛廉】
装身具 【珠玉を追う者】
重ね着 【黒霞シリーズ】
クナイを挿しておく太もものバンドや籠手は省いてます。




