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港街カリス観光〜武器屋に来たよ編〜


だいぶ暖かくなってきた気がしますね!


急に暖かくなってきて、逆に体調を崩す方も多いかと思いますので……(多分、これから私も体調を崩します)

皆様もお身体を大切に、お過ごしください。


それでは今後とも〜よろしくどうぞっ!


 






 無事に服を入手したソフィア一行は、リーフの案内で武器屋へと訪れていた。




「この武器屋の主人はハーフドワーフでね。この街で一番、鍛治の腕がある人だと僕は思ってるよ」


 リーフはそう言いながら、少しボロついた建物の中に入って行く。

 はっきり言って、本当に武器屋なのかと不安になる外観だ。看板はないし、壁は色褪せているしで、周りの建物に比べるとそのボロ具合に目につく。

 しかし、この街を拠点にしているリーフが紹介すると言うことは、確かな腕を持つ職人がいるのだろう。先ほどの服屋も当たりだったのだから、所謂穴場(?)なる店なのかもしれない。

 ソフィアとレインは互いに顔を見合わせる。そして、覚悟を決めたように頷き合うと……同じタイミングで、中へと足を踏み入れた。


「まぁ……」

「へぇ……」


 中に入って一番に目についたのは、壁に飾られた沢山の武器だった。

 短剣、片手剣、大剣。斧や槌といった鈍器系統。槍も形が違うモノばかり。弓に至っては短いのも長いのもある。杖も多種多様だ。

 これを見れば、この街一番の鍛治屋と言うのも納得出来る。

 武器を見渡しながら、奥へと進むと……リーフは若い青年と会話をしていた。

 店員らしき赤毛の青年は現れたソフィア達に気づくと、驚いたように目を見開き、それから小馬鹿にするように鼻で嗤う。というか、実際に馬鹿にされている。

 ソフィアはスッと真顔になると、警戒心を全開にして……青年を見つめ返した。


「おいおい、リーフ。さっき言ってた武器を見繕って欲しい相手って……コイツらかよ。こんな冒険者らしいオーラも何もねぇ、初心者丸出しの奴に師匠の武器は勿体ねぇって。他の武器屋に案内してやりな」

「…………まぁ……」

「ふぅん………?」

「ギャァァァァァッッッ!?!?」


 ソフィアとレインの雰囲気が、静かに変わる。

 剣呑な光を瞳に宿し始めたのに気づいたリーフは、思いっきり悲鳴をあげた。

 ついでに、心の中でも叫びまくった。


(確かに〝武器を見繕って欲しい人がいるんだ〟としか言っていないけど……! レインさんの方に至っては時々、Sランクなのにそこまでぶっ飛んでないから忘れそうになるけど……! だからって、地雷発言、綺麗にブッ放すってどういうこと!?!?)


 そんなリーフを無視して、レインはにっこりと青年に笑いかける。勿論、隣にいたソフィアも同時ににっこりと笑う。

 しかし、二人の目は一切笑っていない。極寒零度だ。


「ひぃっ!?」


 自分に向けられた訳ではないのに笑ってるのに笑ってない笑顔を真横で見てしまったリーフはズササッと、その場から勢いよく後退する。

 反対に前へと出たレインはカウンターに肘をつくと……微かに首を傾げながら、青年に声をかけた。


「お前、名前は?」

「はぁ? そっちから名乗れよ」

「……ははっ、そかそか」


 レインが笑っていないことに、リーフだって気づくのに……目の前にいる青年はそれに気づいていないようだった。どうやら相当、鈍感らしい。

 レインはこれから、この男がどんな反応をするかを想像して、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる。

