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忘れそうでしたが、Sランク冒険者です。


よろしくどうぞ〜( ・∇・)ノ

 







 暫くソフィアに首根っこ掴まれていたレインではあったが……ようやく、冷静さを取り戻したらしい。


 彼は恥ずかしそうに咳払いをすると、気を取り直してと言わんばかりに笑顔を浮かべた。




「という訳で……ひとまず冒険者ギルドに行って俺の所在報告がてらソフィアの冒険者登録もしよう」

「わたくしの冒険者登録は分かりますけれど……レインの所在報告?」

「そそ。Sランク冒険者はなるべく、冒険者ギルドに現在いる場所を報告する義務があるんだよ。何かあった際に招集するためにな」


 忘れそうになるが……レインは数少ないSランク冒険者、それもソロで活動する変じーーごほんっ。凄腕冒険者だ。

 普段は特に制限はないが……国家規模の危機的状況が起きれば真っ先に招集され、依頼されれば必ず国に協力しなければならない立場にいる。

 これは冒険者ギルドが独立組織として許されており、国に貢献しつつも優遇されているからこそ定められている義務だ。

 ゆえに、有事の際のためにSランク冒険者はギルドに自分の所在をーー人によっては秘境にいることもあるので、あくまでも出来る限りーー報告することになっていた。


「ギルドには通信用の魔道具があるから、Sランク冒険者の居場所は各国のギルドで把握されてんの。でも、俺もいろんなとこに転移させら(飛ばさ)れるから……その度に〝え? なんで先日、〇〇〇国にいるって報告されてんのにこの国いんの?〟みたいな顔されんだよなぁ……」

「………それは、そうなの、では……?」

「距離的におかしいギルドに顔を出すことになるからなのか……俺、ギルドで化物、みたいに思われてんのよね……俺が何人もいるとか、人間じゃなくて幽霊だとか……鉄壁スマイルで乗り切ってくれる受付ならいいんだけどさぁ……顔に出ちゃってる受付は酷いもんなんだよな……すっげぇ怯えんだもん……俺、そんな怖くないと思うんだけどなぁ……別に顔見たって死なねぇよ……死者への祈りの言葉とか唱えるなよ……」


 ーーヒクリッ。

 昔の対応ことを思い出してしまったからなのか……口元を引き攣らせながら遠い目をした彼を見て、ソフィアは思わず同情の視線を向けてしまった。

 どうやら過去、冒険者ギルドで中々に精神的ダメージを負うような対応をされたことがあったらしい。

 これもそれも全てはあの駄女神の所為である。改めて、彼もまた自分と同じ駄女神被害者なのだと……実感させられた。


「それもクレーム入れましょうね……」

「…………おぅ……」

「えっと……だいぶ落ち込んでいるようですが、大丈夫ですの?」

「んー……ん。大丈夫、切り替えは得意だ」


 ーーパンパンッ!

 両頬を叩いたレインは、さっきまでの暗い雰囲気が嘘であったかのように爽やかになる。

 切り替えが得意とはいえ、あまりの変わりようにソフィアは驚きを隠せなかった。


「ごめん、ごめん。ちょっとネガティブってたわ。まぁ、俺の悲しい対応をされた件は取り敢えず置いといて」

「え、えぇ……」

「ここの冒険者ギルドに行ったら、ついでに護衛依頼がないか見てみような」

「…………え? 護衛依頼?」


 どうしてそのようなことを提案するのかが分からないソフィアは、首を傾げる。

 そんな彼女に対して、レインは「そう」と知っていることを教えたがる子供のような様子で口を開いた。


「出来れば、なるべく早くこの国から出た方がいいと思うんだ。駄女神アイツから聞いた話だと……あのダンジョンでソフィアは魔王()の仲間になっちゃうんだと。今は俺という存在の介入でシナリオが変わってきてるけど……強制力とかあるかもしれないし」

