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Sランク会議の招集命令と、たまには役に立つかもしれない駄女神の影響


流石にストックがなくなりました。

またチマチマ書いてくので、気長にお待ちください。


それでは、よろしくどうぞ( ・∇・)ノ

 






 《翡翠の賢者》アレクセイ・ジェイド・ウェヌ・エンティーヴェ(長いので以下略)は、Sランク冒険者ーー変わり者のエルフである。



 エルフという種族は閉鎖的……俗物的に言ってしまえば、引きこもり気質だ。

 社交性が一切ない、という訳ではないのだが……どのエルフも積極的に外の国に出ようとしない。自分達が生まれた国で一生を終える者が殆どだ。それに加えてエルフというモノ達は、長寿であるからか種族的な性質からなのか……何事においてもゆったりのほほ〜んと生きている。

 だというのに、アレクセイは違った。彼は幼い頃から人一倍好奇心が旺盛だった。

 彼だけはいつもちょこまかと走って、転んで、飛んで、調べて、挑戦して。好奇心が赴くまま、外の国ーー世界へと興味を抱き、その気持ちを抑えきれずにとうとう国の外へと飛び出すほどに、エルフらしくないエルフだった。色んなところを旅している内に……気づいた時にはSランク冒険者として名を馳せるようになっているのだから、どれほど普通じゃないかが分かるだろう。

 まぁ、だからといって何か問題がある訳でもないのだが。


 そんなアレクセイは、魔法を極めし先になれる職業ーー《賢者》であった。

 一般的な魔法使いは、初級であれば火・水・土・風の四大属性の魔法を使えるが……その先の中級以上は、自身が得意とする一属性の魔法しか使えない。

 しかし、アレクセイは世にも珍しく四大属性の超級まで使うことが出来た。特に風属性魔法を得意としている。

 そのため、一般的な魔法使いよりも遥かに速い移動が可能なアレクセイは、今回の緊急Sランク会議の招集命令を各地に散らばるSランク冒険者に伝える伝令役を請け負っていた。

 ※なお、冒険者なのでちゃんと依頼扱いになっている。

 流石にダンジョン内に潜っている時に見つけるのは無理があるが……この世界に偏在するエルフの友人ーー精霊の声を聞けば、どこに誰がいるかを知ることも出来る。

 アレクセイは人探しを得意とする風の精霊に協力してもらいながら、順調にSランク冒険者達に招集命令を伝えられた。だが…………そこで一つだけ、問題が起きた。



 ーーそう……《双刃雨》レインが、中々捕まらなかったのである。



 レインはどういう訳だが、あり得ない移動をすることがあった。大陸の東にいたかと思えば、二日後には西にいたりするのだ。隣り合った国同士の王都間を馬車で移動するのにも、平均的に一月(徒歩ならそれ以上)以上かかるのだ。その移動距離が異常なのは誰の目から見ても明らか。流石のアレクセイでもそんな移動は出来やしない。

 転移を使っているのかと問えば、それはないと答え。では、どうやっているのだと聞けば、事情があるのだと誤魔化される。

 好奇心が旺盛なアレクセイは、その秘密を知りたくて知りたくて仕方がないのだが……未だにのらりくらりとかわされて、聞けていない。

 そんなレインの謎かつ特殊過ぎる移動が、彼を捕まえることを妨害していた。

 しかし……。


『アレクセーイ! 君が言ってたレインって子、変な移動しなくなったよー!』


 レインを探していた最中、ふわりふわりと緑色の光を放つ風の精霊が唐突にそう告げた。

 レインのあの変な長距離移動がなくなり、時々気配は消えるが、それでも比較的普通に移動(でも、アレクセイ並の速さの時もある)するようになったと。

 驚きのあまりというか、またいつ変な長距離移動するか分からないと恐れたというか。このチャンスを逃がすものか少し急ぎ過ぎて……途中、魔力がすっからかんになって力尽きて倒れたけど。

 倒れていたところでレインに遭遇したのに、なんでか悲鳴をあげられながら逃げられたけど!


