表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/42

・【バトルステージ8】ハイドロハデイダ大橋奇襲戦

 勝利を喜ぶ間もなくバロン率いる500名+1匹の精鋭は、日没後に帆船で陸に渡った。

 上陸ポイントは半島東部。ハイドロハデイダ大橋の手前だ。この辺りは険しい山岳になっている。

 太古は島だったファフネシアと大陸の衝突により、大地が隆起して今の地形となった。


 俺たち奇襲部隊は山を越え、大陸とファフネシアを繋ぐ正規ルートまでやってくると、奇襲前の小休憩と偵察を行った。


「向こうの兵力に変動はない。橋の対岸に1000名、こちら側に200名といったところだ」


 無論、偵察は俺の役目だ。プリムとサリサと暗闇に身を潜めていたバロンに報告を入れた。


「ありがとう、ジーク。君がいると動きやすい。ずっとうちの軍にいてほしいくらいだよ」


「ふーんだ、カオスを斬ったくせに……」


「君もしつこいな。あんなに簡単に斬れるとは思わなかったんだよ……。それに、本当にあれで倒せたのか、半信半疑だ……」


 勘のいいやつだった。バロンは俺の報告をロンバルトとルディウスに伝えて、奇襲の決断をした。


 腹時計で申し訳ないが時刻は夜10時頃。反乱軍の勇者たちは剣を手に立ち上がり、隊列を組んだ。


「これより【ハイドロハデイダ大橋奇襲作戦】を実行する! 全軍前進! ジークッ、敵の動きがあれば直ちに報告を!」


「任せてくれ、トモダチよ」


 姉弟揃って人使いの荒い人たちだ。白いカラスは斥候として前を進み、奇襲部隊を敵の索敵範囲ギリギリのところまで誘導した。

 ハイドロハデイダ大橋は大陸側と半島側の双方に駐屯地がある。


 大陸側は帝国軍。半島側はイゾルテに従うファフネシア正規軍が守っているのだが、現在は警備が200名と極端に手薄だ。


 バロンはこれを自分たちの策の成果だと思っているが、この背後にもイゾルテがいる。イゾルテは帝国側の援軍要請に乗じて、この地から800名もタイス港に移動させていた。


「諸君、僕たちはこれよりファフネシア側の駐屯地に奇襲をかける。投降を促し、従わない者だけを倒してくれ」


「【帰らずの収容所】は既にない! イゾルテに家族を人質に取られていた者たちは、反逆のチャンスを待っておる! ワシらで背中を押せばイチコロよ!」


「僕たち工作部隊は皆さんが退路を確保している間に、ハイドロハデイダ大橋を破壊します。先祖より続く、僕たちファフネシア人の誇りとも呼べる橋ですが……致し方ありません」


 バロンは気に病むが、他に方法がないことは誰もがわかっていた。


「しかしこの橋さえ落とせれば、戦況は逆転しますっ!! このたった一つの陸路さえ潰せばっ、帝国は海軍に頼る他にない!!」


「だがワシらには海底要塞がある!! かつての同胞ラーズ王国も援軍に駆けつけてくれた!! 海戦ならばこっちのもんよっ!!」


「へへへ……うちのお父様がファフネシアのみんなを守ってあげるんだからっ!!」


「独立のために!! イゾルテを倒し、祖国を取り戻すために、我バロン・ハイドロハデイダに続けっ、竜の翼の勇者たちよっっ!!」


 500名の勇者たちは忍ぶのを止めて大声を上げ、同胞が守る駐屯地に突撃した。こちらの勢いを示して、同胞を味方に組み込む。バロンらしいやり方だった。


 制圧部隊の指揮をロディウスに任せて、残りの精鋭は一直線に橋を渡った。ハイドロハデイダ王家の象徴である竜の爪の旗。竜の翼の旗が戦場にひらめき、それを見た駐屯地の同胞たちは声を上げた。


