余話。対応力高めソフィアさん
「そーいやさ? ソフィア、よくアレクのこと簡単に受け入れたな?」
Sランク緊急会議が開くまでの一週間。色ボケエルフことアレクセイ(以下略)の惚気を沢山聞かされた翌日ーー。
長らく放置された依頼(値段が安くて受ける人がいなかった。別名・塩漬け依頼)を暇潰しに受けた二人。
老婆の庭の草むしりに精を出していたソフィアーー初体験ゆえに地味に集中してしまっていたーーは、隣にしゃがんでぷちぷちと匠の技で草むしりをするレインからそう声をかけられた。
「簡単に受け入れた、とは?」
「そのまんまの意味。ほら……俺は前世の記憶があるから同性愛とかまぁ、別にいんじゃね? って感じだけど。ソフィアの国は同性愛とかあんま許容的じゃなかっただろ」
「あぁ……そうですわね。確かに」
ソフィアの国は異性間の恋愛が普通であり、同性間の恋愛は異端だ。
エルフの秘法によって同性間でも子が成しえる時代となったが、それでも本来同性同士では子を成すことができない。自然の摂理に反するゆえに、忌避されている。
人間の国ほど同性愛を認めていない国が多いだろう。
しかしーー……。
「…………わたくしの受けた、駄女神強制転移ダンジョンアタックは」
(長ぇな、名称)
「人がいないダンジョンに転移させられた訳ではなかったのです」
「…………おっとぉ?」
「偶然居合わせた冒険者達が。逆にネグリジェ姿でダンジョンアタックするわたくしに、ドン引きしたり。驚いたり、心配してくださったりしたのです」
「…………」
レインは思った。そりゃ確かに心配するな、と。
というか……心配しないはずがない。
だってネグリジェだもの。防御力皆無だ。本気で。
「そんな経緯で……わたくしは様々な冒険者達と交流しあい、人種や文化の違いに触れ合ったのですわ」
「あっ、そこに行きつくんだ?」
「えぇ。わたくしを心配して地上に送ろうとしてくださったこともありますけれど……何故かわたくしはダンジョンから出ることができませんでしたから、結局ダンジョンアタックをクリアする他なく」
「oh……」
「時に本気でわたくしを保護して養子にしようとする方もいましたけれど、クリアすると直ぐにダンジョンから帰還させられてしまいましたから、再び出会うことも叶わず。なんだかんだで今日この日を迎えていますわ」
「成る程なぁ……」
ぷちぷち、ぷちぷち。
会話をしながらも草むしりをする手は止めない真面目な二人の間に沈黙が流れる。
そしてレインが何か思い出したかのように「あっ」と声をあげた。
「レイン?」
「いやよぉ〜……そーいやどっかのギルドにいった時、ダンジョンに迷い込んだ子がいなくなったんだとか騒いでる奴いたな〜って思って」
「……あら?」
「ぶっちゃけ俺も転移させられてたりしたからどこのギルドだったかは忘れたけど……内容的にソフィアのことっぽくね? と思ったり思わなかったり」
「ここは詳細を忘れないところでは?」
「無理無理。俺の記憶力はミジンコだぞ? なんせ親から言われてたことも忘れてたぐらいだかんな」
親から言われていたこととは、親の金を持って消えやがった従兄弟を見つけたら捕まえることである。
ソフィアは割と忘れてはいけないことを忘れたレインに、呆れ顔を向けた。
「まぁ、旅を続けていれば……いつかは会うこともあるだろ。会えた時にはそいつらに、無事でしたって伝えてやれば?」
「……そうですわね。わたくしのことで、きっと心配をかけてしまったでしょうから。いつか会えたその時に。生存の報告と、感謝を伝えなくてはいけませんわね」
「じゃあ、一応それも旅の目的に追加ってことで。はー……どんどんやることが増えてくな〜……」
駄女神にクレームを入れに行く旅路であるのに、気づいたらドンドン旅の目的が増えている。
けれど……ただ一つだけの理由よりも。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりしながら。色々な経験を積みながら旅する方がきっと……楽しいーーはず。
ソフィアは昔では考えられなかった今に。これから先の旅路に思いを馳せながら……微笑みを浮かべた。
「そうですわね。目的が沢山、増えていきますわ。けれど先走ると失敗しますから。一歩一歩、一つずつ、確実に達成していきましょう」
「おぅ。取り敢えずはーー……無駄口叩かずに草むしりから、だな。…………ばーさんの目線が恐ぇ……」
「…………」
チラリッと、庭の主人である老婆が日向ぼっこをしているバルコニーの方を見る。
ジッとこちらを見つめる視線。いや、見定めるような視線という方が適切な表現だろうか?
…………どうやら、無駄口叩いていないかと、監視しているらしい。
その圧が強めの視線に……ソフィアはひくりっと、頬を引き攣らせた。
「…………真面目にやりますわ」
「……だな」
例え元貴族&Sランク冒険者でも……酸いも甘いも吸い尽くした人生の先輩からの無言の圧には、勝てないのである。
その後ーーソフィアとレインは黙々と、それはもう本当に黙々と真面目に草むしりをするのであった。
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