第108話

　

　終わった。

　私は一息ついて仮面を霧散させた。その拍子に武器の装備が外れる。

　ルイナさんと朧さんが歩み寄る。

「ヒナタ、その仮面は何?」

「妖力を固めた物だよ。ペットと契約して使えるようになったの」

「よかった、ヒナタまで鬼になるわけではないのだな」

「はい。小夜さんの時とは違うので安心してください」

　朧さんに微笑を向けて、先程の不可解な行動を想起する。

　あの人、どうして武器を空高くに投げたんだろう。

　それにパリィも気になる。

　対人戦なんて特に意識したことはなかったけど、イベントの前に知っておかなきゃいけないことがあるのかもしれない。

「そうだ、行かなきゃ」

　地面を蹴って夜闇の中を疾走する。

「ヒナタ、どこへ行くんだ！」

「斎さんのところです」

「無茶だ！　我々が行ってどうこうなる次元の戦いではないぞ！」

「でも援護くらいはできるかもしれません。朧さんは逃げる人たちを守ってあげてください」

　朧さんたちはNPCだ。蛮角と接敵するのはリスクをともなう。

　それは斎さんも同じ。私に何ができるか分からないけど役に立てることはあるはずだ。

　がらんとした道路を走りながら風爪雷牙とマシンガンスリンガーを装備する。

「ヒナタ待って、私も行く」

　振り向くとルイナさんが走っていた。

「ありがとう。心強いよ」

　私はスピードを落として彼女と肩を並べる。

「ルイナさんはパリィって知ってる？」

「ええ。近接系スキルを受けるタイミングで発動すると、その攻撃を無効にできるの」

　だからサイクロンエッジの瞬間移動が中断されたのか。

　対人戦だとみんながパリィを持ってる可能性もある。頭に入れておかないと痛い目を見そうだ。

「教えてくれてありがとう。時間があったら他にも対人戦のこと教えてくれると嬉しいな」

「ええ、構わないわよ」

　左右に伸びる壁が目じりに流れて広場に出る。

　前方に肩で息をする二体の妖怪が映った。斎さんの着物がボロボロになっている一方で、蛮角は片方の角が折れている。

「斎さん、援護します」

　私はスリングショットの射出口を蛮角に向ける。

「貴様らッ！」

　

　蛮角が目を見開く。

　その瞬間白い巨体が動いた。蛮角のふところに入って拳を突き出す。

　ボディブローにフック、目に止まらぬ連撃を繰り出した末に吹き飛ばした。白い手の平が波動で追い打ちをかける。

　蛮角の巨体が建物に突っ込んだ。絶叫が建物の崩れる音にかき消される。

　崩壊が収まっても足音は聞こえない。

　斎さんが砂ぼこりを晴らすと、蛮角が気を失って仰向けになっていた。

「ありがとな嬢ちゃん。奴の意識を逸らしてくれて助かったぜ」

「どういたしまして。私もさっき助けられたのでおあいこですよ」

　斎さんが蛮角に歩み寄る。

「蛮角をどうするんですか？」

　手にかけるんですか？　そう問うのははばかられた。

「安心しな、息の根を止めるわけじゃない。あんなのでも慕ってる妖怪は大勢いるんだ。あいつには負けを認めさせて過激な連中を止めさせる」

「そうですか」

　内心ほっと胸をなで下ろす。

　煽ってくるような妖怪でも、知り合いが手に掛けるのは寝覚めが悪い。

「オレ様は過激派にこいつのツラ突きつけてくる。嬢ちゃんたちはどうする？」

「他に鬼がいないか見て回ろうと思ってます」

「そうか。あのレベルがうようよいるとは思えねえが気をつけな」

「はい」

　斎さんが蛮角の巨体を担いで跳躍する。

　私はルイナさんと夜道を走る。

【アイセ】Ideal self online　part2238【アイディアルセルフオンライン】

113名前：理想の自分

妖怪の過激派が穏便派に負けたんだってな

114名前：理想の自分

どういうこと？　俺クエスト進めてないから分かんないんだけど

115名前：理想の自分

>>114

妖怪には人間を家畜化しようって過激派と、それを阻止しようとする穏便派がいる

過激派のトップが穏便派のトップに負けたから趨勢《すうせい》決まっちゃった感じ

116名前：理想の自分

過激派って鬼側の勢力だろ？　じゃ人間側が有利ってことか

　

117名前：理想の自分

まじかよ俺鬼側選んじまったぞ

118名前：理想の自分

まだ選択してなかった俺天才だな。ちょっち今から人間側選択してくるわ

　

119名前：理想の自分

ヴォイドの連中ががんばってるけどさすがに無理だろうなぁ

120名前：理想の自分

インチキ侍もクラン脱退したみたいだしな

121名前：理想の自分

まじかよ

122名前：理想の自分

誰かに負けたってこと？　誰が倒したんだあんなの

123名前：理想の自分

>>122

知らね。俺はヴォイドに所属してるフレから聞いただけだし。

124名前：理想の自分

あんだけクランリーダーに忠誠誓ってたインチキ侍を追放するとはなぁ

ほんとに容赦ねえなあの卑怯者

125名前：理想の自分

お前らイベント当日にシルヴァリーが集会開くってよ。みんなでペット連れて集まろうってさ

126名前：理想の自分

当日にぎわうだろうなぁ。シルヴァリーは人気ストリーマーだし他鯖からも人来そう

127名前：理想の自分

人気ストリーマーになった二位、片やプレイヤーキラーに堕ちた卑怯者の一位か。ずいぶん差がついたもんだな