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※悪役令嬢と転生冒険者は駄女神サバイバルの経験者です。

 







 レスション王国の王都から南に位置する街パード。




 パードの駐在兵ーー本日の門警備と通行手続きを担当することになっていた兵士二人は、朝五時になると同時にゆっくりと門を開け放った。

 まずは、門の外に出て周辺の警戒。不審者はいないが、どうやら前日の閉門に間に合わなかったらしい冒険者パーティーがいる。

 兵士達はテントの前で見張りを行なっていた槍を持った青年スートへと声をかけた。


「開いたぞ。入るか?」

「……あぁ、勿論だ」


 スートは側に寝ていたもう一人の青年を軽く蹴り起こし、テントの中にいるであろう仲間にも声をかける。

 その時、もう一人の兵士が「うわっ!?」と驚いた声をあげた。


「っ!? どうしたっ!!」

「あ、すまん……! 壁際で寝てる奴らがいてな……気づかなかったから、ビビった」

「驚かすなよ。魔物かと思っただろ」


 スートに声をかけていた兵士は、相棒の側による。

 そこにいたのは壁を背にして眠る青い髪の青年と……その青年の膝の上に収まった黒髪の美少女。

 あまりにも場違いな美形カップルに、兵士達は思わず「眩しっ!?」と大声を出してしまったが……すよすよと眠る二人を見て、その顔は徐々に呆れに変わっていった。

 しかし、彼らがそんな反応をするのは、仕方のないことであった。

 例え、街の外壁近くで行う野営であれどーー野営をした者の荷物を狙った窃盗が起きない訳ではない。

 それどころか、魔物が近づいてくることだってあり得る。魔物はダンジョンだけに生息する訳ではないのだ。

 街の近くの魔物が定期的に間引かれていたとしても、完璧なんてない。()()()を想定するのが普通だ。

 ゆえに、見張りもなく寝てしまったのは明らかに愚か者がする行動なのだが……兵士達は、この二人はもう一方の冒険者パーティーが見張りをしているのに便乗(寄生)して寝てしまったのだろうと考えた。


「こういう奴、いるんだよなぁ……」

「冒険者なら他のパーティーの見張りに寄生しないで、ちゃんとしろよな」


 門が開いたのにここに寝たままでいられては困ると、兵士の片方が今だに眠る二人を起こそうと近づく。

 仲間を起こしていたスートは、それに気づきハッとする。そして、大慌てで「駄目だっ!!」と声をかけたのだがーー。



 ーージャキンッ!!


 ーーパァンッ!!



 その時には既に、手遅れであった。



「……間に合わなかったか……」

「……ふぉっ!? 何!? 何が起きてんの!?」

「…………あぁ……なんとなく察しました……」

「わたくしも」


 スートは想像していた通りの展開に呆れ顔になり……目が覚めたらしいブレイドは慌て、テントから出て来た二人はなんとなく状況を察する。


「「…………」」


 肩を揺すろうとして中途半端に手を上げたまま固まる兵士の顔面スレスレまでに迫った(破裂音付きの)拳と、首に添えられた剣先。

 威圧を放つソフィアとレインは、顔面蒼白な兵士達を睥睨へいげいする。

 そのまま沈黙が数十秒流れて。剣を向けられた兵士の頬から汗が溢れる。

 すると……二人は剣呑な空気を一瞬で引っ込めて、にっこりと微笑んだ。


「あー……その、すまん。急に間合いに入って来たから、反応しちまった」

「驚かせてごめんなさいね。でも、許可なく触れようとした貴方も悪いわ」

「それは思った」


 レインはするりっと剣を収め、ソフィアも拳を下ろす。緊張の糸が切れた兵士はその場に崩れ落ちる。

 そんな彼の姿を見たレインは、申し訳なくも思いつつもきちんと忠告することも忘れなかった。


「悪気もなく、ただただ起こそうとしただけなんだろうけどさ? 敵意がなかったから寸止めできたけど、俺の知り合いだと触ろうとしただけで半殺しにする奴とかいるから……今度からは声をかける程度で止めといた方が良いと思うぜ?」


 彼の、口元は笑っているのに笑っていない琥珀色の瞳に射抜かれた兵士はコクコクコクッ!! と顔が外れんばかりに勢いよく頷く。

 どうやら(本人的には)優しめの対応をしたソフィア達の行動が相当、恐かったらしい。

 その反応に満足したレインは、ソフィアの腰を抱きながら立ち上がると……毛布をマジックバックにしまって、兵士達に声をかけた。


「……取り敢えず、中、入って良い感じ? あ、これ冒険者タグね」


 街に入る時には基本的に税金を払うことになっているのだが……冒険者に限り、それに当て嵌まらない。それは、独立組織である冒険者ギルドに所属する冒険者が、魔物を討伐することで国の治安維持に貢献しているからだった。つまり、入門税を免除するのは一種の特許のようなモノである。

