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・カラス育成パートその5 - 生命力吸収 -

 翌朝、イゾルテに見送られて半島西部へと飛び立った。3日も彼女の顔を見られないのは辛いが、何もしなければ永遠の別れが先に待っている。


 生後1ヶ月ばかしの翼を羽ばたかせてカラスは遙か天空を翔けた。前回の旅と同じように【同化】の素材を求めながら竜脈を訪れる、食い倒れからの瞑想の旅の予定だった。


 スキル【探知魔法:応用】があれば、より強い魔力を秘めた品を見つけだすことが出来る。優遇された成長力を持つバロンとプリムをいずれ相手にするには、高い基礎ステータスが重要だった。


「ふむ、また会ったな。……む?」


 昼頃、例の魔力を持つオオフクロウを発見した。早速ちょっとつまみ食いをしてやろうと思ったのだが、大木のうろに見つけた巣穴をのぞくと、母の腹の下でヒナがお腹を空かせて鳴いていた。


「そうか、おめでたか。ならば少しだけ援助してやろう。【プロテクション】【クイック】!」


 威嚇する母と、引き返してきた父に術をかけてやった。これでヒナが親を失うことも、獲物が見つからなくて飢えることもないだろう。


「いつかまた摘まませてくれたらそれでいい。ではな」


 巣を離れ、新たな同化の素材を求めて深い森から急浮上した。精度の上がった探知魔法があれば、これまで見つからなかったレア物の魔力が空の上から肌で感じ取れた。


 誰も訪れることのない水晶窟を見つけて、魔力を秘めた【赤い水晶】を己に同化させた。空に浮遊する【正体不明の光球たち】をまとめて同化した。


 夕刻前に古戦場付近までやってくると、【巨人の頭骨】とでも呼べる物を見つけ、それもまたカラスは力を求めて同化した。


 未来のカラスがくれたチャートにはこうある。同化による強化には、地域に散在する同化素材の数、という限界がある。つまりお宝は無限にあるわけではないのだ。


「ふぅ……少し食い過ぎてしまったか。ほどほどでイゾルテに定期連絡を入れなくてはな……」


 竜脈に突き刺さる剣までやってくるとそこでしばらく羽を休めた。それからイゾルテが政務を終えて寝室に戻る時刻に会わせて引き返し、通信可能域まで戻ると連絡を入れた。


『イゾルテ、変わりないか?』


『ええ、だいぶきな臭いけれど、今のところは』


『そうか』


『ふふ……連絡、ずっと待ってた。私、カァくんがいないとダメみたい……』


『使い魔冥利に尽きる言葉だ。修行が終わったらまたなんにでも化けよう。候補を考えておいてくれ』


 たかだか7キロメートルくらい、新幹線より速いこの翼があれば大した時間のロスではないのだが、会ったら朝まで主の胸で眠りたくなる。


 30分ほど話し込むと、カラスは竜脈の地へと戻って再び魔力と生命力を吸い上げた。


「寂しい土地だ……」


 カラスは静かに剣の柄の上にたたずみ、半ば眠るように魔力を吸い続ける。【吸収魔法:生命】により生命力の吸収は、まるで湯に浸かっているかのように心地よかった。


 やがて夜が明け、そして昼が訪れ、寂しい世界が華やかな花畑に変化し、また日が沈んだ。

 たった1日のことだったが、【吸収魔法:発展】の獲得により吸収効率が向上したことにより、燃え上がるような生命力と、あふれんばかりの魔力を我が身に感じていた。


 そろそろ定期連絡のためにイゾルテのところに戻らなければならないだろう。

 そう思っていた矢先、ソレは現れた。


「死合を所望する」


「試合……? またおかしな影が現れたか……」


 腰に剣を吊した赤い影が目の前に立っていた。人間では超大男といった体躯で、声は低く壮年を感じさせた。


「己が剣を抜け。ゆくぞ、もののふよ」


「なんなのだ、この地は……」


 赤い影が動くとカラスは竜脈の剣から飛び立った。しかし影は跳躍し、目前にて剣を薙ぐ。


「グアッッ?!!」


 ふがいないが一刀の下にカラスは切り捨てられた。……はずなのだが、真っ二つに斬られたカラスは膨大な生命力により繋ぎ合わされ、再び羽ばたいて天を旋回した。


「クッ、せっかく吸った生命力を……っ。そちらがそのつもりなら、全力で行かせてもらう!」


 カラスはシャドウボルトを装填し、ガトリングガンのように赤い影を狙って連射した。しかし影は重力を無視するかのように素早い、全弾100発を撃ち尽くしても、命中率はたった3%に止まった。


「カカカ、見事! 次はこちらから行くぞ、カラス!」


「ぬ、ぬぉぉぉっっ?!!」


 その赤い影は信じられない跳躍力で大地から飛び上がり、天のカラスへと剣を振るった。それは1度や2度ではない。敵のあまりの速さにカラスはみじん斬りの滅多斬りにされた。