 なんだかんだで、アレクセイはやっとこさレインに追いつくことが出来……。



 その結果ーー。


 王都でもないただの支部ギルドに、Sランク冒険者関係者が一同に会するという珍事態が起きたのであった。





 *****





「やぁ、初めまして! 僕、アレクセイ! 《翡翠の賢者》って呼ばれてるよ! よろしくね!」




 新たなSランクの登場と、レインがSランクだと知って呆然とする周りの人達を無視して……アレクセイは元気よく挨拶してくる。

 さっきのサ◯子の印象が強くて最初はかな〜り警戒していたが……実際に話してみると滅茶苦茶に警戒しなくてはいけないような相手ではなかったらしい。

 それでも少しビクビクしながら、ソフィアも挨拶を返した。


「は、初めまして。レインの相棒兼妻のソフィアですわ。よろしくお願いいたします」

「そっかー! レイン君の相棒兼妻のソフィア君かー! って……妻ぁ!? レイン君、いつ結婚したの!? おめでとうー! ご祝儀、後であげるねー!?」

「おー。ありがとな」

「あ、ありがとうございます……」


 ニコニコーッと笑いながら、お祝いされて、二人してお礼をする。

 徐々にのほほ〜んっとし始めた空気に、エロイーズがちょちょいっと声を挟んだ。


「アレクちゃん、アレクちゃん。お祝いも大事だけど、大事なこと忘れてるんじゃなぁい?」

「…………あっ、そーだった! ありがとね、エロイーズ君! とゆー訳で、レインくーんっ! 招集状だよー! ついでに受取書にサインもよろしくー!」

「あ、うん」


 アレクセイから渡された高級そうな封筒を渡されたレインは、差し出された受取書にサインを書いてから、その場で封筒を開いて内容を確認する。

 そこに書かれていたのは、少し話に出ていた隣国ーー女王制の国アマーレにて、緊急のSランク冒険者会議を開くという旨。会議目的はこれまた丁度話していた……魔物の活性化及び魔王の動向についてと書かれていた。開催日は、丁度一週間後。

 明らかに今からじゃ間に合わない距離であることに、レインは頭を悩ませた。


「てか、普通にこの日にゃ間に合わなくないか? 流石のアレクでも、一週間でこっからアマーレまでって無理があんだろ」

「え? そこはエロイーズ君に頼むつもりだったけど?」

「…………ん?」

「あれー? 忘れちゃったの!? エロイーズ君は転移スキル持ちでしょ!」


 そう言われてレインは「あぁ〜」と納得した。

 エロイーズはスキルとしての転移能力を有している。魔力を消費して転移を行うため、魔法と同じように思われるが……決定的に違うのは、エロイーズ本人に空間属性の適性がないことだ。

 転移魔法は特殊属性である空間属性の適性がないと使えない。

 けれど、スキルでの転移能力であるため、エロイーズは転移のみ使用することが出来る。

 つまり……彼女の能力に頼れば、余裕で間に合うということであった。


「とゆー訳でエロイーズ君、よろしくね!」

「……事前に根回しすることもなく、いきなり頼んできたわねぇ〜?? ま、イイけど。流石に今回ばかりは間に合わないと事が事だものね! でも、自分以外のモノを転移させるのは疲れるんだから、後で貢ぎ物忘れんじゃないわよぉ!」

「はーい!」

「あっ、ソフィアも一緒に転移よろしく」

「えっ。わたくしもですの!?」


 Sランク冒険者の会議と聞かされれば、〝Bランク冒険者である自分は参加出来ないだろうから帰ってくるまで留守番かしら……?〟と思ってたソフィアは、急にそう言われて驚く。

 レインは〝何を当たり前なことを〟と言わんばかりの顔で、彼女に招集状を見せた。


「ここにパーティーメンバーも一名のみだったら同伴可って書いてあんだろ。俺の仲間はお前だけなんだから、強制参加だよ、ソフィアさん」

「えぇぇぇ……? わたくし、お留守番が良いでーー」

「ハニー? 旅は道連れって言うだろ? 逃がさねぇからな?」


 ーーにっこり。

 目が笑ってない笑顔でそう言われてしまえば、ソフィアは逃げられないことを悟る。

 ソフィアは嫌々、本当に嫌々と、小さく頷いた。


「うんうん、これで全員に伝え終わったよ! はぁ〜疲れた! エロイーズ君、依頼達成だよー! 手続きお願いねー!」

「はいはい。お疲れ様ぁ〜」


 どうやらこの伝令役も依頼クエストであったらしい。

 アレクセイは依頼の達成手続きを行い、やっと安堵したように力を抜く。

 その姿に流石のレインも、労わりの言葉をかけていた。


「お疲れさん、アレク」

「もー、本当にね! レイン君は他の人と違って、いきなり大陸の端から端まで移動したりするから、全然捕まえらんなかったんだから! 苦労させたんだから、どーやってるか長距離移動してるか教えてくれてもいいよ!?!?」

