実はテキトーだった鍛治師
お久しぶりです〜。生きてます〜。スランプ島田です〜。
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それでは〜今後ともよろしくどうぞ( ・∇・)ノ
ーーちゅん、ちゅんちゅん……。
「ふぁぁァ……」
鳥の鳴き声で目を覚ましたガガは、緩慢な動作で起き上がり、ベッドの上で胡座を掻く。寝ぼけ眼のまま頭を掻き、そのまま固まること数十秒。
そこでやっと、ガガは異様なほどに静かであることに気づいた。
「んァ……?」
ガガのキョトンとしながら、首を傾げる。
普段の彼は、騒音によって起こされる。その騒音は勿論、勝手に住み込むようになった居候が原因だ。
ワズは朝から毎日元気で、勝手に朝食を作ったり、勝手に掃除したりしている。そこら辺はまぁ生活音とも言えるから許容範囲と言えるだろう。
しかし、ワズは足音と独り言の声はとんでもなく煩い。ドタドタ、ギャーギャー、ドスドス……ぶっちゃけ、鍛治屋が多いーーつまり煩いーーこの区画だから周りから苦情が来ないだけで、普通の集合居住区だったらそりゃもう「出てけ!」と怒鳴られるぐらい煩いと思う。そんな傍迷惑な音で、ガガは毎朝起こされていた。
なのに、今日は異様に静かだ。不気味な程に音がしない。
「ンー……」
ガガは大きな欠伸を零しながらベッドから降りて、寝室を出る。寝室の先は直ぐにリビングだ。キッチンも付いている。だが、そこには人影ーーワズの姿がない。
ガガは眉間に僅かに皺を寄せながら、工房の方に足を進める。
「…………」
工房も静かなものだった。まだ炉に火を焚べていないから、篭るような熱気もない。
何も変わっていないーーように見せかけて、いつもと違う点が一つ。
「…………チッ」
ガガは工房を抜けて、店の方にも顔を出した。
会計台が置いてある棚の前に立ち、棚を開けて中の金庫を確認する。
「アイツ……全部持ってきやがったナ」
ガガは空っぽになった金庫の中身に、大きな溜息を零した。
ワズとは付き合いは今から約三年ほど前ーーガガの店の前で行き倒れていたのを拾った時のが始まりだ。
なんでも彼はド田舎な辺境の村出身らしく、若者らしく閉鎖的な風習に嫌気が差して、都会へと飛び出してきたという……まぁ、どこにでもありそうな経歴の持ち主だった。
田舎から出てきた若者は大体、冒険者になるのが通例だ。なんせ冒険者は犯罪歴がなければ誰でもなれる。
だが、ワズは冒険者にならなかった。いいや、なろうとしなかった。
ワズは自分に冒険者という野蛮な仕事は〝相応しくない〟と、そう考えていたのだ。
だが、だからと言って他の仕事が良い訳ではなかったらしい。ワズはこの仕事なら自分に相応しいと働き始めても、ちょっとでも不満や嫌なことが起こると直ぐに〝おれには相応しくない仕事だから辞めます!〟と言って仕事を辞め……この仕事なら〝おれに相応しい!〟とコロコロと仕事を変えていった。仕事を選り好みし続けた。
だが、そんなことをしていれば嫌でもワズの存在は有名になる。それも〝おれに相応しくない仕事だから〟なんて自己中心的な理由で辞めるような奴だ。情報は共有されて、どの職種でも雇おうとするところはなくなった。
そうした結果、行き倒れてしまったのだから……ワズという男の愚かさが窺える。
しかし、そんなワズを拾ってしまったのはどうしようもないぐらいのテキトー男……ガガだった。
ガガは本当に、テキトーだった。
勝手にワズが住み着いても許してしまったし、生意気な行動も許してしまった。ガガの仕事姿に憧れたのか〝おれには鍛治師が相応しい!〟とか馬鹿なことを抜かして、弟子を勝手に名乗っても……好きにさせていた。好きにさせてしまった。