「【リターン】」


 自らにリターンの魔法をかけていなかったら、せっかく吸った生命力を失うどころか、俺は滅びていただろう。カラスの時は巻き戻り、自動的に修復された。


「【シャドウボルト】!!」


 重力に従い落ちてゆく赤い影の背に、ありったけのシャドウボルトを連射した。影は大地に激突し、前のめりに倒れたまま動かなくなった。


「ク、ククク……クカカカ……!!」


「なんなのだ、お前たちは」


「良き、死合であった。褒美を授けよう」


「おい、人の話、聞いているか?」


 赤い影は霞のように消え、【突起のあるルビーのような石ころ】が後に残った。それから極めて高い魔力を感じたが、果たしてこれを同化しても大丈夫なのだろうか。


「不気味で気が進まんが……」


 使い魔カオスはイゾルテを支えるために生み出された存在だ。人の子として生まれたならまだしも、俺は使い魔だ。イゾルテのために全てを捧げることを迷ってなどいられない。


 ルビーをくちばしでくわえて、意を決したカラスはそれを己に同化した。


「うっっ?!!」


 すると妙なことになった。ドクンドクンと心臓が暴れ、みるみると世界が小さくなっていった。


「こ、これは……俺の、腕……?」


 俺は人型をした漆黒の影となっていた。腰には先ほどの武人が使っていた刀があり、アレと同一の何かに変化していた。


 その刀を振るえば、大木すらも薙ぎ払うことが出来た。大地を蹴れば先ほど俺に迫ってきた赤い影のように、天狗のような跳躍を果たすことが出来た。


 怪物の姿であろうとも、人の手足を取り戻せたのが嬉しかった。だがこんな姿の怪物に惚れる女性はどこにもいないだろう。あまりに不気味な己の姿に不快感を覚えた。


「ふぅ……思わぬ収穫だった。これはいざという時の切り札になる」


 やはり元の姿から逸脱すればするほどに、変化を長く維持出来なくなるようだ。2分もしないうちに元のカラスに戻っていた。


「……しまった、このままでは遅刻ではないか」


 寂しがりの主に定期連絡を届けるために、カラスは翼を羽ばたかせて月光輝く雲の上を飛んで引き返した。

 不気味な怪物に化けられるようになったとは、愛玩動物そのままに愛でてくれるイゾルテに報告なんて出来なかった。



 ・



 かくして3日目の昼、カラスは長く寂しい修行を終えてイゾルテの政務室に帰投した。

 しかし政務室には先客があった。書斎机の前に子熊座傭兵団のリーダー・ガディウスの姿があり、彼は暴君の前だというのにえらく白熱していた。


「やつらをこのまま自由にさせるんですかいっ!?」


「致し方なかろう」


「バカなっ、アンタの民が略奪を受けているんですぜ?!」


 イゾルテは暴君の顔で使い魔カオスを腕に迎え、己の肩に移した。


「頭の痛い話だ」


「はぁっ、それだけなんですかい!?」


「ククク……我を畏れぬか、ガディウスよ」


 詳しい話を聞かずとも事態を飲み込めた。これは【バトルステージ4】の前日譚だった。


「雇われとはいえ俺らは憲兵だっ!! それが民を守れないなんてっ、矛盾してるでしょうがっ!!」


「その勇気に免じて不敬を許そう。何、指をくわえて好きにはさせぬ。……下がれ」


 ガディウスは納得がゆかぬようだったが、イゾルテに睨まれると歯ぎしりを鳴らして政務室を去っていった。