「あー……悪い。無理」

「やっば無理かー! また日を改めて聞くねー!」

「そうしてくれ〜」


 相変わらず好奇心旺盛だな、と思いつつも駄女神に強制転移させられていたとは言えない(言ったら面倒くさい)のでテキトーにかわすレイン。

 アレクセイはワザとらしくかわされたというのに、全然気にする様子もなくコロリッと話を変えた。


「あっ、そーだった! エロイーズ君!」

「なによぉ」

「ここだけの話〜! もしかしたらエロイーズ君みたいな引退したSランクAランクも、一時的に冒険者として強制復帰させるかもしれないってー!」

「…………えっ。それどこ情報よ」

「冒険者ギルド上層部からの情報ー! それぐらい危険な状況になってきてるみたーい!」

「ゲッ。それじゃあ信憑性が無駄に高いじゃない! やっだぁ〜……アタシ、昔みたいに戦えないわよぉ〜?」

「だよねー? 大丈夫ー?」

「だいじょばないわぁ〜……」


 口調は軽々しくても、かなり険しい顔になったエロイーズを見て、ソフィアはその〝戦えない理由〟というのが相当深刻なのだと察する。

 チラリッと隣のレインを見ると、それに気づいた彼はコソッと耳打ちをしてくれた。


「昔ーー結果な数のSランク冒険者達で、グラトニーキングスライムっていう、討伐危険度Sのスライムの超変異種と戦ったんだ。その時に姐さんは下半身を持ってかれてな。一緒に戦ってた《戦場いくさば聖女おとめ》の治療で命は助かったんだけど、両脚までは助からなくてよ。だから、今の姐さんの両脚は義足で……」

「…………あぁ、確かに。義足で冒険者を続けるには、無理がありますわよね」

「そーゆーこと」


 冒険者にとって身体は資本だ。

 義足となってしまえば、思うように動けなくなる。思うように動けなければ、それが命取りになる。

 だから、エロイーズは冒険者を引退せざるを得なかったのだろう。

 そこでふと、ソフィアは思い出す。自分の、魔法のことを。

 ソフィアはコソコソッと耳打ちを返した。


「…………あの、レイン?」

「なんさ」

「……わたくし、貴方の手、生やしましたわよね?」

「…………あっ」

「もしかしてですけど……もしかするかもしれませんわよ……?」

「………………」


 思い返すのは、故意に《魔力閉塞症》を引き起こして手を腐り落とした時のこと。

 あの時、確かにソフィアは腐り落ちたレインの手を生えさせていた。

 それはつまり、足を無くしたエロイーズに対しても同じことが出来るかもしれないということ。

 レインは数秒間考え込んでから、ソフィアに問うた。


「…………ソフィアさん。治せんの?」

「レイン、貴方がいるなら。わたくしを、抱き締めてくれますわよね?」

「…………あ〜……そーゆーことね」


 どういう仕組みなのかは未だによく分かっていないが……。

 ソフィアとレインが触れ合うと、体力・魔力の回復速度が上がったり、魔力の質が上がったり、魔力の操作が向上したりする。

 それを用いれば、エロイーズの足を生やすことも容易い。

 レインはウンッと頷くと、エロイーズに向かって声をかけた。


「姐さーんっ!」

「何よぉ〜! そんな大声出さなくても聞こえてるわ〜!」

「つかぬことを聞くけど、姐さんって冒険者に戻りたかったりする?」

「………………」


 ーーピタリッ。

 エロイーズの動きが不自然に止まる。そのまま黙り込むこと数秒。

 どうやら答えるまで引く気配がないレインを見て、彼女は素直にそれに応えた。


「そりゃあ……まぁ……ね。戻れたらっとは思うわよ。だって、Sランク会議が開催されるような状況だもの。これから先、強制招集とか……ありそうじゃない? そんな時、シルビィちゃんだけを危険な目に遭うのは……ねぇ? 出来ることなら、一緒に戦いたいわよ。でも、こんな足じゃ無ーー」

「ソフィアさんがなんとかしてくるかもしれないんだけど、どーする?」

「………………はい?」

「だから……ソフィアと俺なら姐さんの足、なんとか出来るかもしれないんだって。どーしますか」


 ーーぽかーんっ。

 口を大きく開けた間抜け面になったエロイーズは、そのまま固まる。

 それから数十秒。彼女は動揺を隠せない、小さな声で、答えた。


「と……取り敢えず……シルビィちゃんと、要相談で……」

「畏まりましたわ」

「うぃーす」



 後にエロイーズは語る。


 聖女おとめちゃんでも出来ないことを出来るとか言うから、頭おかしくなったんじゃないかと思ってたけど……ある意味これが、Sランク冒険者の中でもヤバいコンビ扱いされるようになったのは、コレが最初だったかもしれないわねぇーーと。







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