出発前の一騒動〜レインのアウトな親戚事情を添えて〜
お久しぶりです。島田です。
去年ぶりの更新……。どの作品も亀の歩み更新で申し訳ありません……!
それでもお付き合いいただけると幸いです。
それでは、本年もよろしくどうぞm(_ _)m
【今までのあらすじ】
どうやら魔物の活動が活発になってんのは偽物魔王の所為で、本物の魔王様は冤罪らしいですよ。それどころか、宿屋をやってました。…………えっ、マジで?
魔王様に祝福されながら結婚して、旅の準備も終えまして。
鍛治師ガガからドワーフの国へのお手紙配達を頼まれたよ。
という訳で、出発しようとします。(←本話)
「待ってたぜ、レインさん!」
照れ隠しでブッ叩いて(叩かれて)、ギルドの壁に埋めたり(埋まったり)しながらも……。
アントンの宿でもう一泊して充分に英気を養い、念入りに準備をしてから出発した朝のこと。
街を出る門のところで、ソフィア達は(勝手に)鍛冶屋の受付をしていた青年ーーワズに声をかけられていた。
「ん? お前は……どうした? なんか伝え忘れたこととか、あったのか?」
レインは何も分からないと言わんばかりの態度を取りながら、首を傾げる。
本音を言うと、ソフィアもレインも嫌な予感がしていたのだ。
見るからに旅装束に身を包んでいるワズ。それに〝待っていた〟という言葉。
気づかないフリをして、誤魔化そうとしているのがよく分かったけれど……ソフィアも同じ気持ちだったので、敢えてレインと同じような反応をした。
しかし、空気が読めないのは当の本人の方だったようで。ワズは胸に手を当てながら、堂々と言い放った。
「おれも一緒に連れて行ってくれ! レインさん、Sランク冒険者なんだろ? なら、おれの師匠にぴったりだ!」
「「…………は?」」
ソフィア達は思わず真顔になる。
はっきり言って、意味が分からなかった。
だって、二人の記憶が確かならば……この男は鍛冶屋ので働いていたはずだ。それも、鍛治師の許可を得ずに住みついたようなカタチで。
だから、ガガに通すべき義理があるはずなのだ。彼のおかげで、仕事にありつけていたのだから。少なくとも昨日の今日で仕事を放り出して、自分達についてくるなんてあり得ないはずだ。
ほとんど接点がないような相手に。それも相手の許可を取ることもせずに〝弟子になろう〟としているなんて、しようとしないはずだ。
なのに、そんなあり得ない事態が起きている。それが意味することはーー……。
「…………」
スッと、レインの纏う空気が冷たくなる。
彼は昨日の時点で、目の前の青年の性格をだいだいは察していた。コイツはどうしようもない、自分本位な男だと。
ゆえに理解したのだ。この男がここにいるということは。
ーーガガへの恩を、仇で返したという意味だと……。
「…………仕事は。ガガのところで、働いてただろ」
「ん? あぁ、そんなの辞めてきたに決まってる!」
「………………ガガの、好意で、やらせてもらってんだろ?」
「でも、鍛冶屋なんかで留まるような男じゃないんだ、おれは! おれにはSランク冒険者になる方が合ってるだろ! だからーー」
ソフィアは思った。
こんなにもレインはブチギレているのに。なんでそれに気づかないのかと。
ぶっちゃけ隣を見るのが怖い。怖い、怖過ぎる……。
レインがいる場所だけ局所的な寒波が襲っているかのようだ。背後に猛吹雪が見える。
しかし、それも仕方ないこと。レインが一番嫌いなことは、〝恩を仇で返すこと〟である。要するにワズは思いっきりレインの地雷を踏み抜いている。
けれど、目の前にいる馬鹿は普通の馬鹿ではなかった。
ーーヤバい、馬鹿だった。
近寄ってきたワズから聞こえた音。
警戒心から身体強化を反射的に発動させていたレインは、ワズの身につけている鞄の中から聞こえた音の正体に気づき、大きく目を見開く。
そして、一瞬で間を詰めて勢いよくワズの頭を掴むと……。
ーードンッッ!! と容赦なく、その顔を地面に叩きつけて、足でワズの身体を押さえ付けた。