 流石の青年もその笑みには何か感じ取ったのか……怪訝な表情を返した。


「………なんだよ」

「はい、これ」


 レインは胸元のタグを見せつけるように持ち上げ、青年の目の前に突きつける。そこに書かれている名前もランクを見た瞬間ーー彼はピシッと動きを止める。

 そして……信じられないモノを見るような目で、レインの顔を見てくる。


「……………え?」

「俺、レインって言うんだわ。そうだな……Sランク冒険者って言った方が分かりやすいか? んで、こっちは俺の相棒のソフィア」

「えぇ、えぇ。確かに新米冒険者ですが、一応はBランク冒険者のソフィアですわ」

「……………んえ??」


 青年はレインと冒険者ギルドのタグを交互に見て、ソフィアを見る。

 そして最後に……思いっきり壁際に後退しているリーフへと、視線を移す。


「………リーフ?」

「本物の、Sランク冒険者です」

「………………」


 顔馴染みからの肯定を受け取った彼は無言で黙り込む。

 そのまま黙り込むこと数秒。青年は徐々に目を見開いていく。漸く、目の前にいる彼らが初心者じゃないと把握したらしい。

 そんな彼にトドメを刺すように……。


「んで? 誰が冒険者らしいオーラもない、初心者丸出しだって?」



 ーーレインはドスの効いた声で、そう問うた。



「………………ぷぎゅうっ」


 青年は変な鳴き声をあげながら、気絶する。鈍感な癖にチキンでもあったようだ。

 ソフィアとレインは真顔になり、リーフは〝ヤレヤレ〟と肩を竦めている。


「リーフぅ? コイツが、アンタが言ってた鍛治師か?」

「いえいえいえ。違います、コイツの名前はワズ。この鍛治屋の店番だよ」

「? 師匠とか言ってたから、鍛治師の弟子じゃねぇの?」

「いやいや、弟子って言ってんのはコイツだけで……鍛治師のガガは弟子だって認めてないよ。……依頼で街から離れてる間に正式に弟子になってたら、まぁ……弟子で合ってるだろうけど……多分、違うと思う……」

「…………だよな……」


 三人は目を回してぶっ倒れている青年、ワズをなんとも言えない顔で見る。だが、このままでもどうしようもない。

 さて……これからどうしようかと、なったところでガタンッと奥から音がする。なんだとそちらを見れば、髭を生やした小柄な男性が丁度現れたところで……男はソフィア達と倒れてるワズを見て、キョトリと目を丸くした。


「…………なんだぁ、こりャ」

「うわぁぁぁ! ガガ! 良かった! いた! というか、いるならワズじゃなくてガガが店先に出ててよっっ!!」

「ハァ? なんでだヨ……」

「おたくのワズがSランクに喧嘩売ったんだよぉ!」

「ブハッッ!?」


 リーフに涙目で訴えられた小柄な男ーーガガは、勢いよく噴き出す。

 慌ててソフィアとレインを見て、ついでに倒れている青年、ワズを見る。

 Sランクを詐称する馬鹿はいない。だって、もしもそんなことを知って本物のSランクに目をつけられたら……一貫の終わりだ。つまり、目の前にいる冒険者は本物ーー……。

 リーフの言葉が嘘ではないと理解したガガは「アァ〜……」とゴワゴワした灰色の髪を掻くと、申し訳なさそうな顔で謝罪した。


「どうやらウチの居候が馬鹿やったみてぇだナ。申し訳ねェ」

「……アンタがコイツの師匠?」

「師匠ォ? んな訳ねぇだロ。オレは一度だって弟子を取ったことはねぇヨ。こいつはウチに勝手に住み着いた奴で、勝手に店番やってやがるんダ」

「えっ。それ、良いんですの? 犯罪では?」

「…………まァ。飯の用意とか雑用してくれてるからナ。雑用としてなら認めてやるが、断じて弟子じゃねぇサ。なんせ、客の力量も見極められないアホンダラだからナ。例え分からなくても外見で侮る癖を治さねぇ限りは弟子にする気も起きねぇヨ」


 ガガは呆れ口調でそう言うと、凄まじく雑にワズを隅っこに転がす。

 それから「んデ?」とソフィア達の方に振り向いた。


「今日はなんの用デ?」

「あ、そうだった。ソフィアさんの武器を見繕って欲しいんだ」

「無理」

「無理ぃ!? なんでさ、ガガ!」

「あァ? 逆になんで分からねぇーんだヨ、リーフ。オレじゃ役不足だロ? 本場(ドワーフ)の国に行きナ」


 シッシッと追っ払うように言うガガにリーフは絶句する。

 しかし、ソフィアとレインは違った。

 この鍛治師は自分の力量では役不足だと、しっかり理解しているらしい。元々、ドワーフの国までの間に合せのつもりだったが……きちんと自分の腕前を分かっている鍛治屋で良かったと、二人は思った。


「ははっ、分かってらぁ。勿論、ドワーフの国に行くつもりだ。でも、その間武器がないのは少し心許ねぇだろう? だから、間に合わせの武器が欲しいんだ」

「………間に合せ、ねェ」

「………わたくし達の要望に、ご不快になりましたか?」

「いいヤ? 鍛治師としてちゃんと武器を提供出来ねぇ悔しさはあるが……《至高の鍛治師(ブラック・スミス)》ほどの鍛治師じゃなきゃ、アンタが使える武器を用意出来ないだろうからナ。当然だと思うゼ」