「……強制力、ですの?」

「うん、流れを元に戻そうとする力のことな。だから、それ対策にも早めに国を出た方がいいかなって。一応、この国が全ての始まりだからさ」

「確かに……そんな恐ろしい力があるのでしたら、レインの言う通りにした方がいいですわね」

「だから、護衛依頼を受けようって思って。出来れば貴族相手じゃなくて、商人とか移動馬車とかのな。何も対策せずに無意味に移動するより……冒険者として移動してた方が目ェつけられないと思うんだよな。没落した貴族とか貧乏貴族とかが冒険者になってたりするし。まぁ、護衛依頼がなかったら普通に移動することになるけど。どう?」


 最初は何故、護衛依頼を受けようとしているのかが分からなかったが……その理由を聞いて、ソフィアは心底感心した。

 ただでさえソフィアは目立つ。長年の暮らしで貴族令嬢らしさが染み付いてしまっているからだ。………見た目に反したかなりの武闘派でも。

 だがレインが言った通り、没落した貴族などが冒険者になることがあるので、仕草や言動が貴族らしくても多少は誤魔化せるだろう。護衛依頼を受けた冒険者として国を出れば、更に目をつけられにくくなるはずだ。

 つまり、彼の提案は現時点での最善の選択であった。

 昨日出会ったばかりの人間に対してここまで優しく出来るのは、レインの性格が良いからだろう。

 ソフィアは彼が仲間になってくれた幸福に心底感謝しながら、それに頷いた。


「レインの提案に従いますわ。そもそも、わたくしよりもレインの方が冒険者として先輩になるんですもの。逆らう理由がありませんわ」

「なら、よかった。じゃあ、そういうことで」

「レイン」

「ん? 何?」

「ありがとう」

「…………どう致しまして」


 そんな会話をしつつ、歩くこと数分。商業区画と鍛治区画の中間辺りに位置する冒険者ギルドに到着した。

 頑丈そうな煉瓦造りの三階建て。看板には盾のようなマークを四つの枠に分けられており、右上には剣、左上には本とピッケル、右下には翼の生えた靴の印が描かれており……最後の左下の枠には〝冒険者ギルド・パート支部〟という文字が書かれていた。

 ソフィアはギルド前に立ち、ジッとその看板を見つめる。それに目敏く気づいたレインは、クスリッと笑ってから口を開いた。


「看板……というよりはギルドの紋章か? それ、気になる?」

「……えぇ。剣と支部名、というのは分かりますわ。ですが……」

「冒険者ギルドって言われると想像するのは、武器を持って魔物と闘う冒険者ーーだと思うんだけど。実は考古学やら遺跡調査を専門としてる冒険者も少なくないんだよ」

「へぇ……だから、古書と採掘で使うピッケルなんですの?」

「そういうこと! で……翼が生えた靴は『我ら冒険者は何にも縛られない。どこにでも行ける』って意味があるんだよ」


 レインの言う通り、冒険者ギルドは独立組織であり、どこの国にも所属していない。

 そして、彼らは未知を求めてどこへだって旅立って行く。翼が生えた靴ーーそのマークは確かに、冒険者に相応しいと言えるかもしれなかった。


「納得しましたわ」

「そうか? なら、早速ギルド内へご案内だ」


 ーーギィィイ……。

 レインが扉を開け、少しだけ悪巫山戯するような笑顔を浮かべながら「どうぞ?」と促される。ソフィアは初めて足を踏み入れる冒険者ギルドに、少し緊張しながら……そっと中へ入った。


(ここが、冒険者ギルド……)