それが余計にワズを助長させることになると分かっていても。そこまで面倒を見てやる義理はないからと。自分に被害がなかったから〝まぁ、いいか〟と放置した。面倒くさかったから放置したとも言う。
その結果がこれだ。
ーー持って行かれたのは一振りの剣と、店に置いてあった金全て。
「馬鹿野郎ガ……」
ガガはもういない、勝手に住み着いていた居候に向けて呆れたような溜息を零す。
殆どの金は鍛治師ギルドにある金庫に預けているから、取られた額は問題ではない。問題なのは……。
(アイツのことダ……どうせ、〝おれにはSランク冒険者の弟子が相応しい!〟とか言って、レイン達について行っちまってるんだろうナ……)
ガガは一昨日、レインとソフィアに指名依頼を出した。
ぶっちゃけ……Sランクに指名を出すような依頼ではないのだが……。元々、エルフかドワーフの国へ行かなくてはいけないのだからと、偶に発揮される善意から……両親に《この二人に《至高の鍛治師》を紹介してやってくれ》といった内容の手紙を届けるように頼んだのだ。
そのためーー昨日二人は、わざわざ家まで手紙を受け取りに来た。顔を真っ赤にしたソフィアと、彼女の後を追うように頭に木片をぶっ刺したまま現れたレインには多少……いや、かなりドン引きしたが。それでも無事に手紙を渡し、両親に届けてくれるように頼んだ。
その際、そこにはワズがいた。きっと聞き耳を立てていたのだろう。レイン達が今日の早朝、早速旅立つことも知っていた。だからこうして、行動を起こしたのだ。
ーーレイン達に……無理やりついて行くために。
「…………はァ」
ガガは工房を通って部屋へと戻る。リビングの壁際にあるシェルフラックに置かれた煙草を手に取り、マッチで火をつけて一服をする。
(…………分かってんのかねェ?)
ワズは自己中だ。自分のことしか考えていない。
自分がよければ、他人にどれだけ迷惑をかけても構わないと思っている。何をしても自分が全て正しいと、考えている。全てが許されると、思っている。
だから、こうして自分のために他人のモノを奪っていったのだ。きっとそれは……ワズが故郷の村を出た時にもしていたことなのだろう。
今回のコレは、奴が今までも沢山の恩を仇で返してきたのだと理解させられる一件だった。
(アイツ……自覚してないだろーガ。色んなヤツに相当怨まれてるだろーナ……)
自分のために他人を傷つけ続けていれば。他人に迷惑をかけ続けていれば。そんなことを繰り返していればワズは、いつかその報いを受けることになるだろう。
そしてその報いを受けさせるのは……レイン達だろうと、ガガには妙な実感があった。
(…………直ぐにアイツは……手痛いしっぺ返しをされるだろうナ。可哀想ニ)
テキトーハーフドワーフであるガガではあるが、ほんの少しだけ……塩一粒分程度には、同情してしまう。
だって、ワズが無理やりついて行ったのは、この世で数人しかいないSランク冒険者だ。〝Sランク冒険者は歩く災害〟だと言うのをきちんと理解していれば…… 無理やりなんか、無理やりでなくてもついて行こうとしないはず。Sランク冒険者に普通の常識など通じないのだから……きっとワズは、大変な目に遭うことになる。
それを分かっていないから、あんな容易くついて行くなんで選択を取れたのだ。
(ま、無理やりでもついて行くって選択をしたのはワズ本人だシ。自業自得ダ。こっから先はオレにゃ関係ねぇーナ)
ガガはそう心の中で呟いて、アッサリとワズのことを忘れ去る。
もう、ここで共に暮らしていた元居候は彼の中で過去の存在となった。こうして簡単に忘れ去られるのも、ある意味は一種のしっぺ返しなのかもしれない。
「さーテ。今日も頑張るかァ〜」
そう言ったガガは煙草の残りをテーブルの上の灰皿に押しつけて消し、紫煙をふわりと吐き出した。
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