女神様のショベルカー
童話祭向けにかいてみましたが、童話って書こうとすると難しいですよね…
ちょっと変わったお話を書いてみました
ここは日本にある、山奥のさらにずっと奥
雪が降り積もるその山奥に、少しだけ森が無い場所がありました
ここは十年程昔、ここから深い山を越えて、道を作ろうとしていた場所でした
ただ、その道を作る工事は中止になってしまい
この昔に工事の機械を置いておく場所だった所を残して
また、森になってしまっていました
その場所に、ポツンと一人きりで残されてる物がありました
大きな大きなショベルカーです
ショベルカーはもうあちこち錆びてしまって
草が身体から生えていました
もう十年程前からこの場所から動いていません
その大きな身体のせいで、この工事が中止になっても
すぐに運び出せず、後回しにされているうちに
通り道もどんどん森に埋もれてしまい
ここから出れなくなり、置いていかれてしまったのです
「今日は寒いね…」
ショベルカーはそっと呟きます
人々がこなくなってしばらくして、ショベルカーは鳥の声が聞こえるようになりました
そして森の木々の声も聞こえるようになってきました
寂しくはなくなりましたが
森達の声が聞こえると言う事は、ショベルカーである自分も
自然に戻る時が近づいてきている証拠でした
機械である自分が、自然に帰る
それはもう寿命が来て、土に還る時が近いのです
「僕は何ができたのかなあ…もっともっと道を作ったり、人達の喜ぶ声が聞きたかったなあ」
ショベルカーはそう言って、もう動かなくなった自分の体を見つめます
「もう動けないか…いつも来てくれる小鳥さん、もう雨宿りさせてあげられないなあ」
雪の重みで、ショベルカーの人が乗る部分が崩れて行きます
ここは、小鳥さん達の雨宿りのお気に入りの場所でした
「うん…僕もそろそろ駄目みたいだ…」
雪の重みで、ゆっくりとショベルカーは倒れて行きます
ゆっくりと、ゆっくりと、最後に森のみんなに別れを告げながら
「あれ?ここはどこだろう?」
ショベルカーが目を覚ましたのは、大きな大きな真っ白な地面の上でした
お空には、青い青いお空が広がり雲ひとつありません
「こんにちは!ショベルカーさん」
そう声を掛けられて振り向くと、白いドレスを着たとても綺麗なお姉さんがたっていました
(うわぁ綺麗な女の人だなあ…女神様ってこんな感じなのかなあ)
「ふふっ、そうね私は地球とは違う場所の女神なのよ」
そういってお姉さんは笑顔で話してくれます
「え!本当に女神様なの?女神様ここは一体どこなのですか?」
ショベルカーは女神様に尋ねます、こんな場所は見た事も、聞いた事もありません
すると女神様は、笑顔で白い白い地面を指さします
「ここは雲の上よ、ショベルカーさん、寿命が来てしまって、お空に行くはずだったショベルカーさんにお願いがあって、ここにきてもらったの」
そう言って女神様は、ショベルカーを見つめます
「僕にお願い…?」
「そうよ、ショベルカーさん、あなたの力を貸して欲しいの」
「僕の力ですか…?」
「そう、私達の世界は、まだまだ人の住む所は小さくて、道を作ってあげたり、畑を作るお手伝いをしてあげて欲しいの」
女神様は、笑顔でショベルカーに触れながら頼みました
「でも僕の体はもう錆びだらけで動けないんだ…」
そういってショベルカーは錆びだらけで穴の開いた自分の体を、悲しそうに見つめます
すると女神様はにっこりとほほ笑みながら
「大丈夫よ、ショベルカーさん、私達の世界に来てくれるなら、錆びない体を差し上げましょう、動くための燃料もいりませんよ」
「本当に!また皆のために働けるの?」
ショベルカーは女神様の言葉に驚きます
燃料もなしでピカピカの新しい体で、皆のためにまた働ける!