 この大橋は全長300メートルにも及ぶ規格外サイズの橋だ。その下は浸食により深い谷となっており、谷の各所には海水がしみこんでいる。

 バロンとプリムは橋を守る帝国兵を蹴散らして進んだ。


 奇襲に気づいた大陸側から次々と増援が現れ、橋中央まで残り50メートルのところで足止めを食らった。だが心配はいらない。


「ジーク、彼ら(・・)に連絡を」


「任せてくれ」


 白いカラスは敵の弓矢を軽やかにかわし、ちょっとした援護射撃にシャドウボルトの雨を降らせながら、橋中央に建てられた塔の内部に入った。


 内部には無数の帝国兵が倒れており、彼らを片付けたと思われる兵たちが暗闇の中にたたずんでいた。


「小熊座傭兵団のガディウスだな?」


「おう」


 彼らというのはイゾルテに憲兵隊として雇われていたガディウスたちのことだった。


「バロンからの伝令だ、決起願おう。……といっても、既に始めてしまったようだな?」


「潜入に気付かれちまってな。……んで、計画通り、連絡路を塞げばいいんだよな?」


「ああ、しばらく塞いでくれれば、バロンたちが猛攻をしかけてここまで乗り込む。その後、橋を爆破する」


 爆破するのは大橋の中央部から少し先。そこを破壊すれば、橋の修復工事があろうともこの塔から妨害が出来る。


「で、お前さんはどうすんだい、カオス?」


「フ……勇敢な君たちの助けになろう」


 ガディウスはイゾルテとも通じていた。先の徴税官が引き起こした騒動で、ガディウスが直訴を行ったあの件で、イゾルテは彼を味方に引き込んだ。


 彼らは今日この日バロンの内通の策に乗るために、イゾルテの手によりここに異動させられていた。


「ありがてぇが複雑なところだ……。自分が裏切り者として死ぬことで完結する策なんてよ、後味悪ぃぜ……」


「さっさと始めるぞ、ガディウス」


「おうよっ、頼りにさせてもらうぜ、ジーク殿!」


 小熊座傭兵団は潜伏を止め、塔を下った。階段の上から帝国兵に矢を放ち、隊長のガディウスが階段を駆け下りた。


 白いカラスはストーンバレットで階下の敵を吹き飛ばすと、ガディウスと肩を並べるために人化の術を使った。

 帝国兵のグラディウスを握り、正面の帝国兵を蹴散らした。


「ま、まさか、お前さんなのか……!?」


「長くは続かないが、バロンが到着するまではもつだろう」


「はははっ、こりゃいい! 頼りにしてんぜ、ジーク!」


 正史ではここで小熊座傭兵団の3割が死傷した。だがその貢献によりこの中央塔が確保され、作戦を成功に導いた。


 そんな彼らを支援するために片手で術を使い、もう片手でグラディウスを振り回した。我々は迅速に1階までを制圧し、帝国の増援を連絡路で受け止める流れに持ち込んだ。


 後はバロンを信じて耐えるだけだ。敵に矢を撃ち込まれようとも不死身の肉体を駆使して時間を稼いだ。


「おっさんっ、無事っ!?」


「おうっ、なんとかな、姫さん!」


 耐えること数分、ついにプリムが後方より現れた。尻目に背後を確認すると、負傷者こそいるが、俺は痛ましい歴史を変えることに成功していた。


「え……おじ、様……?」


 俺の役目は終わったようだ。プリムに気付かれかけたところで、正面を強行突破し、橋から飛び降りた。


 ジークへと変化した俺は翼を広げて空気を掴み、彼らの前から姿をくらました。それから橋の遙か天空へと舞い上がったカラスは、さらに死傷者を減らすために彼らの作戦に少しの修正を加えてやることにした。


 というのもこのステージ、正史では爆破に1度失敗している。2度目の爆破でなんとか破壊に成功し、その間、帝国兵との戦いで兵の死傷と老将ロンバルトの負傷が発生した。


「あの気持ちのいい老人が痛い思いをするなど気分が悪い。手加減なしの一撃で吹っ飛ばすとしよう」


 カラスは天空で特大の【ストーンバレット】を生成していった。橋の上空300メートルほどの高さから巨岩を落とせば、どんな橋であろうとも一撃だ。


 地べたではいつくばる矮小な人間どもは天を見上げた。天空に巨岩が浮かぶ姿を。見る見ると成長してゆくその大岩に両軍の撤退が始まった。


「ククク……悪いな、バロン。これほどまでにエキサイティングな悪行を君に譲れるはずがない。ファフネシア人の努力と英知の結晶よ、今ここに、砕けよ……!!」


 白いカラスはプチメテオを降らせた。プチメテオは橋の真上に直撃し、これまで1度も聞いたことのない酷い破壊音を轟かせて、塔から帝国側に続く橋をぶち壊した。


 重力×質量=パワー。問答無用の力が半島と本土を寸断させた。

 これにて作戦終了。スキルポイント2を得たカラスは術の単純強化である【闇魔法:発展】と、【変化魔法:巨獣Ⅰ】を獲得すると、バロンという名のトモダチの肩へと帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