 四ヶ所の受付カウンターに、依頼らしき紙が貼り付けられた掲示板。丸い木のテーブルが設置された酒場も併設されている。

 まだ早朝だからか人は少ないが……もう少し経てば街並みと同じようにここも賑やかになるのだろう。

 レインはキョロキョロと周りを見渡すソフィアの手を引いて、唯一開いているカウンターに近づく。どうやら人が少ないから、他の受付は閉じているらしい。

 レインは「すみませーん」と受付内に声をかける。

 すると、「はーい」と奥の方から冒険者ギルドの制服を着た茶髪の美女が慌ててカウンター席に座った。


「お待たせしました。おはようございます、冒険者ギルド・パート支部の受付カナが担当致します」

「Sランク冒険者のレインだ。所在報告と、ついでにこの子の冒険者登録をしに来た」

「!?」


 冒険者タグを受け取った受付嬢カナは、驚いた顔でレインを見る。

 そして、頬を赤く染めながら……猫撫で声を出した。


「きゃぁあ〜! あのSランクソロ冒険者のレイン様ですか〜? お会い出来て光栄ですぅ〜」

「そりゃどうも」

「握手していただいてもぉ〜?」


 ーーにっこり。

 カナはそれはそれは、とても綺麗な笑顔を浮かべる。

 しかし、同じ女であるソフィアは目の前にいる受付嬢の本質を目敏く察知していた。


(これは……女狐の気配がしますわ)


 はっきり言って、カナの目は獲物を見つけた獣宛らだ。どうやらかなりの肉食女子らしい。

 Sランク冒険者との仲を深められたら、玉の輿以外の何物でもないからか……その目が〝逃がさない〟と物語っている。

 しかし、それに気づかないレインは「いいよ」と笑顔を返すと、その手を軽く握り返した。

 その瞬間ーー〝キラーンッ〟と受付嬢の目が光ったのを、ソフィアは見逃さなかった。


「きゃ〜! カナ、嬉しい〜! ありがとうございます〜♡」

「いえいえ。どう致しまして。じゃあ、早速仕事をお願いしていいか?」

「えぇ〜! もうちょっーー」


 ーーするりっ。


「!?」


 離さないようにがっしりと手を握り込んでいたはずのカナは、一瞬で手を離されてギョッとした顔をする。

 やっぱりそれに気づかないレインは、彼の顔と手を交互に見る受付嬢を無視スルーして……なんとも言えない顔をしているソフィアの肩を優しく掴んだ。


「彼女の冒険者登録してくれる? 一緒に、依頼を受けたいんだよね」

「……………」

「…………ん? 黙り込んで、どうかした?」


 不思議そうに首を傾げるレインは、どうやら本気でそう言ってるらしい。

 ピシッと一瞬だけ固まったカナであったが……直ぐに「畏まりましたぁ〜」と答える。

 けれど、受付嬢の目は〝お前の所為でぇぇ〜……!〟と憎々しげにソフィアを見ていた。


(早速、レインの所為で女性関係に巻き込まれましたわ! 嫌な予感が当たるのが早過ぎますわよ!!)


 ソフィアは今までの教育で培った笑顔の仮面を貼りつけながら、心の中で叫ぶ。

 いや、まさかこんなにも早く女性関連で困らされることになるとは……これから先もレインといる以上、これは予想よりも遥かに強い覚悟があるかもしれない、とこれから先を思って憂鬱な気分になった。


「それでは〜……こちらの書類に記載をお願いしま〜す。書けないところは書かなくていいですよぉ……冒険者は犯罪さえ犯してなければ誰でもなれる職なのでぇ」

「えぇ」

「代筆は必要ですかぁ?」

「書けますわ」

「………そう、ですかぁ。では、よろしくお願いしま〜す」


 カナから渡された書類を受け取り、ソフィアは書けるところを記入していく。

 もう身分は捨てたようなモノだから、名前の欄に姓は書かなかった。

 得意な武器は……ない。武器を使うとソフィアの力に耐えきれなくて壊れてしまうからだ。得意な属性は火属性。

 特技とスキルの欄はーー……。


「あ。一応、特技の方は徒手拳闘って書いて、スキル欄は書かなくていいと思う。スキルを隠したいって人は少なくないし。()()ないとは思うけど……あんまり書いて情報流出なんてさせられたら笑えないからさ」

「えっ」

「!」


 ーーピシリッ!!