 そう言ったガガは悔しそうな顔をしながら、ソフィアに質問する。


「……お嬢ちゃん、使う獲物ハ?」

「拳ですわ」

「…………オ、オォ……(んなお淑やかな感じなのに拳なのかヨ……)拳ってことは、籠手ガントレットカ?」

「えぇ。こう見えてわたくし、力が強いんですの。ですから、壊れ難い武器が良いですわ」

「壊れ難いねェ……。ちょっと待ってナ」


 ガガは「ウーン……」と唸りながら、奥へと姿を消す。

 それから数分。戻ってきた彼の手には、鈍色の無骨な籠手ガントレットが握られていた。

 ガガはカウンターの上に籠手ガントレットを置いて、説明をする。


「コレ、習作なんだけどヨ。多分、これが一番壊れ難イ」

「そうなんですの?」

「オウ。ただ、本当に壊れ難いだけしか取り柄がなくてナ。付与魔法も付いてないし、属性耐性もない品なんダ。それでも良いって言うなら、コイツを渡すゼ」

「……どうかしら、レイン?」


 ソフィアは籠手ガントレットを手に、色々と観察していたレインにそう問うた。

 使用するのはソフィアだが、生憎と無一文の彼女にはこの武器を買うお金がない。よって買うのはレインになる。

 逆を言えば、彼のお眼鏡に敵わないなら、買ってもらえない。

 しかし、どうやらこの武器はレインの満足いく品だったらしい。彼はにっこりと笑いながら、バックパックから金を取り出そうとした。


「良いんじゃね? 習作にしちゃあ品質良いし。間に合せにゃ充分。という訳でそれ、買うぜ」

「ありがとさん、と言いたいところだガ……。言っただロ。コレは習作なんダ。練習で作ったモンで、金なんか取れねぇヨ」

「でも、店に置いてある武器とそう変わんねぇぞ? コレ」

「オレが客に売ると値しねぇと判断した武器を提供するんダ。絶対、金なんか取らねぇからナ!」

「うわぁ……この頑固っぷりドワーフっぽい……。仕方ねぇな……じゃあーー」


 レインはガサガサとバックパックを漁る。漁って、漁って、漁り続ける。


「ううん? どこぶち込んだんだっけな……?」

「何を探してますの、レイン」

「いや、ほら……ドワーフと言やぁコレって……おっ、あった!」


 レインはグイッとバックパックから酒瓶を取り出す。

 瓶に貼られたラベルを目にした瞬間ーーガガの瞳の色が変わる。


「ちょっ、待テ!! それハ……幻とされていルッ……!?」

「世に名を届かせる飲兵衛ジイさんもとい酒呑み老竜が作った……《酒竜印の蒸留酒》だ」

「ヒャッハーッッッ!! ドワーフを分かってるゥッ!! というかっ、本当に存在したのかヨ!! その酒ェ!!」

「これを金の代わりに渡そう」

「ありがとうございまスッッッ! 喜んで受け取りまスゥゥゥ!」


 ガガは再度「ヒャッハー!!」と言いながら、レインの手から酒瓶を奪い取り踊り出す。

 それを見ていたソフィアは顔面蒼白でレインに駆け寄る。


「ちょ、ちょっとレイン……!? 酒竜印のお酒って……世に出回るのは年に五本あるかないかとされる伝説のお酒じゃありませんの……!?」


 酒竜印ーーそれは酒を愛した竜が究極の酒を飲むために、自ら作り始めた酒のことである。自分のために作っているので、市場には滅多に回らない。

 しかし、その酒は今まで飲んでいた酒とは一線を画しているため……一口でも飲んでしまえば、その虜にならざるを得ないんだとか。そんな噂があるからか……酒好き達のみならず王侯貴族も酒竜印の酒を探し求めており、とんでもない値段の一品になっていると聞く。

 だから、王族ですら入手困難な麻薬みたいな酒を、丸々一本あげてしまうなんて……ソフィアは信じられない気持ちでいっぱいだった。

 リーフに至っては都市伝説レベルの話だったので、「酒竜印って存在したんだ……」と遠い目になるほどだった。

 だが、レインはそんな貴重な酒を渡したのに……その酒を全然惜しんでいる様子は見て取れない。それどころかなんてことないように、答えた。


「あぁ、いーんだよ。俺、まだ未成年だから、酒飲めんし」

「………(未成年……?)」


 この世界では国によって違うが、十八歳を過ぎれば成人扱いになるが……レインの前世の世界ではお酒は二十歳になってからだったので、彼は真面目にそれを守っていた。


「それに、ジイさんとは知り合いだかんな。頼めばまたくれるし」

「「「…………はっ?」」」


 ソフィア達の声が重なり、動きが止まる。

 特にガガはパカンッと口を開けて、固まっていた。


「ジイさんの酒に必要な材料集めに協力してるかんな。そのお礼に年に数本、融通してくれんだわ」

「………まぁ」

「だから、一本あげたところで構わねぇんだよ」


 ソフィアは真顔になった。

 どうやらレインは酒竜とも知り合いだったらしい。本当に驚きである。

 いや……(本当に何度も忘れてしまうが……)彼はSランク冒険者なのだから、これぐらいで驚いている場合ではないかもしれない。なんせ、Sランク冒険者も知り合いでいたら驚かれる側なのだから。

