またまた余話。ふわふわ女王陛下は、女傑様。
「それで? わたくしの騎士は何を隠しているのかしら?」
Sランク冒険者緊急会議前日ーー。
午後の休憩を取るアマーレ王国女王ハンナ・エンヴェージュ・アマーレの護衛を務めていたシルビアは、その言葉に思わず頬を引き攣らせてしまいそうになった。
「…………おや。一体なんのことでしょう?」
「あらあら。わたくしに隠し事ができると思って?」
ーーにっこり。
女王ハンナは春の日差しのように、柔らかく笑う。
ふわふわとした薄金色の長髪に、全てを見通しそうなほどに透き通った群青色の瞳。可愛らしい顔立ちと常日頃朗らかな笑みを浮かべていることから《妖精女王》と渾名されて親しまれている人ではあるが……その外見に騙されて、侮ってはいけない。
彼女は鋭い観察眼と、知略に長けた頭脳。更にその可愛らしさを最大限に使い、周辺列強国の国王達と対等に渡り合ってきた女傑である。
ゆえに、幼馴染でもあるシルビアの隠し事なんて……付き合いが長いからこそ、容易く見抜かれる訳で。
それでも彼女は。
「……まぁ。貴女相手では隠し事なんてできないだろうね」
秘密を持ってはならない相手に、真実を明かそうとはしなかった。
「…………驚いたわ。分かっていて、わたくしの騎士は女王に隠すのね」
じっと、女王が見つめてくる。
国に、女王に忠誠を誓っている騎士として、隠し事なんて持っての他だ。それこそ、忠義に反する行為である。
しかし、それでもーーシルビアは打ち明けるという選択を選ばない。選べない。
シルビアはその場に跪き、恭しく胸に手を当てて頭を下げた。
「陛下」
「何かしら?」
「Sランク冒険者シルビア・アイスフィールドとしてお答えします。この隠し事は貴女にも……それ以外の何者にも伝えてはならないのだと。ワタシの冒険者としての勘がそう伝えているのですよ」
「…………あら」
女王は驚いたように目を見開き、手にしていた扇子で口元を隠しながら考え込む。
それは短い逡巡。けれど、即決即断が常である普段の女王では見られない長考。
数十秒足らずの沈黙。
先に沈黙を破ったのは女王ハンナ。彼女は〝仕方ないわね〟と言わんばかりに、肩を竦めて溜息を零した。
「……貴女の野生のかーーごほんっ。冒険者の勘は馬鹿に出来ないものね。分かりました。今回は大人しく引き下がりましょう」
「ありがとうございます、陛下。…………が。今、野生の勘とか言ったかい? ってか、ほぼ言ってたよね?」
「ほほほほっ。なんのことかしら?」
にっこり。
誤魔化すように女王ハンナは微笑むが、シルビアはジト目にならざるを得ない。
「けれど、あくまでも今は引くだけですから。教えられるようになったら速やかに報告なさいね、アイスフィールド卿」
「…………承知しました、我が女王陛下」
けれど、それでもやっぱり。この方はアマーレ王国の女王で。
抜け目ない一言に、シルビアは深々と頭を下げるのだった。
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