 レインのあまりの言いように、笑顔のまま固まるカナ。

 流石のソフィアも〝それはないでしょう……〟と思い、険しい顔で隣に立つ彼に声をかけた。


「レイン……流石にそれは……冒険者ギルドを信用していないと言っているようなモノでは……」

「え? あぁ……ごめん。昔、他のSランクに脅されたギルド職員が俺を含めたSランク達のスキル情報を流出させちゃってさ? その脅したSランクが求めてたスキルを俺が偶々持ってたから、しつこく付き纏われたことがあったんだよ。だから……つい」

(まさかの経験談!?)


 ーーピシピシッ!!

 心の中で驚くソフィアに反して、カナはさっきよりも硬直する。

 そして、冒険者ギルドの受付嬢はスススッ……と頭を下げた。


「………ギルド職員が、大変ご迷惑を、おかけしましたぁ……」

「え? あぁ……大丈夫、大丈夫。Sランク(戦略級兵器)に脅されて逆らえる奴なんていないだろうし。まぁ、とにかくスキル欄は書かない方がいいと思うぜ」

「そ、そうしますわ……」


 記入を終えたソフィアは、ぎこちない笑顔で固まるカナに書類を渡す。

 それを確認したレインは、「それじゃあ」と口を開いた。


「特例を行使する。Bランクからの登録で頼む」

「! か、畏まりましたぁ……それでは、ソフィアさんはこちらに手を翳してくださ〜い……」


 カウンター下から出された水色の球体。それは、犯罪歴を調べることが出来る魔道具だった。普通であれば滅多に見ることが出来ない高級品だ。

 しかし、貴族令嬢として魔道具の知識に精通していたソフィアはそれに動じることなく、素直に手を翳した。

 勿論、球体は犯罪歴のない青色の反応を示していた。


「……犯罪歴はありませんねぇ……それでは、併設されている酒場の席にでもお掛けになって、暫くお待ちくださ〜い」


 ちょっとだけ悔しそうな顔をした受付嬢は、苛々した様子で奥へと消えて行く。

 言われた通りに酒場の席に座ったソフィアは〝あの女、逆恨みし過ぎですわ……〟と心の中で溜息を零しつつ、向かいに座ったレインに気になっていたことを質問した。


「レイン、特例ってなんですの?」

「ん? あぁ……簡単に言っちゃえば推薦だよ。冒険者って始めはFランクから始まるんだけど、Aランクの推薦があれなCランクから。Sランクの推薦があれば、Bランクから始められるんだ」


 冒険者ギルドにおけるランクとは、冒険者の技量を示すものであり……冒険者達が自分の力量を把握するための指標である。

 Fランクは初心者、Dランクは半人前、Cランクになってやっと、スタート地点とも言える一人前扱いになる。ここまではある程度順調に上がる。

 しかし、中堅扱いとなるBランクや一流とされるAランクになると、話は別だ。この二つのランクは、冒険者の半分ほどしか辿り着けないと言われている。

 Sランクなんて殆ど辿り着けやしない。まぁ……戦略級、災害級なんて呼ばれる異常者達(ヤバい奴ら)しかいないのだから、当然かもしれないが。


駄女神サバイバル(俺と同じ経験)を積んでるソフィアなら、本当は俺と同じぐらいの強さだと思うんだけど……生憎と俺の推薦じゃBまでしか上げられない。でも、Cランク以上であれば護衛依頼も受けれるから……問題ないとは思うんだ」

「…………ですが……下手に高いランクから始まってしまったら、目をつけられるのでは?」

「ソフィアの技量で低ランクにいられる方が迷惑だから、それはないと思う」

「えっ」


 はっきりと告げられた言葉に、ソフィアは驚く。

 しかし、レインの顔はかなり真剣なモノで、本気でそう言っているのだと理解出来た。


「上位ランクが下の依頼を受けるのは出来るけど……基本は、自分のランクから一つ上までの依頼しか受けられない。ソフィアが低ランクから始まるとしても、ソフィア自身の技量はSランク級なんだから……同じ依頼でも君と他の冒険者達の〝出来〟に差が出てしまう」

