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俺、ソフィアの中で……元婚約者より大切な存在になってるっぽくね?(byレイン)


お久しぶりです〜。生きてます〜。

相変わらずのスランプもどきです〜。亀の歩み更新ですが、気長にお待ちください〜。

※タイトルは、本話を読むと意味が分かる。


【お知らせ】私の他作品である「伯爵令嬢はヤンデレ旦那様と当て馬シナリオを回避する‼︎」がコミカライズしました。わーい(⌒▽⌒)ノ

本作含め、そちらも楽しんでいただけたら幸いです!

それでは今後とも〜よろしくどうぞ〜!


島田莉音


 





 この旅の、主目的メインは駄女神へのクレームだ。

 そのために、神と話すことが出来るという巫女がいる神聖国へと向おうとしている。


 しかし、神聖国は周りを海で囲まれた島国であり……かの国へと向かう船は、竜が統べる国からしか出ていない。

 つまり、まずは竜国へと向かう必要がある。


 竜国は菱形に近しい形をしたこの大陸の、最北にある国だ。

 トトリスは大陸の中でも南西、一辺の真ん中辺りにある国なので、それなりに長い旅路になる予定だ。

 道中の安全確保のため、或いは()()()()()()()()物騒な国へと様変わりしてしまう竜国へと向かうためには、先に万全の準備をする必要がある。


 という訳で……カリス観光の翌日。

 ソフィアとレインは冒険者ギルドでドワーフの国かエルフの国へと向かう依頼がないか、吟味していた。





「まぁ。そんな都合良く依頼が出る訳ねぇわな」


 依頼掲示板の前に立ったレインは、肩を竦めながらそう呟く。現在出ている依頼は近隣の魔物討伐や素材集め、ちょっとした雑用程度しかない。

 同じように掲示板を見ていたソフィアは彼の方を見ると、首を傾げながら質問した。


「それでは、普通に行ってしまいます?」

「そうだなぁ……そうすっか。じゃあ、ドワーフとエルフ、どっちから行くーー」

「つかぬことをお聞きしますが……貴方が、レイン様でしょうか?」

「………ん?」


 声をかけられて、レインは振り向く。そこにはギルド制服を着た青髪の女性が立っていた。彼女はにっこりと笑いながらも、猛禽類を思わせる鋭い瞳でレインを見つめている。まるで獲物を見つけた狩人だ。

 それを見たソフィアは心の中で呟いた。


(あっ。嫌な予感ですわ)

「私、当ギルド職員のルーサと申します。先の護衛依頼では私の妹が大変お世話になったみたいで。ありがとうございました」

「………妹?」

「えぇ。《獅子の牙》の魔法使い、ルルが私の妹なんです」


 そう言われてみれば、確かに似ている気がする。

 ルーサはにっこりと笑いながら、レインに一枚の紙を差し出した。


「レイン様に指名依頼が入っております。依頼主は鍛治師ガガさんです」

「………ガガから?」

「はい。なんでもドワーフ王国にいらっしゃるご両親にお手紙を届けて欲しいのだとか」


 それを聞いたソフィアとレインは目をパチクリとさせる。

 まさか昨日の今日で、ガガからそんな依頼を受けるとは思わなかった。だが、今の状況では都合が良い。


「ですが、本依頼はレイン様のランクに見合わぬ依頼だと当ギルドは判断しております。ですのでーー」

「ソフィア」

「えぇ、構いませんわ」

「その依頼、受けた」

「…………」


 ーーピシリッ。

 話を遮られたルーサは笑顔で固まる。

 その姿に、ソフィアは〝なんかどこかで見たことがある反応ですわね……?〟と、心の中で首を傾げる。


(あっ。レインと初めて行ったギルドの受付嬢ですわ!)