「ぎゃぁぁぁあっ!?」
「!? レイン!?」
「ソフィアッ、衛兵を呼べっ!!」
「え、衛兵!?」
「コイツ、ガガの店の金、盗んでるかもしれねぇ!」
「えぇっ!?!?」
ギョッとしたソフィアではあったが……盗難は犯罪だと我に返り、慌てて門のところに駆け寄って、門番詰所に控えていた衛兵を呼ぶ。
レインは駆け寄ってきた衛兵二人に自身がSランク冒険者であること、自身の身体能力が優れていること、取り押さえているワズの鞄から日常的に持つにはあり得ない量の金がぶつかる音を聞き取ったことを告げ……盗難の可能性を考慮し、逃がさぬように取り押さえたことを伝える。
ワズの鞄を漁った衛兵達は、レインが言った通りーー日常的に持つにはあり得ない量の金が入った袋を見つけ、目尻を吊り上げながら「この金はどういうことだっ!」と詰め寄った。
ワズは目を彷徨わせながら、動揺を露わにする。けれど、彼は往生際悪く、ブンブンと首を横に振った。
「こ、これは……おれの金だっ!」
「んな阿呆な。鍛冶屋の雑用が普通、こんなに金を持ってるかよ。ザッと半年以上は楽に暮らせる金額だぞ」
「持ってるかもしれないだろぉっ!? 言いがかり、だっ!」
「どーだか。お前、俺の幼馴染と同じ〝臭い〟がすんだよなぁ〜……。なぁ、衛兵の兄ちゃん。コイツ、ガガの鍛冶屋で働いてたらしいんだよ。一応、金が盗まれてねぇーか確認してきてくんね? ついでに応援もな。それまでは俺が取り押さえてるからよ」
「しょ、承知しました! 暫しお待ちを!」
駆け足でこの場を去る衛兵を見送り、レインはバックパックから紐を取り出してワズの両手の親指同士と、両足首をまとめてキツく縛る。レインの怪力で縛られたものだから、紐でもそう易々と抜け出せそうにない。
ついでに煩い口を封じるために、布切れをワズの口に突っ込む。更に駄目押しとばかりに身体の上に座り、暴れられないように押さえ込む。
そこまでしてレインは、疲れたような息を零す。そんな彼に、ソフィアは心底不思議そうな様子で声をかけた。
「レイン」
「ん? 何?」
「よくガガのお店から盗まれたお金かもしれないなんて、思いましたわね? 普通はそう思わないでしょう? どうして、そう思ったんですの?」
普通であれば、盗まれたお金だとは思わないだろう。
今までの貯金を全て引き落とした可能性だってあるはず。
なのに、レインは盗まれた金だと言った。どうして彼がそう思ったのかが分からなくて、ソフィアは首を傾げる。
するとレインは、「あー……」とボリボリ頭を掻きながら、苦笑を零した。
「まぁ、ほぼほぼ勘? でも、コイツから俺の従兄弟と同じ〝臭い〟がするってのが、一番の理由だなぁ」
「…………レインの、従兄弟?」
「そう。俺の従兄弟も同じ村に暮らしてたんだけど……『オレはこんな田舎に燻るような男じゃない!』とか言って、自分家の有り金を全部持って家出したクソ野郎に雰囲気似てんのよ、コイツ。だから、もしかしたらってな?」
「…………えぇぇ……」
しれっと暴露されたレインの親戚情報に、ソフィアは思わずドン引きする。勿論、ドン引いてるのは彼の従兄弟に対してだ。
レインは大きな溜息を零し、遠い目でどこかを見つめながら呟いた。
「ホント……クソ野郎なんだぜ、アイツ。冗談抜きで有り金全部持っていきやがったみたいで。アイツの親父さん達、その日の食うモンすらマトモに買えなくなったんだ。それ以前に……親父さんとお袋さんも、自分達の息子に金を盗られるされるとは思ってもなかったって、酷く憔悴しちまってな。あの時は二人で自殺しちまうんじゃないかって、村のみんなしてすっげぇー焦りまくってたわ」
「…………そ、それは相当だったのでは……? そのご夫婦は大丈夫でしたの……?」
「あぁ。流石に事情が事情だったからな。村の住民達で協力しあって、金を寄付したり。俺ん家で面倒みたりしてな。なんとか立ち直ってもらったぜ」
「…………そうですの……」