「…………あぁ……そういうことですのね?」


 例えば、〝村の近くの森に住んでしまったコバルトを五匹討伐して欲しい〟という依頼がとある村から出されたとしよう。

 ソフィアの技量であれば力技で解決出来るため、半日も経たずに依頼を終えることが出来るだろう。

 しかし、他の冒険者は違う。まず、どこに森のどこに魔物が生息しているかを索敵しなくてはいけないし……取り逃さないようにするために作戦や罠なども考えなくてはならない。それからの討伐だ。少なくとも半日以上は確実にかかる。

 そうなれば……依頼を出した村は〝何故、あの冒険者はあんなにも早く依頼を終えたのに、この冒険者達はこんなにも時間がかかるのだろう?〟と考えるはずだ。

 そして、それ以降の同じ依頼は、全てがソフィア基準の出来を求めるようになってしまうだろう。


「依頼って、冒険者の出来が良いと頑張ってくれてありがとうって感じで、依頼者が追加報酬を出してくれることがあるんだよ。ソフィアなら確実に貰えるだろうな。でも、ソフィア以降の冒険者は多分、誰も貰えなくなると思う」

「………それも、わたくしの出来が基準になってしまうから?」

「そう。それに……Cランクまでの奴らはまだまだひよっこばかりなんだ。〝同じランクのソフィアに出来たのなら、俺達も出来るはず!〟なんて考えて、無茶な依頼の受け方をしたりするかもしれない。経験を積んだBランク以上なら、自分のペースを崩すことはないだろうけど……それ以下は駄目だ。だからこそ、実力があるのにランクは低いなんて奴らの所為で他の冒険者達を潰してしまわないために、目利きが出来る上位冒険者による特例制度が作られたんだよ」

「結構考えられているのですね……」

「まぁ、全ては〝自由だからこその責任〟ってヤツらしいぞ? 独立組織でありながら、色んな国から優遇されてるからな。まぁ、その分貢献してるところも多いけど……色々と含めて、〝冒険者だからこそ、モラルのある行動をしましょう。命をかける仕事でもあるので、きちんと自分の力量を見極め、無駄に命を散らすようなことをしないようにしましょう〟って感じらしい」


 今まで縁がなかった冒険者ギルドではあるが、それなりにしっかりとした組織運営をしているらしい。他の貴族達とは違い、冒険者を下には見ていなかったソフィアではあるが……それでも冒険者ギルドの説明は感心するモノが多かった。

 そんな風にレインからギルドの話を聞いていると……カウンターから「レイン様〜、ソフィアさん〜」と声をかけられる。

 レインだけ〝様〟付けをしていることに若干の悪意を感じたが、ソフィアはそれを顔に出さずに彼と共にカウンターに向かった。


「お待たせしましたぁ。こちらが、冒険者登録の証明代わりのタグですぅ。失くしたら再発行にお金がかかりますので覚えておいてくださ〜い」

「分かりましたわ」

「冒険者ギルドの説明はいりますかぁ」

「それは俺がするからいいよ。ありがとう、お疲れ様」

「! いえいえ! それではーー」

「じゃあ、ソフィア。早速依頼を見ようぜ」


 タグを受け取ったソフィアは、ピシッと固まったカナに気づかずに依頼板の方に歩き出したレインの後ろ姿を見つめる。


「「…………」」


 どうやら彼の頭の中はもう既に依頼でいっぱいになっているらしい。

 理不尽にも、ソフィアに向かって怒りの視線が向けられる。


(本当に女難これだけは……なんとかして欲しいですわ、本気で)

「ソフィア? 早くこっち!」


 ソフィアはタグを首にかけながら、溜息を零す。





 そして、未だに向けられる受付嬢の視線を無視して……楽しげに手招きするレインの方に、足を進めるのだった。










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