 兎にも角にも。ソフィアは心底心配しながら、ガガに声をかけた。


「ガガさん。そちらのお酒、王侯貴族も喉から手を伸ばしたくなるほど希少なお酒ですの。ここにあるって知ると武力行使で奪おうとする輩もいないとは限りませんので……お気をつけて」

「えッ」

「この忠告は冗談ではございませんからね」

「……………」


 ーーサァァァァァァア……!

 ガガは顔面蒼白になりながら、そそそっと奥へと酒を持って消える。

 ソフィアの忠告は嘘ではないが、それでも手放すつもりはないようだ。流石、酒好き種族(ドワーフ)





 とまぁ……こんな感じで武器を入手したソフィア一行は、一通り目的の場所を回り終えた。

 最初に集まった中央広場に戻ってきたソフィアとレインは、リーフにお礼を言う。


「今日はありがとな、リーフ」

「えぇ。ありがとうございました」

「いえいえ……この程度でお返しになったか分からないけどね。まぁ、他にも何かあったら喜んで手伝うから。気軽に声をかけて欲しいな」

「まぁ、気が向いたらな」


 その返事に〝本当に気が向いたらじゃないと声をかけてもらえないだろうなぁ……〟と察したリーフは苦笑する。

 レインはソフィアの手を取りながら、手を振った。


「それじゃあな」

「失礼しますわ。またお会いしましょう」

「あぁ、うん。じゃあね、レインさん。ソフィアさん」


 リーフに見送られながら、ソフィアとレインは帰路に着く。

 夕暮れ時の空を見上げる。同じように帰り道に着く者達とすれ違いながら。或いは、これから夜の街に繰り出そうとする者達とすれ違いながら。

 レインは掴む手を恋人結びに変えつつ、隣を歩くソフィアに質問する。


「んで? どうだった、初めての街巡りは」

「…………知ってましたの?」

「だって酒場とかも初めてだったじゃん? そりゃ観光もはじめての可能性高いじゃねぇーか」

「……まぁ、そうですわよね」

「それで? 楽しかったか?」


 ソフィアは考え込む。

 今日は初めてのことばかりだった。

 ふわふわのウサギに癒されながら食べた食事。着たことがないような服を着て、武器屋にも訪れた。

 それをどうだったかと聞かれたらーー……。


「……楽しかった、ですわ。とても」

「そか」

「はい」

「でもな、ソフィアさん? この程度で満足しちゃいけねぇーぜ」

「………え?」


 立ち止まったレインにつられて、ソフィアも立ち止まる。

 キョトンとした顔で見つめると、彼は笑いかけてくる。それはもう……晴れやかな笑顔で。

 秘密を教える子供のように、軽やかに告げた。


「世界はまだまだ広い。こんなのほんの一部だ。もっともっと楽しいことだらけだ。だから、これからも……いっぱい楽しませてやんよ」

「…………レイン」

「じゃねぇと今までの苦労と割に合わねぇかんな! 楽しまなきゃやってらんねぇぜっ!」


 結構、鬼気迫る表情でそう言ったレインに、ソフィアもハッとする。


「それは……確かに!」

「だろう!?」


 互いに真面目な顔で〝ウンウン〟と頷いていると……阿呆なことを言っていると自覚があるからか、その内、クスクスと笑い出してしまう。

 人通りが多くなってきた道で立ち止まっているからか、周りに変な目で見られるけれど、それでも笑いは止まらない。


「ふははっ。変だな、俺ら。立ち止まってまで何言ってんだか」

「ですわねぇ」

「まぁ、締まりが悪いけどよぉ。そういうことだからさ、これからも楽しんで行こうぜ。ソフィア」

「……えぇ。楽しませてくださいませね、レイン」

「おぅ!」


 そう言って二人は再度、歩き出す。



 それを偶々見ていた街の住人達は……「なんだこの甘酸っぱい感じは……」と赤くなったり、生温かい目で見ていたりしたのだが……。

 生憎と二人の世界に入ってしまっていたソフィアとレインは、それに気づかなかったのだった。








 ※ある意味、幸せだったかもしれない。周りに生温かい目で見られてたって気づいたら、恥ずかしいし。


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