 ちなみにーー冒険者ギルドから発行される所属証明のタグは、身分証代わりにもなるため、肌身離さず待っていることが推奨されていた。


「は、拝見致します……」


 崩れ落ちていない方の兵士がタグを受け取る。

 兵士は若干ぎこちない動きでタグに書かれている名前とランクを確認して……ギョッとした顔でレインとタグを交互に見た。


「っっ!?!?」


 冒険者ギルドの頂点。国次第では、貴族相当の地位を有すると言われるSランク冒険者。

 それもーーSランクの中でただ一人、ソロプレイをしている《双刃雨》。

 兵士はSランク冒険者という存在に動揺して、固まってしまう。レインはそんな彼の様子を見て、肩を竦めた。


「うんうん。Sランクって驚くよな。そんな反応になるわな。でも、仕事を優先してくれ?」

「レイン。申し訳ないのですが……わたくしの分の税を払ってくださいます? 後ほど、お返ししますから」

「ん? あぁ……別にこれぐらい俺が払っても構わないけど?」

「あまりご迷惑をおかけしたくないので」

「全然、迷惑じゃないけど……まぁ、ソフィアの気が済まないって言うなら、それで良いよ。という訳で、これ、彼女の分ね」


 レインはバックパックからお金を取り出すと、兵士に渡す。

 兵士はアワアワと手を震わせながらお金を受け取り、慌ててタグを返却した。


「じゃあ、もう街に入って良い?」

「ハッ……! し、失礼しましたっ……! ど、どうぞっ、お入りくださいっ……!!」


 それを聞いた二人は、ブレイド達に軽く声をかけてから街の中へと入って行く。

 残されたのは今だに座り込んだままの兵士と呆然とした兵士。そして、《シャインブレイド》のメンバーのみ。

 取り敢えず……この中で一番冷静なスートは、兵士達に声をかけることにした。


「……兵士殿。大丈夫か?」

「あ、あぁ……」

「ならば良かった。だが……ディアーナ」

「はいはい。精神異常回復の魔法をかけておくわ。仕事中は無理だろうけど、仕事の後はゆっくりしときなさいね?」


 いつの間にか杖を構えていたディアーナは、兵士二人に精神異常回復の魔法をかける。その魔法は混乱や恐慌状態を治めるだけでなく、精神を安定させる効果もある。

 顔色が悪かった兵士達は魔法のお陰で、だいぶ顔色が良くなる。もう大丈夫だろうと判断したスートは、しゃがんでいた兵士に手を貸して立たせた。


「だが、レイン殿がおっしゃっていたことは、事実だろう。Sランク冒険者は()()()()が多いと言う。お二人も今後は気をつけた方が良いと、烏滸がましいながらも忠告させていただく」

「………そう、だな……気をつけるわ……」

「…………あぁ……おれも……」


 兵士達は素直にそれに頷き、勤務時の定位置ーー門の外に立つ。なんだかんだとあったが、もう大丈夫だろう。

 二人は野営の片付けをしていたブレイドとニコラの方へと戻った。


「お疲れ様。スート、ディアーナ」

「あぁ。レイン殿は随分と大きな置き土産をしていったものだ」

「えっと……どういうこと?」


 ブレイドがキョトンと首を傾げる。どうやら寝惚けていたため、状況をあまり理解できていなかったらしい。

 ニコラは溜息を零す。そして、軽くさっき起きたことを説明した。


「さっき、あの兵士達はレインさん達を起こそうとしました。でも、それって勝手に間合いに入るってことでしょう? だから、あの二人は()()反応しちゃって攻撃しかけたって訳です」

「……そうだ。見張り番をしている時に観察してみたが……確かに寝ている気配がしていても、ピリピリと肌がヒリつくような緊張感を覚えた。Sランクにでもなると、寝ていても警戒が出来るものなのだろうな。流石としか言いようがない。どれほど修練を積めば、それほどの高みに至れるのか……」

「それぐらいできないと、ソロプレイで活動できないのでしょうね〜。今回の出会いは、良い出会いになったわね。Sランクという高みの片鱗を、見ることができたんだから」

「成る程〜。流石《双刃雨》のレインさんだね! オレらもレインさんみたいになれるように、頑張ろう!」


 ブレイド達はSランクへの憧れを胸に、決意を新たにする。

 ……。

 …………。

 Sランク冒険者だから、寝てても警戒(そんなことが)できると思っているようだが……他のSランク冒険者が同じことをできるかと聞かれたら、微妙である。

 常在型の召喚魔法ーー使い魔を召喚し、警戒させるーーや、持続型の探索魔法を使えないと同じようなことはできないだろう。

 ………だというのに、二人がそんなことをできてしまったのは……まぁ……駄女神サバイバルの影響というか……うん。ぶっちゃけ、それしかないのだが。





 図らずともソフィアとレインは……Sランクという存在が遥か高みにあるのだと、無駄にハードルを上げてしまったのであった。









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