「あー……そういや。俺の親父にもし、その馬鹿従兄弟を見つけたら吊し上げて、村に連れ帰って来いって言われてたな……。すっかり忘れてた……。ソフィア。悪いんだけど、旅の目的にその馬鹿従兄弟を見つけた時は吊し上げて、故郷に強制連行ってのも追加していいか?」
ほんの少し申し訳なさそうに、そう聞いてくる彼に……ソフィアは呆れた。
そんなの、聞くまでもないことだったからだ。
「そんなの当然でしょう。もしその幼馴染さんを見つけましたら、わたくしも吊し上げに協力させて欲しいくらいですわ!」
「おぉ〜、有難い! ソフィアがいりゃあ百人力だな! でもまぁ……俺でも見つけられてねぇーんだからな。あくまでも見つけたらってことで」
「…………Sランク冒険者であるレインでも見つけられていない……? その従兄弟も、実はSランク冒険者みたいに凄い実力を持っているということなんですの? 隠れたり逃げたりするのが上手い、とか……」
「いや……多分、駄女神の強制転移で俺が脈絡もない場所に移動させられまくってるから……純粋にそれでカチ合えなくなってるだけだと思うわ……」
「…………oh……」
確かに強制的に、それもランダムで場所に移動させられていれば、目的の人物と出会う確率はグンッと下がる。
駄女神の影響がここにも出ていたか……と、ソフィアとレインはいつものように瞳を濁らせた。
「お、お待たせしました!」
そうこうしている内に衛兵が戻ってくる。
レインからワズの身柄を受け取った衛兵二人が彼を詰所本部へと連れて行き……若い衛兵を連れた貫禄のある厳つい衛兵が、レインに声をかけてきた。
「貴方が、Sランク冒険者のレイン様でしょうか?」
「あぁ、そうだ」
「わたしはこの街の衛兵長を務めているサウスといいます。事前にレイン様が言われていたよう、あの男は確かに鍛冶屋ガガの店の金を盗んでいたようです。貴方のおかげで金銭盗難の犯人を取り逃さずに済みました。ありがとうございました」
「いんや? 気にしなくていいぜ。ぶっちゃけ、ほぼ勘で動いてたかんな。いやぁ〜……予想が外れなくて良かったわ」
「か、勘……」
「あぁ、勘」
それを聞いた衛兵長サウスは、ピシリッと固まる。
まさか確証があった訳ではなく勘で動いていたなんて……間違ってたらどうするつもりだったんだ……と、思わずにはいられなかった。
まぁ、レインの勘はほぼほぼ外れることがないほどに当たるのだが。なんせ野生の勘(笑)なので。
それを知らぬ衛兵長は頬を引き攣らせながらも、恐る恐る口を開いた。
「えっと……と、とにかく。事情をお聞きしたいので、ご同行を願えますか?」
「エッ。俺ら、これから街を立とうと思ったんだけど」
「…………一応、当事者なので……」
「えぇ……?」
嫌そうな顔をするレインに、衛兵長の顔色が悪くなる。
それも当然だろう。相手は《歩く天災》ことSランク冒険者だ。機嫌を損ねたらどうなるか分からない。
しかし、関係者は例外なく事情聴取を行うのが規則になっている。
規則と忖度、その板挟みになった衛兵長は気を失いそうなぐらいに顔面蒼白だ。そんな彼を見たソフィアは憐れみを感じ、レインの腕を引いた。
「レイン。向こうもお仕事ですもの。困らせてはなりませんわ」
「でも、出発が遅れんぞ?」
「今回ばかりは不可抗力ですわよ。それに、わたくし達に出発の遅れが影響しまして?」
………。
レインは数秒、顎に手を添えて考え込む。
それからポンッと手の平に拳を乗せ、にぱーっと笑った。
「………………うん。考えてみりゃー影響なかったな! いいぜ、衛兵長。どこに行きゃぁいい?」
「えっ!? あっ、こちらへお願いします!?」
「おーう。行こうぜ、ソフィア」
「はいはい。分かってますわよ」
ーーそんなこんなで。
折角の出発当日は、まさかの事情聴取で挫かれるという結末を迎えたのであった。
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