 記憶を探っていたソフィアは、急に思い出したパート支部の受付嬢(※名前を忘れた)を思い出して、ハッとする。

 彼女はレインの女難を初めて実感させられた相手だったので、記憶に残っていたのだ。名前は忘れてしまったが。

 道理で既視感がある訳だと、ソフィアは納得顔になった。


 余談だが……。

 この時、当の受付嬢は「ぶぇっくしょーーいっ!」とおっさんみたいなくしゃみをして、「誰か噂してるのかなぁ……」なんて呟いていたのだが、遠く離れた地にいるソフィアは当然のことながら知る由もなかった。

 閑話休題。


「…………」


 笑顔で固まったルーサは、暫くそのままだったが……ハッとするとレインの返事に応じる。


「……畏まりました。では手続きを行いますので、カウンターへどうぞ」


 ルーサに先導されカウンターに来た二人は、依頼の受付手続きを行う。

 若干、イラついてる気配がしたが……ソフィア達は敢えてそれを無視した。


「はい、受付が完了しました。詳しい話はガガさんから直接お聞きください」

「あぁ。それじゃあ早速ーー」

「!? ちょっとお待ちください!」


 と、早速ガガがいる鍛冶屋へ向かおうとしたレインがソフィアの手を取ったところで、声をかけられる。

 二人は怪訝な顔で、ルーサの方を向く。

 彼は心底不思議そうな顔をしながら、首を傾げた。


「まだ何かあんのか?」

「あの! お礼をさせてくださいっ!」

「…………はぁ? お礼ぃ?」

「はい! 先の依頼では私の妹が大変お世話になったようで! 是非、お礼をしたいのです!」


 そう言って目をギラギラさせるルーサに、レインはドン引きした。

 なんて言うか……圧が怖い。魔物並みに、圧が強い。とんでもなく鋭い目が怖い。


「いや……何もしてねぇから……」

「いいえ! 妹は大変勉強になったと言っておりました!」

「だから、お礼なんていらねぇって……」

「ですが、私の気が済みませんので!」

「いやいやいや!? 人の話聞け!?」

「お礼に食事に行きましょう!? 是非奢らせてください!」

「だぁぁぁ! しつこっっ! だ・か・ら・!! お礼なんかいらねぇから、食事にも行かなーー」

「是非っ!!」


 こちらの話を聞かず、しつこ過ぎるぐらいに食いついてくる彼女に、レインの頬が引きる。

 なんかもう、この時点で凄く疲れた。断っても了承するまで引かなそうだ。すっっっごく面倒くさい。

 ギリギリ本心を顔に出さずにいるレインを横目で見ていたソフィアは、彼の本音を察して同情したような目を向ける。

 そして、大きな溜息を零してから、その話に割り込んだ。


「止めて下さいます? レインが困っているでしょう?」


 急に割り込んできたソフィアの姿に、ルーサは険しい顔になる。

 彼女は今更気づきましたと言わんばかりの態度で、口を開いた。


「貴女は……確か、レイン様のパーティーの……」

「えぇ。レインの相棒、ソフィアと申しますわ」

「すみませんが、邪魔しないでくれます? 今、レイン様をお食事に誘ってるところでーー」

「まぁ! 邪魔だなんて……するに決まっているでしょう?」

「………………は?」


 彼女を見て「貴女は……何を言って?」と怪訝な顔をする。そんなルーサに、ソフィアは堂々と立ち向かった。


「可哀想に。耄碌してらっしゃるのね。わたくし達の腕にある証が見えませんの?」

「う、で……?」

「えぇ。新婚ですの、わたくし達」


 そう言ってソフィアは繋がれた手ーー自身の右腕とレインの左腕を上に持ち上げる。そこに刻まれているのは夫婦の証、花紋だ。

 それを見て驚くルーサに、彼女はにっこりと微笑んだ。


「人の夫を妻の目の前で、食事に誘うような女がいるんですわよ? 邪魔するに決まっているじゃありませんか」

「…………おっ、と……」

「えぇ。レインはわたくしの夫ですわ」


 その言葉に完全に動きを止めて固まるルーサ。三人のやり取りを面白がって野次馬していたギルド内にいた冒険者達も、流石にこれは驚いたようで……ギルド内が一気に騒つく。

 そんな騒がしい中ーーソフィアはスッと目を細め、隣に立つレインを見つめる。

 何の感情も宿っていない視線を向けられた彼は、ビクッと身体を震わせて……次の言葉を待った。


「レイン」

「はいっ!」

「浮気をしたら、切り捨てますわよ」


 ーーぞわりっ。

 背筋に冷たいモノが走ったレインは後に語る。

 怒られるよりも、虚無の表情を向けられた方が、怖かったですーーと。