「説明しよう、本国から徴税官が来た。その徴税官は臨時徴収と称して、民から略奪同然の搾取を始めた」


「確かに、頭の痛い話のようだ」


「その徴税官の配下が民を斬ってな、勇敢な彼が乗り込んで来た」


「ほう、貴方に逆らうなど大した勇気だ」


 イゾルテは弱い自分を見せなかった。それだけ臨時徴収と殺人に彼女も心底怒っていた。


「ならばなぜ帝国のすることを止めない?」


「ククク……止める? なぜそんなことをする必要がある。全て我の計算通りだ」


「それはどういう意味だ?」


 知らぬふりをしてそう問いかけた。


「ロムルス帝国の徴税官とは既に話が付いている。見て見ぬふりをすると、約束してやったよ」


「……そうか。しかしそんなことをしたら、民衆の怒りが爆発してしまうのではないか?」


「フッ、何か問題でもあるのか?」


 イゾルテは反乱を誘発させるつもりだ。反乱を起こすだけの力と拠点を得たバロンの背に、さらなる追い風を巻き起こすつもりだ。


 この事件がきっかけとなって、これまで堪えてきた者たちも怒りや不平を訴えるようになる。イゾルテに媚びへつらっていた者も心変わりを始め、いずれ全てがイゾルテの敵になる。


「イゾルテ、何もかもを捨てて、俺と逃げないか? どこかで静かに暮らそう」


「断る。我は総督イゾルテ、この国の独裁者だ。我にあるのは死か、勝利かの二択だけだ」


「見ていられない……」


 ありとあらゆる者が彼女に侮蔑を吐くようになる。今日までイゾルテに庇護されてきたというのに、手のひらを返して、彼女の全てを否定する悪夢がやってくる。


「カオス、我にはお前がいる。お前が我を信じてくれる限り、我は何も怖くなどない」


 この帝国の暴挙に、力を付けたバロンが黙っているわけもない。バロンは動き、それがこの地の独立戦争に発展する。


「イゾルテ、民に何を言われても耳を貸すな。君は忠臣だ。裏切り者なんかじゃない」


「カオス、徴税官の監視を頼む。あまりに目に余るときは……止めてくれ」


「任せてくれ」


 翼でイゾルテの頬を撫でて、カラスは政務室から飛び立った。


――――――――――――――――――――

status_window(chaos)


【LV】  20

【HP】 310  →  500

 【現HP】 99999/500

【MP】 230  →  460

 【現MP】  4999/460

【ATK】 51  →   70

【MAG】110  →  198

【DEF】 62  →   99

【HIT】216  →  463

【SPD】408  →  805

【LUK】1090 → 1111


【獲得スキル】

 錬金系

 【錬金術:初歩】【合成術:初歩】

 【錬金術:発展】

 変化系

 【変化魔法:初歩】【変化魔法:発展】

 【補助魔法:初歩】

 【強化魔法:守】【強化魔法:時】

 【変化魔法:小動物】【変化魔法:小動物Ⅱ】

 吸収系

 【吸収魔法:初歩】【吸収魔法:発展】

 【吸収魔法:生命】

 感知系

 【感知魔法:初歩】【感知魔法:応用】

 ???系

 【深淵化:影人】new!


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