それは夢の様なお話でした
「ええ、私達の世界のお手伝いをしてもらえますか?」
「もちろん!よろこんで!」
ショベルカーは嬉しくてたまりません
思わず思わず、ショベルを高く高く上げて踊りだしてしまいます
それを見て女神様は、うふふっと笑います
「それじゃあ、今から送りますね、頑張ってね、ショベルさん」
女神様は、微笑みながら手を振ります
「はい!行ってきます!女神様の世界に大きな大きな道を作ります!」
「期待していますよ」
そうして、ショベルカーは、暖かい光に包まれながら旅立っていくのでした
ここは女神様が住む世界
剣と魔法の世界、深い森の奥には魔物が徘徊し、大きな大きな竜も存在する世界
その世界の片隅、山奥の村 デニス村
ここの小さな教会の司祭の ミルバは先ほど女神様のお告げをきいた
突然現れた女神様は、ミルバに優しく微笑みかけながら
「この村は、昔々から細い山道しかなく、馬車もほとんど通らず不便でしょう」
その言葉に、女神様が現れた事に、驚きながらもミルバは頷きます
「はい、女神様、この村は、山に囲まれていて、その山を削って作った細い山道しかありません、
そのために、他の街との行き来も少なく、お医者様もこれません」
この村は、百人程の小さな村ですが、他の街からの行き来も大変不便で
村で作る食糧以外を、運んでくるのにも、住人が背中に背負って山道を歩いて来るしかありません
そのために、村はどんどん人が居なくなってしまい、村の人々も気力を失いつつありました
女神様はそれを聞いて、悲しそうな顔を浮かべますが
次の瞬間には、にっこり笑ってこう言います
「道を作るためのお手伝いさんに、もうすぐそちらにいってもらいます、ショベルカーさんという大きな大きな方なので、住人のみなさんに驚かない様伝えておいてくださいね」
そう言って女神様は笑いながら消えて行きました
「これは大変だ!女神様のお使いがこの村に来られる!皆に伝えねば!」
そういってミルバは走り出します、村のみんなを、小さな教会の横の広場に集めるために
それから数十分後、広場には多くの村人が集まっていました
「女神様のお使いがくるらしいのお」「どんな人なのなかのお」
「女神様のお使いだから神様になるんじゃあねえのかい?」「そうなるのかのお」
口々にのんびり噂を囁き合います
村の司祭のミルバが集まった村人たちに大きな声で語りかけます
「女神様は、道をつくるお手伝いをこちらに遣わせてくださるそうだ!あの細い山道が変わるかもしらないぞ!」
「おお!」「本当かい!もう年であの道を荷物を担いで進むのはのう」
「町から馬車がこれるくらいならいいのお」
「でもあの山は、地面が凄く硬くてスコップじゃあ歯が立たんのじゃあ」
「んだなあ」「わしらもがんばったんだがのお…」
その時、突然教会の入り口の前が大きな光に包まれました
「なんじゃあ?!」「神様じゃあ!」「大きな光じゃのお」
そうして光に包まれた物は、徐々に姿を現わします
それは、あの大きな大きなショベルカーでした
「「「「うああああ!なんじゃあ!」」」」
「なんじゃあ…ありゃあ…」「でっかいのお…家よりでっかいぞ…」
「神様のお使いじゃあ!」「ありゃあどこが顔になるんじゃあ?」
村人たちは驚きで腰を抜かしつつ、口々に囁きます
司祭のミルバは驚きに包まれつつも、女神様のお使いに話しかけます
「私はこの村の司祭のミルバと申します、女神様のお使い様ですね?よろしければお名前を教えて頂けませんか?」
ミルバの問いかけに、大きな爽やかな声が答え、広場に響き渡る
「こんにちは!みなさん!僕はショベルカー!女神様のお手伝いで道を作るために来たんだ!」
そういって、多くの村人に囲まれたショベルカーは、ついはしゃいでしまって
ショベルを高く高くあげてしまいました
「ひゃあああ!動いた!」「でっかいなあ…」
「あそこが手になるのかい?」「でも足が無いぞ?」
村人たちは、大きな大きなショベルカーが高く高く掲げたショベルにさらに腰を抜かします
「僕の足は、このキャタピラだよ!こうやって走るんだ!」
地面を、踏みしめながらショベルカーはゆっくり動きだします
キャタピラの音を響かせながら
「うわわわっ!」「動いた!凄いもんじゃな!」
村人たちは大興奮です
「さて!僕が作る道はどこがいいのかな?!」
ショベルカーは大きな声で村人達に問いかけます
司祭のミルバは、ある山を指差しながら言います
「あの山の山道が細すぎて不便なのです…」
ショベルカーはそちらを向き
「わかった!任せて!すぐに行ってくるよ!」
そういって、大きな大きな身体を前に進めます、キャタピラの音を響かせて
(また働ける!みんなの役にたてるんだ!頑張るぞ!)
後の時代に【女神様のショベルカー】そう呼ばれた
神様のお使いは、初めてのこの世界のお仕事に取り掛かりました
今まで何十年も、苦しめられた村は、三日後には、山を越える大きな馬車が何台も通れる
大きな大きな道で、他の街と結ばれました
ここから【女神様のショベルカー】と呼ばれる神様のお使いの伝説は始まったのです
童話って難しい…