「しません! ソフィアさん一筋ですっっ!!」


 手を握ったまま、本能に任せてその場に正座したレインは、鬼気迫る表情で宣言した。

 多分ーーソフィアはレインが浮気すれば、本気で切り捨てるだろう。

 そして……切り捨てられたら、彼女は二度と自分と会わないだろう。

 レインはそれを直感的に悟った。だからこその、正座+奥さん一筋宣言だった。

 ソフィアは、冷や汗を掻きながら真剣な目で見つめてくる夫をヒヤヒヤとしたーー否、ヒヤヒヤすらしていないーー無の境地に至った目で見つめる。

 その極寒ですらない視線の圧に、レインは無意識に生唾を飲み込んだ。


「でしたら……目の前だろうと、わたくしがいないところだろうと口説かれないでくださいます? その女、レインと既成事実作る気満々ですわよ? 貴方にその気がなくても……一線を越えようとする女と親しくするなんて、浮気と看做しますわよ」

「はいっ!! 二度と口説かれません!!」

「自分で浮気をしないと言ったのでしょう。脇が甘いのではなくて?」

「二度とされませんっ!!」

「よろしいですわ。次はありませんからね」

「合点ショーキチ!」


 と、そこまで言ったところでレインはハッと気づいてしまった。

 気づいてしまえばもう終わり。なんとか堪えようとしても口角が勝手に持ち上がってしまい……ニヨニヨと、笑顔を無理やり堪えようとするかのような微妙な顔になってしまう。

 そんな彼の顔を目の前で見たソフィアは怪訝な顔になる。眉間に皺を寄せながら、彼女はこてんっと首を傾げた。


「……なんですの。その、変な顔は」

「うぇ!? あ、あー……いや。なんでもねぇよ?」

「なんでもないって顔ではありませんけれど?」

「いや、マジでなんでもーー」

「レイン」

「うぃっす。答えます」


 たった一言。名前を呼ばれただけで負けたレインは気まずそうに……否、正確には照れたような顔で目を逸らす。

 彼はボソボソと、小さな声で呟いた。


「あー……そのさ? ソフィアは覚えてっか? お前の元婚約者が浮気しよーが、他に女作ろーがどうでも良いって言ってたの」

「………………確かに。そんなこと、言ってましたわね」


 そう言われて、ふと思い出す。

 彼の言う通り……ソフィアは元婚約者である王太子が、あの聖女と仲睦まじくしてようが。側妃として娶ろうがどうでも良かった。

 ソフィアの役目はあくまでも正妃として国王を支え、王の子を産み、育て上げること。政略結婚であるがゆえに、必要なことさえ成してくれれば他は何をしていようが構わなかったのだ。


「でもよー……俺に対しては浮気、許さないって言ってんじゃん?」

「………………」

「それって、俺には他所見せずに自分だけ見てて欲しいってことだろ? ソフィアの元婚約者より、俺の方がずっとお前の中で大切な存在になってるってことだろ?」

「………………………………」

「お前の元婚約者より好かれてるって気づいちまったから……嬉しくて思わず笑ってしまったと言うか。まぁ、そーゆーこったな」

「…………………………………………」


 それを聞いた彼女は無言で固まった。そのまま固まること数十秒。

 自分の無意識の発言を理解したソフィアの顔は、徐々に赤く染まり……最終的には涙目になりながら、レインを睨みつける。それはまさに照れ隠しでしかない。

 けれど、忘れてはならない。彼女は駄女神によって強制サバイバルを受けさせられた猛者である。

 つまり……。


「バッカじゃありませんのっ!!」


 ーーバチゴォォォン!!


「ぶべっ!?!?」

『っっ!?!?』



 ソフィアの本当の照れ隠しーーという名の平手打ちーーは……Sランク冒険者であるレインをギルドの壁にのめり込ませるような、威力を持っていた。



 ーーシィィィィン……。

 異様なまでに静まり返った冒険者ギルド。

 恥ずかしそうに顔を赤らめたソフィアは頭が壁に埋まったレイン(の身体)をキリッと睨むと、ビシッと指差して叫んだ。


「ば、馬鹿レイン! 先に行ってますわよ!」


 言うや否や冒険者ギルドから走って逃げて行く(?)ソフィアと、壁に取り残されたレイン。

 そして……その一連の光景を見て、黙ることしか出来なかったルーサと冒険者ギルドの野次馬達。


(えっ……この状況、どうしろとーー????)



 ルーサと野次馬達は、結構本気でビビりながらそう思うのだった……。




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